第二百三十四話 ベルータスの所在
「これで全員か?」
これからフェルス皇国に向かいフェルドナージュ様に謁見する予定だが、温泉で誰が向
かうかを挙手で把握した。
集まったのはメルザ、リル、サラ、,ベルディア、ファナ、イビン、ニンファ、アネスタ
だった。
ベルドとシュウはミリルの新しい武器を確認するために修行中らしい。
ライラロさんとシーザー師匠からはまだ何の連絡もない。
イーファを戻す薬は婆さんが作成中だ。
「それじゃ行こう。ラートもいるはずだよ。戻ってきて時間があったらルイン君の術を見
てあげるから」
『姉さん私のも!』
「ふふふ、構わないよ。まとめてみてあげるね」
「僕のもみてくれないかなぁ。才能とかあったりしないかなぁ」
「イビンはその前に体力をつけないとな。ルーンの町を走り込みだ! 昔は師匠に三夜の
町からジャンカの森を走り込まされたもんだ……想像したら吐き気が」
「ひえー、僕にはあんな怖い森、走れそうにないよ……」
「あんた、根性たりなすぎるっしょ」
みんなと会話しながらフェルス皇国へ赴く。
フェルドナージュ様が改良したのか、泉に入っても濡れないんだよな……何をどうした
らこうなるんだ?
考えても仕方が無いので気にせず早速全員でペシュメルガ城を目指す。
かなり目立つ団体だが、そこまで興味は持たれない。
しいて言うならたまに黒星の弟子って聞こえるくらいだ。
しばらく歩いて到着した青銀色の城は、相変わらずの美しい外観を誇っている。
「久しぶりだな。ちゃんと修行は続けているか?」
「ベルローゼさん! お久しぶりです。ちゃんと続けてますよ、地獄を」
「あの程度で地獄と言ってもらっては、タルタロスに笑われる」
「誰でしたっけ……それよりも謁見にきました。ベルローゼさんはいつルーンの町に
お戻りで? 新作のスタッフィーパイを焼いておいてあるんですけど」
「……今日向かう予定にした」
「そ、そうですか。場所はマーナに聞いてください。それでは」
「うむ、早速向かうとしよう」
今からいくんかーい! どんだけ食いたいんだよ。まぁいいや。
重厚な城門を開き奥へと進むと、謁見の間に入る前にフェドラートさんがいた。
だいぶお疲れのご様子だ。
「フェドラートさん、お久しぶりです。かなり疲れてるように見えますね……」
「みなさんお久しぶりです。連日任務と尋問で顔を出せずすみません。メルザさん、ボタ
ンを掛け違えてますよ! まったく」
「お? わりーわりー、気づかなくてよ。ルイン、直してくれ。義手の調子が酷くてよ」
「戻ったらニーメに見てもらおうか。しばらくは俺がメルザの手になるから」
「いいなーメルザ。ルインは本当にメルザへはとことん優しいのよねぇ」
『ねー』
ぼんっと赤くなるメルザ。一応全員に優しく接しているつもりなんだがなぁ。
メルザが特別なのは間違いないんだけど。
「謁見の準備が整いました。皆さんくれぐれも粗相のないよう」
「イビンとニンファは俺の後ろだ。威光が強すぎてきついだろう」
「う、うん。そうするね」
「はぁ……緊張しますわ。妖魔の皇女様に会えるなんて、おとぎ話みたいですの……」
「いやぁ、温泉で会えるけどな」
「そうなんですの? あの場所なら毎日通ってもいいですの!」
全員を従える形で前を進む。今日はカドモスとピュトンがいないな。
昼寝中か?
「フェルドナージュ様。お目通り頂き有難うございます。また、外出中につき、お会い出来ず
申し訳ありませんでした」
「顔を上げよ。其方は童にとって最大の腹心が一人。他のもののようにこうべを垂れる必要は
ない。以後は手構えで挨拶せよ。呼び出したのはこちらじゃ」
「有難き仰せ。しかしこれがメルザへの手本となってたりしますので……」
「……それもそうじゃな。では引き続き上手く挨拶するのじゃ」
「はっ! ……さぁメルザ。修行の成果を見せるときだぞ」
「おう! フェル様、お目通り頂きました。ご馳走様でした」
「それは食事のときだ」
「有難うございました!」
「うむ、少し出来るようになったのうメルザ。よく頑張っておる。して……アネスタよ。
どうじゃルーンの町は」
「とても気に入りました。あちらで術を教えつつ、過ごそうかと考えております」
「まこと、羨ましいのう。童も毎日温泉に行きたいものじゃ。さて、余計な話はこれくら
いにして本題に入る。これより童はベルータスと決着をつけることとなる。しばらくは
フェルス皇国全妖魔を招集せねばならぬため、三日後にリルカーン、サラカーン、アル
カーン、フェドラート、ベルローゼ、アネスタを引き上げる。それとカノンも借り受ける
ぞ。こちらは本人の意思によるものだ」
「ベルータス……やはり生きていたのですね。一体どこに?」
「地上じゃ」
「っ! まさか……」
「ベルローゼの調べで分かった。円陣という都じゃ。なりを潜ませ残虐の限りを尽く
し、再び力をつけておる。厳しい戦いになろう」
「実はその円陣が俺の故郷ともいえる大陸に攻め入ろうとしているのです。それ以外にも
その国に常闇のカイナという組織が何か裏で暗躍しているようです。手分けして対処にあ
たる必要がありますね……」
「うむ。そこでじゃ。実力を伸ばしたメルザの力を借りたい。童の元でなら安全を保障で
きよう。傍らに置き、邪剣の飛躍を図りたい」
「ルインはどうするんだ? 俺様ルインと離れたくない……」
「メルザよ。前にも言うたはずじゃ。其方が強くならねば、こやつを守れぬ。一緒にいれ
ば成長の妨げになる。辛抱せい」
「……わかったよ。俺様がまだまだ弱いからいけねーんだ。頑張らないと……」
「……メルザをよろしくお願いします。それにそちら側のメンツを考えれば心配はいらな
いと思う。むしろこちら側だな、心配なのは。ジムロと常闇のカイナを相手にどこまでや
れるか……後はライデンの件もあるな」
「どちらも気が抜けぬ戦いになるだろう。ベルータスだけは確実に仕留める必要がある。
こちらが先に仕留めれば合流しよう。そちらの一件が先に片付くのであればこちらへ合流
して欲しい。よいな?」
「はい。こちらは相手の切り札と思われる、王女ニンファを奪還しています。かなり有利
に事が運べるかと……」
「ニンファ・ウルトリノと申します。初めまして皇女様」
「ほう、何とも愛らしく美しい。礼儀正しく品もある。さらに特殊な力も感じるのう」
「まぁ、嬉しいですの。フェルドナージュ様のお美しさにはかないませんわ」
「ふふふ、世辞はよい。しかしルインよ。其方どれほど美しい娘を集めれば気が済むん
じゃ」
「いえ、俺が集めてるわけじゃ……といっても仲間が全員強面のオッサンとか怪物なら
謁見には連れて来れないかなー……ある意味凄い集団になるけど」
「それもそうであった。たまにはよい美男子を連れて来ても良いのだぞ? リルのよう
に……うん? そっちにまだ何かおるようじゃが」
「ひえーー! ご免なさい、殺さないでください!」
「落ち着けってイビン……こいつはイビンていう奴で、少し臆病なところがあるけど根
性はあります」
「ほう。お主にしては変わった奴を仲間にしたのう。まだまだ経験が足りぬようじゃな」
「ええ。今後は鍛えて立派なルーンの兵士にしてみせますよ」
「ぞぞーっ」
「さて、それでは戦前に童も温泉に向かうとしよう。カドモス、ピュトン!」
「あれ、いませんね」
「……あやつら、余程温泉が気に入ったらしく最近勝手に向かうのじゃ。困ったアーティ
ファクトよのう」
……国を滅ぼしそうなアーティファクトが勝手にルーンの町にきて温泉に浸かってもそ
れはそれで困るんだけどな。
「では其方たちも共に参ろう。フェドラートよ、しばしルーンの町で骨休めするがよい」
「はっ、有難き幸せに存じます」
三日後にしばらくメルザたちとお別れか。今後の動きを検討しないと。
たった三日しか一緒にいられないこともあり、その日はみんなで寄り添いながらルーン
の町へと戻っていった。




