第二百三十二話 薬が出来るまでに
ようやく円環の糸を入手して戻る途中、シュウの位置が三夜の町であることを確認し
て、ルシアに三夜の町へ寄ってもらった。
「ムグー、ムグググーグ! ムグーー!」
「シュウ、上手くやってくれたんだな。さすがだよ。そういえばライラロさんは?」
「この装備のお陰だよ、ルイン。こちらが王女ニンファ様。ルーンの町へ入る許可を。
ライラロさんはシーザーさんの後を追ったよ」
「そうか……ここも安全とはいえない。すぐにルーンの町へ向かおう。念のため姿は消
してくれ」
「ムグー、ムグググーグ! ムグーー!」
「分かっている。ここまで誰一人として目撃させていない」
「今後もアイドスキュエネイはシュウが使ってくれないか? 頭装備は妖魔装備にして
おきたいんだ。せっかくの装備が宝の持ち腐れになってしまうし」
「いいのか? アーティファクト装備だろう?」
「ムグー、ムグググーグ! ムグーー!」
「いいさ。俺の仲間がより上手く使ってくれればその方がメルザも喜ぶしな」
「おう! 俺様もカッコよく消えてみたいけどシュウの方が消えたらかっこいいしな!」
「ええ、とっても恰好良かったですわ!」
「ムググググーー!」
おお、王女様にも好反応じゃないか。何か封印のイーファがもやもやしてる気がする。
そしてさっきからずっと袋詰めの生物が騒がしいな。
「なぁルイン。その袋には何か生物でも入っているのか?」
「ニンファも気になってました。中身は何ですの?」
「気にしないでくれ。イーファいわく、悪い虫らしいのでこうするように指示を受けた。
それより今は早く戻るとしよう。ルーンの町にいると位置の反応が無くてよく分から
ないけど、みんなの位置反応が無いってことは、ルーンの町に戻ってるってことだろう」
ルシアのルクシール、ヴァイスに乗り込むと、急ぎ三夜の町を後にする。
ニンファを連れた俺たちは、数日振りにルーンの町へと戻って来た。
どうやらみんな一足先に素材を手に入れたようだ。
ファナとマーナとココットが迎えに来てくれた。
「おかえりなさい。フェルドナージュ様が先日来ていたとカカシから伝言があるわ。城へ
来て欲しいそうよ」
「マーナからはアルカーンさんからの言伝だよー。部屋へ取りに来いって」
「ココーット! こここっ!」
「分かった、有難う。ココットはそれを言いにきたのか? 可愛いやつめ! よしよし」
「いいなー、マーナもーー」
「なら私も……」
「えっ?」
「冗談よ、うふふ。それよりそちらのお姉さんは……まさか何処かで口説いてきたわけ
じゃないわよね」
「初めまして。ラートの姉でアネスタよ。よろしく、素敵なお嬢さん」
「あら、あなたが……本当に素敵なお姉さんなのね。羨ましいわ、私、姉が欲しかった
から」
「私が姉代わりになってもいいよ。えーとファナだったかな。まだ町に来て日が浅いか
ら案内してくれると嬉しいんだけど」
「ええ。サラとベルディアも紹介するわね。行きましょう、その……姉さん」
「うふふ、楽しみだね。有難うファナ」
やはりアネさんは偉大だ……あっという間にファナを手懐けてしまった。
どうかファナ、サラ、ベルディアの三人をよろしくお願いします。
……あれ、イビンがこっちへ来たな。
「うわあーー! ルイン、助けてよーー! 怖いお姉さんに殺されるよぉーー!」
「ふざけるんじゃねぇ! 誰が肩揉むの途中で止めていいっていったこらぁーー!」
「おおセフィア! 俺を迎えに来てくれたんだな、飛び込んで来いー!」
「ああん? てめぇルシア! 憂さ晴らしさせろコラァ!」
蹴り飛ばされるルシアは泉にどぼーんしたが凄く幸せそうだったので放置しておく。
メルザがルシアをつんつんしにいったがそっちも放っておくことにした。
「イビン、丁度良いとこに来た。リルも疲れただろうからこいつを代わりに持ってってくれ」
「ムグー、ムグググーグ! ムグーー!」
「な、なにか入っているの!? この中に」
「あー、うん。そうだな。悪い虫……ていうと怖がるからムググ族の族長だ。よろしくな」
「ムググ族? よく分からないけどルインの頼みならちゃんと持つよ! ……結構重い
なぁ」
「他の薬の材料は集まったのか? 婆さんはいるかい?」
「うん! 大変だったけど僕も頑張ったよ! ルインたちも無事手に入れた?」
「ああ、こっちも大変だったが手に入れたよ。薬の製造には時間が掛かるよな。アルカーン
さんの下を訪れたら、俺は妖魔の国に行ってくる。お前も行くか?」
「いいの? 僕も行ってみたい! 妖魔の国かー、どんな場所なんだろう」
「地上より幻想的なところだ。俺にとっては第二の故郷みたいな感じだ。随分と世話になっ
てな。フェルドナージュ様に謁見予定だが……びびりすぎるなよ? 怖くなったら足を見る
んだ。美しいから恐怖が少し消える。恐怖耐性用に俺が前にいるからな」
「ぞぞーっ そんな……僕行くの止めようかな」
「大丈夫だって。慣れておけば大抵のモンスターが怖く無くなる」
「本当!? よーし頑張るぞぉー!」
イビンと会話しながらルーンの安息所を目指す。
中にはハーヴァルと一足先に向かったニンファ、シュウ、リルがいた。
ミリルもアネスタと共に町の案内へ同行したようだ。
「あれ? 婆さんは?」
「温泉に行ったぞ。ルイン、急過ぎたお陰もあってちゃんと言えなかったが、改めてお前
らと今後正式に活動したい。このハーヴァルとセフィア、存分に使ってくれ」
「ええ。ハーヴァルさん程の盾がいると助かります!」
「……この際だから言っとくが、俺は盾専門じゃないぞ?」
「違うんですか? あのヘインズの盾は見事の一言なんですが」
「お前さんにはあれしか見せてないもんな……はぁ。それよりセフィアは何処だ? あん
まり離れると俺死ぬんだが」
「泉の辺りですよ?」
「げっ! このままだと死ぬ! 行ってくる!」
急いでセフィアさんの下へ向かうハーヴァルさん。
本当に苦労人だよな……かわいそうに。
セフィアさんは怖いけど優しいからメルザの面倒を見てもらいたいな。
よく似てるし。
また新たにメンバーが増えた幻妖団メル。
ガーランドを脱退して正式な活動を行えるのはもう少し先だろう。
「リル、シュウ、イビン、それから王女様も温泉に行こうか。ムググ族は危険だから置い
ておこう。確か水着があったよな、マーナ」
「うん、マーナが作ったの! 見てみて!」
「まぁ、可愛いですわ。ニンファのサイズ位ですの。着てもいいのかしら?」
「いいよ! 王女様をエスコートなんて憧れだよ! お友達になってね!」
「いいんですの? ぬいぐるみとお友達なんて感激ですの! 色々な方がいて素敵な町で
すの。ここをお城に出来ないかしら」
「なるほどそういう手もあるな……考えておくか。それじゃ行こうか」
「ムグーーー! ムググググ!」
「今お前覗かせろって言わなかったか?」
「……ムグ」
「はぁ。ちゃんと留守番してろって。後で出して説明するから」
「ムグ」
大人しくなった。観念はしたようだな。
王様を戻すまではそのまま大人しくしていてもらわないと。
――みんなで温泉に着くと、体を洗い湯舟に浸かる。
やっぱ長旅の後の温泉は身体にしみるね。
けれども湯舟には既に……骨、カカシ、土偶、パモそして外に出した青銀スライムにミ
ドー。
そうそうたるモンスター温泉でした。
最近ではココットも小さい桶にお湯をいれて浸かっている。
錆びないのか? こいつは。
イビンとリル、シュウそしてベルドも肩まで浸かり、極楽気分だ。
ベルドはかなり前から入っているのか大分のぼせている。
「殿方とお風呂に入るのは恥ずかしいですの……」
「マーナはもう慣れたよー。乾かすのが大変だけどね。王女様もすぐ慣れるよ! 他にも
大勢女の子がくるよ! みんな温泉大好きだし」
「確かにこれは気持ちいいです。気に入りましたの!」
「あら、みんな先に入ってるのね。ずるいわ、ルインを独り占めして」
「お帰りなさーい!」
「ずるいっしょ! 先手必勝!」
「うふふ、そんな風にしたら殿方に嫌われてしまうよ。こうしなやかに挨拶するのが基本」
「はーい、こうかしら?」
「わたくしも頑張って覚えますわ!」
おお、風呂場に来ると直ぐ暴れるサラとベルディアをもう手綱をつけた!
すげぇ! 一生ついていきます。
ミリルは十分出来ている気がするんだがなぁ。
シュウ殿がカチコチになっている。
無理もない、堅物だから女性とお風呂なんてなぁ……でもここは男女兼用しかなくなっ
てしまったんだ……俺も一人で入りたいよ。
「おいてめぇら! 俺たちをおいて先にいくたぁふてぇ野郎共だ!」
「そーだそーだ! 俺様置いてくなんて! 親分だぞ!」
「はぁ。温泉は癒されるが一人で入りたいもんだな」
「あれ、そーいや婆さんは?」
「こっちじゃ。騒がしくなったのう。若いもんは元気が有り余ってていいもんじゃ」
「薬の材料は揃った。ルーンの安息所に置いてあるから、無理せず作ってくれると助かるよ」
「ああ、任せておけ。わしをこんないい場所へ連れてきてくれて有難うよ。余生は此
処で過ごさせてもらいたいのう」
「ずっといてくれて構わないよ。たまに薬とか作ってくれると助かる。それにカカシの話相手
とかな」
「もうやっとるよ。ここで薬屋や水術を教える役をやるつもりじゃ。そこのファナには既に幾
つか魔術を教え始めておる」
「そうなの! 今度ルインに見せるからね」
「はぁ? 私にも教えてよお婆さん」
「あんたは適性ないっしょ。教わるなら私が」
「あんたは調べてすらいないでしょ?」
次々と会話が飛び交う。
うちの幻妖団メルは女パワーが強すぎます。
男は黙って腕を磨け……か。
「そういやサラ。ベルローゼさんはどうした? 」
「フェドラートと任務中よ。そろそろ戻っている頃だから城にいるわね。忘れてたけど報
告があるの……」
「近づかなくてもその場で聞こえるぞ」
「ダメよ、耳を貸して……ペロリ」
「うわぁ!」
「何してるっしょ! この抜け駆け既成事実女!」
「ふっふっふ、先手必勝よ!」
「妖陽炎以来油断していた……」
「はぁ。サラは相変わらずだね。困った妹だよ」
「それで報告って?」
「ベルータスの部下一人が死霊の館にいたの。捕らえて尋問しているわ。フェドラートが
ね」
「確かにフェドラートさんの術はそれ向きだもんな。メルザから乱術ってのを使うって聞
いたけど」
「後は直接本人に聞いてみて。私とカノンは先に帰されたから」
「そういえばカノンはどこだい?」
「人が多くいる場所は苦手だから、後でリルに会いに行くっていってたわよ。のろけすぎ
よお兄ちゃん」
リルの顔がかぁーっと赤くなる。
のぼせたことにしておくぞ、友よ。
「さて、それじゃそろそろアルカーンの下と、フェルドナージュ様の下へ行ってくるとし
よう」
『私も行くわ!』
「僕も行こうかな。妖魔の国が騒がしくなるならこうしてはおれないし」
「その、ニンファも連れて行ってもらえませんか? 他の国の皇であれば謁見しておきた
くて」
「ああ、他に行きたい者はいるかい?」
何人かの手があがる。先にアルカーンの下へ行くので、支度をして泉の前に三時間後集
合するようにした。
見晴らしのいいルーン時計が出来て、待ち合わせが本当に楽になった。




