第二百二十九話 銀企鵝の偵察
「妖雪造形の術・銀企鵝」
「うおおおーー、ペンギンだ!」
思わずテンションが上がり叫んでしまった。
アネスタさんは雪でペンギンを二体生成した。すごい、この妖術俺にも使えないかな。
後で聞いてみよう。
「あの木周辺の探索を。よろしくね」
「ウェーイー!」
「しゃ、しゃべった! しかもウェーイーって!」
衝撃を受けすぎた。これ以上可愛さをアピールされると鼻血が出てしまう。
飼いたい! パモも可愛いけど飼いたい!
「あの術、凄すぎるねぇ。便利なだけじゃなく外見も美しい」
「僕、模倣出来ないんだよね、あれ。難易度が高すぎるんだ、アネスタの術は」
「いいなー。俺様もああいう可愛いの招来してみたいぞ。でっけー鳥とか
蛇だけじゃなくてよ……」
「俺もだ……癒しのパモはいるが、パモに行け! するわけにはいかないしな。ミドーは
偵察用じゃないし、でかすぎる」
「ルイン君にはもしかしたら適性があるかもしれないよ。町に戻ったら詳しくみてあげるね」
「本当ですかアネさん! やったー!」
思わず大はしゃぎしてしまう。
しかし! あんな偵察能力がそう簡単に手に入らないことは重々承知している。
俺が呼び出したとしたらきっと、ダハダハ笑う骨のような者になるのだろう。
いや決してレウスさんのことではない。
「もう戻ってきたみてーだ。すげー早い。なんか雪を吐き出しながらお腹で滑ってるぞ!
器用だなあいつ」
「ふふっ。ああいう可愛い生き物を見ることが出来れば、違うのも作れるんだけどね」
「つまりモラコ族やパモも……ごくりっ」
「君の頭の中は刺激に溢れてそうだから楽しみだね。アルカーンが町に居つく位だし」
「ウェーイー!」
「ご苦労様。あの中で間違いなさそうよ。一匹はやられちゃったみたいだから敵がいるわ
ね。さっきのアダマンカイコが沢山いるみたい」
「よし、進もう……少し触らせてもらっていいですか?」
「いいよ。もう少ししたら消えちゃうから可愛がってあげてね」
遠慮せず可愛い雪ペンギンを堪能した。
片手を挙げて「ウェーイー」といいつつすーっと消えていってしまった。
「君は本当に可愛い動物が好きなんだね。何れ町が動物で埋め尽くされるんじゃないか
な」
「すでにモンスター牧場ならあるだろ? 俺様あそこ好きだけどよ」
「そうだったね……はぁ。妖魔としては複雑な気持ちだよ。僕らの力はモンスターの力を
内に秘めて戦うのに、自由に放出するなんてね」
「忘れてた! ジオ、封印解除してくれ」
「そうだったねぇ……封印術、陰徳陽報!」
「なっ! ……何ともないな相変わらず」
「……変な体質だよねぇ、君」
外していたトウマさんを見ると……おお、戻ってる!
「ちょっとトウマ出していいか?」
「え? 何だいそれは」
確認を待たず、目の前のスペースにトウマを呼び出した。
ズズーンとジオの目の前に巨体が現れて、みんな絶句する。
「相変わらずでけーなー、こいつ」
「すんごい可愛くなってたから、そのトウマも捨てがたかったんだけどな」
「本当に呼び出せちゃうんだね。確かに妖魔の常識外だ。うふふ、素敵だね」
再びトウマを戻して絶好調になった感じがする。
ジオに円月輪を返し、十分準備を整えた俺たちは、群生する木々の中で最も大きい木に
近づく。
確かに木の下へ続いている道がある。
人為的というより動物的な道だ。
アダマンカイコが掘ったのだろうか?
「明かりはないか。火だと危ないかな?」
「光斗、これでいいか?」
「……メルザ、そんなことまで出来るようになったのか」
「ああ、フェド先生に丁寧に術の使用方法教わったんだ。ライラロ師匠から基本はべん
きょーしたんだけど分かり辛くてよ」
ライラロさんの教え方は容易に想像がつく。
フェドラートさんは諭すように一つ一つ教えてくれたんだろうな。
お返し、ちゃんとしないとなー……。
「ラートは教えるのが上手なんだよね。姉としても誇らしいよ」
「いつも大変お世話になっていて、頭が上がりません。感謝してます」
「僕には教えてくれないんだよなぁ。何でだろう?」
「それはリルが幼馴染でマイペースだからだろ?」
「そうかなぁ。仲は悪くないけど。彼は優秀で忙しいからってのもあるのかな」
と話していると奥からターゲットに反応が沢山あった。
ここからは乱戦になりそうかな……メルザは光斗で手一杯だ。
「前方から複数反応。数は多すぎて把握出来ない。直線で撃てる技とかあるか?」
「それなら僕の円月輪かねぇ。君、これ使ってみたかい?」
「ああ。役に立ったよ。使ったのは海水だけどな」
「一応色々な術と合わせて使うと面白くてねぇ。封印の中に念動力を使う者がいるんだろ
う? その能力者を出してもらえるかい?」
「わらに用なのか? 人間」
「おっと、嫌わないでくれよ。この円月輪を念動力で浮かせて対象にぶつけて欲しい」
「いいだろう。いくぞ。念動力、円月輪!」
ジオの手から離れた円月輪が宙を浮く。
持ち手から大分離れていったそれに、何かしらの術を付与しているようだ。
本当に器用だな。
「既に切れ味が鋭すぎるから気を付けてねぇ」
円月輪はシュルシュルと回転して前方に飛んでいった。
切断されるような音が沢山聞こえ、ターゲットに反応が無くなった。
「今のは風術を広がるように付与したのさ。持ってると自分がバラバラになるからねぇ」
「それで、円月輪はどこに?」
「……多分あっちに」
先に進むと沢山のアダマンカイコが切断されていた。
固いこいつらを一発で切断し尽くすのは大した威力だ……が。
「円月輪、バラバラだよ?」
「しまったねぇ。威力を上げすぎた。僕が使う武器は大抵すぐ壊れるんだよねぇ」
「アーティファクト、持ってないのか? 王子なのに」
「そんな簡単に手に入るわけないよねぇ!? アーティファクトだよ?」
「あー、うん。そうだなー。手に入らないなー。はっはっは」
年月は掛かるがそんなやばいものを作れてしまう奴がいることは伏せておこう。
アーティファクトが手に入る洞窟があることも勿論伏せるべきだ。
少し落ち込むジオを放置し道なりに進む。
再びターゲットに反応。数は二。
「今度は俺がやっていいか?」
「ああ。君まだ封印してないでしょ?」
「補助が必要なら言ってね。それまではお手並み拝見してるよ」
「僕も実践の君がみたいねぇ」
「俺様も戦いてぇのになぁ……」
我が主に明かり役をすっかり任せてしまっている。
今後はそういった用途の道具も用意しないとな。
迂闊に火をつけてガスが充満してたらただじゃすまないし。
アドレスからカットラスを引き抜き身構える。
ジオに見せていいかどうか悩んだが、もういいか。
封印場所だけ指定しておいて相手が近づくのを待った。
十分引き付けた所で一匹をカットラスで一閃した。
確かに固い! 十分火力は上がったはずだが一撃では落とせない。
「剣戒!」
「っ! 」
並列にならんだ敵を真横からコラーダで串刺しにした。
プログレスウェポンを超越する火力が既にある……が持続して出しておけない。
すーっとコラーダは消えた。
「だいぶ使えるようになったな。二本揃うのが楽しみであろう」
「ああ。海底はまだまだ遠そうだ。地上でやる事を済ませないとな」
「君、その剣……まさかイーファ様の剣じゃ!? いや、本当に持っていたかどうかも怪
しい伝説の……」
「気のせい……かなー。ほら、消えたし。消滅する剣なんて伝説にもならないだろ?」
「はぁ……まぁいいけどねぇ。僕もいつかきっと名剣を手に入れてみせるしねぇ。王とし
て相応しいものをニンファのために!」
「あ、ああ。頑張れ!」
もう一本どこかに封印されてることは、口が裂けても言えなくなった。
……と考えているとこの奥に何かいる気配がある。
いよいよ円環の糸に辿り着きそうだが、果たして無事手に入るのだろうか。




