第二百二十二話 運命の歯車
なんか、暖かいな。
天気のいい春の陽気に花粉のない世界でのんびり日向ぼっこしてる気分だ。
「日向ぼっこって?」
お日様の温もりを感じるんだよ。
身体の芯から温まるんだ。
「へぇ。また君は面白いことを言うね」
そうかな。俺の前世じゃ常識なんだ。大人になってからはそんな暇、無かったけど。
「今の君でもそんな暇、無いんじゃないかな」
……そうかもな。なんか、懐かしい感覚だな……。
「そろそろ、起きれるんじゃないかな。セフィアさん、念通切るよ」
……念通? 念通って……あれ、どうしたんだっけ。
何してた、俺……俺はルイン。
そう、ルインだ。メルザ、メルザ……「め、る、……ざ」
「……私に膝枕してもらいながらメルザって酷いっしょ信じらんない」
「あ……れ? どこだ、ここ。ベル……ド?」
「その間違えはひどいっしょ。私、女っしょ、ほら」
「ちょ、やめ……胸おしつけるな!」
「関係ないっしょ。婆さんしか今他の女いないし」
「リル、助けてくれ。なんでお前は空中に浮いてうつ伏せで足を振りながら観察してるんだ」
「いや、なんかこうして君を見てると楽しくてね。調子はどうだい?」
「悪くないと思うけど、記憶が曖昧だ。俺たちジオに習ってそれで……」
「ルイーン! ルイン! よかった、起きたんだね! おかしくなってない?」
「おかしい? あれ、確か……イビン、そうだ! 俺たちは移動牢から落ちてモンスター
に……ぐっ」
「だから起きちゃだめっしょ、ほいっ」
「がはっ、せめてもっとゆっくり寝かせてくれ……ここ、どこだ? 建物の中だよな」
「ルクス傭兵団て奴らのアジトだよ。ルクセンブルクって言うらしい。君が連れてたお婆
さんも無事だよ。安心して。君は守り切ったんだ。今はゆっくり休んでいていいよ」
「ルクス傭兵団……? 知らないな。何で助けたんだ? ……そうか、俺は真化をしてこんな身体に」
「そう。全く無茶するね。彼らは君の中のイーファを見たらしい。王様を探す任務を受け
ててね。さっきドーグルの治療も終えて君の戦いっぷりを詳しく聞いたところさ。意識だ
けはギリギリあったらしい。鬼神が如き強さって言ってたけど。いったい君は誰の血を引
いた妖魔なんだろうね」
「さぁ、分からない。だが、まるでコントロール出来ていないんだろう。コラーダの扱い
も……剣術も、妖魔も、ジョブも。どれもまだまだだ」
「ルインは凄いよ。僕の憧れだよ! ルイン、僕ね、君のおかげで少しだけ変われたんだ。
お婆さんとベルディアちゃんを守ったんだよ!」
「何気安くベルディアちゃんとか呼んでるっしょ。ベルディア様って呼べ」
「僕の扱い酷くない!?」
「血だらけで倒れてるのを見てひやひやしたわい。年寄りをこき使うもんじゃないよ」
「婆さん済まないな。だが、無事に脱出出来て良かった。リル、ルーンの町へは戻れそうか?」
「いや、直ぐには難しいね。ここはドラディニア大陸らしいんだ」
「そういえばドラディニア大陸とキゾナ大陸は近いって話だったな。まさか二大陸を
渡ることになるとは思わなかった」
「僕も驚いたよ。あのルクシールという乗り物。光で見えなくさせることが出来るんだ」
光の屈折を応用したステルスってことか? そんな乗り物があるのか。
「……また何か難しいことを考えてるね、君は」
「やっぱ分かるか? ようやく色々思い出してきた。イビン、ベルディアと婆さんを
守ってくれて有難う。感謝する。あの状況、俺一人では守り切れなかった。お前を連れて
きて本当によかったよ」
「僕、決めたんだ。お願いだよルイン。僕の師匠になってよ。もっと強くなりたいんだ。
ルインみたいに。ううん、ルインより強くなるんだ!」
「弟子ねぇ。まだ早い気がするな。俺は未熟だ。だからシーザー師匠に習うべきだ」
「シーザー師匠?」
「ああ。ウェアウルフ族だが、優しくて恰好よくて勇ましい師匠だよ」
「ウェアウルフってあの……女性とべったり絡みついてるあの?」
「……なんだって?」
「実はここに来てるんだ。伝えて無かったね。ライラロさんもいるよ」
「ああ。じゃあその女性とべったりな方で合ってる。可哀そうだけど」
「えーーー!? あんな風なの見たら強そうにみえないけどなぁ」
「いや、同情してやってくれ。彼女が一枚……いや一億枚上手なだけなんだ……」
「確かに凄い人だったようにみえたなぁ。人の話をまるで聞かないというか」
その通りだ。初見でそこまで分かってしまうのは、ライラロさんのキャラ所以だろう。
……と考えていたらご本人が入ってきた。
「あら、起きてたの。あんたっていつも死にかけてるわね。少しはダーリンを見習いなさいよね」
「面目次第も御座いません。仰る通りです……」
「まぁいいわ。セフィアにお礼を言っておきなさい。結構やばい状態だったわよ。ハー
ヴァルと後でここに来るわよ。それよりベルディアちゃん。あの服本当に貰っていい
の?」
「いいっしょ。動きづらいしまじ恥ず。この服の方が好き」
「聖女のドレスなんてまさに私のためにあるような服よ! あれを着てハネムーン決定ね!」
「? それ僕が宝箱から入手したやつ……」
「あんたまさかそれ私に着せたっしょ? 変態!」
バチコーンと吹き飛ぶイビン。
そうだな、俺はこいつの迂闊すぎるところを直してやる師匠になろう。
「ところでライラロさん。なぜここに?」
「そうだったわ。ちょっと待ってね、役者が揃うから」
「よう、目覚めたか。化け物」
「ルインです。化け物はちょっと。あなたが団長さん?」
少し男っぽい雰囲気だが、綺麗な女性だ。
「れへへ。わらしもこっちでもういっぱい飲むれすからぁ」
「悪い、酒入ってるから吐く用意だけさせてくれ」
「どうも、ハーヴァルさんにセフィアさんもお久しぶりです」
「られぇー? わらしの愛しい子いないれすかぁ?」
「愛しい子だと!? おいてめぇどういうことだ?」
「あー、ややこしくなる! 今はその話はいいだろうが!」
この人数は話し合いに向かないんじゃないかなー。
とりあえず団長さんと話さないと。
「えーっとすみません。団長さんは王様を探しに来たっていうお話でしたがどうやって王
様がスライムだと?」
「苦労したぜ。常闇のカイナに間者を入れた。イプシオってやつが管理してるとこまで
突き止めたんだがこいつが行方不明だってんで連中の間じゃ騒ぎになってる。青銀スラ
イムを見かけたのは偶然だ」
「ルシアは信じられないくらい引きが強いんだよ。昔カードで散々負けたからな」
「おまけにお前らが依頼者の仲間だってんで報酬もほれ、この通りよ! いやっふぅ!」
なんかスカートを広げて喜んでる。あれが報酬でいいなら相当安くないか?
「もしかして王様を戻す手段とかも探せたりするんですか?」
「そっちはアグリコラってやつを探してる真っ最中でな。まだ居所はつかんでねぇな」
「わしを呼んだか?」
「ん? 婆さんはマァヤだろ?」
「マァヤ・アグリコラ。わしがそうじゃが」
「いやっふぅ! おいハーヴァル。セフィアもらってっていいか?」
「やめろ今動かすな。吐くぞ」
「呆れて物も言えないわ。どんな引きしてるのよあんた。でもアグリコラを助けたのはル
インよね」
「おいおい、そりゃあんまりだぜ。せめて靴下! それで手をうつ」
「仕方ない。ライラロ、お前さんの替えの靴下を後でくれ。新しいの買うから」
「はぁ。わかったわよ。それじゃアグリコラに詳しい話を聞きましょう」
俺は何時の間にか王様を戻すことが出来る人物を、救い出していたらしい。
運命って怖いものだな。




