第二百十四話 新しい術はどんな術?
第二百十四話から二百十六話までは別サイドの話です。
本編と全く関係無いサイドというわけではないので本編に含むか悩んだのですが
本編に入っております。
第二百十七話まで進んでしまってもいいかもしれません。
ルインたちがジオに戦い方を習い始めた頃、メルザたちは――。
「なぁフェド先生。俺様ってルインより強くなれるのかなー」
「どうでしょうね。彼は信じられない位強い力を持っていますから」
「フェド先生でもそう思うのか?」
「ただ単に力といっても妖魔として、剣士としてはまだまだですよ。才能はありますが」
「そうなのか? ルインはすっげー強いと思うけど。オペラモーヴなんて反則な強さだしよ」
「本当に強いのは心と想像する力。彼は以前目が不自由だったと聞きました。それ故に感
受性が高く、物を手に取りじっくりと考えて想像していたんでしょうね。それに大切な何
かを守ろうとするときの決断力。冷静な判断。そして何より凄いのは……死地から生きて
帰る運の良さでしょうか」
「俺様には難しくてよくわからねーけど、ルインが凄いのは分かるんだ。けどよ……運が
いいだけじゃいつかはやばくなるんじゃねーか?」
メルザはとても心配そうな表情をしている。
「その通りです。つまり私が言いたいのは……」
「俺様が強くなって守れ! って言いたいんだ! 俺様はわかる! 賢いからな!」
「いえ、あなた一人じゃありません。みんなで強くなり、彼を助けましょう」
「ああ! わかった!」
腕を腰にあてて足を開き、「にはは!」と大笑いするメルザを見て、フェドラートの
表情が怖い笑顔になる。
「ひっ……わわ、こうだった」
足を閉じて膝を曲げ、片方の裾をつかみ首を傾げて笑顔をとる。
ふぅ……とため息をつき、フェドラートの表情が戻る。
「あなたはその恰好で黙ってさえいれば実に可愛げがあるのですけどねぇ……それはさておき
メルザさん。あなたの術特訓を本格化しましょう。フェルドナージュ様の術を身に着けたのは
お見事。とてつもない才能を秘めているのも事実。ですがあなたはまだまだ知識不足、技量不
足、経験不足です。あまり期待出来ませんが、学園の術指導エリアに行きましょう」
「分かった! ファナがもうじき温泉から出てくるから、そしたら行こう!」
「そうですね。彼女の秘術は何でしょうか。あなたの秘術も一つではなく幾つもあるように思
えてならない……ある意味フェルドナージュ様より恐ろしくもありますね」
「んー? 何かいったかフェド先生?」
「いえ、こちらの話ですよ。私はルーンの安息所でルインさんから頂いた月桂樹ハーブティー
なるものを頂いてきますからね」
――それからルーンの安息所へ向かったフェドラート。
手際よく月桂樹のハーブティーを入れると、香りを楽しんでいた。
「お待たせしたわね。あら、いい香りがするわ。私も頂いていいかしら」
「ええどうぞファナさん。温泉上がりの立ち振る舞いが実に美しいですね」
「フェドラート、あなたはお上手ね。けれど煽てても一レギオンもあげないわよ?」
「本心から言ったまでですよ。それよりも休憩したら学園へ向かいましょう。術の適性が
分かったのに伸ばさないのは勿体ないですからね」
「そうね……出来ればあの魔術は勘弁してほしいけど」
ふぅ……とハーブティーを飲むファナ。
「同感です。あなたに妖術の適性があれば良かったのですが」
「そういえばメルザにはあるのよね。いいなぁ、ルインとお揃いで」
「全然つかえねーけどな! ファナはルインの中にいつでも入れるしずりーけどよ」
「ふふふ、それくらいは許して欲しいものね。あなたはルインに腕枕までしてもらって寝
てたって言うじゃない? 十分ずるいわよ」
メルザがボンっと音を立てて赤くなる。
「さぁさぁお二人さん。話はそのくらいにして、飲み終わったら向かいませんといつまで
経ってもルインさんの足を引っ張ってしまいますよ」
「そうね、私も頑張らないと。もっともっとルインの役に立ってみせるわ!」
「俺様もだ! 行こう、ファナ! フェド先生!」
三人は領域の泉を抜け、知令由学園の術を学ぶエリアへ赴く。
「このヘンテコな本みてーな建物ってよ。術で作ったのかな?」
「そうでしょ? こんなの術でもないと作れないわよ。天井は案外脆いけど」
「重さを余り感じないのに風などには強いように思えますね。それとメルザさんが以前燃
刃斗で切った時も、建物全体が燃え広がらなかったですし」
「あー……あの後滅茶苦茶ルインに怒られたんだよな……気をつけろって」
「弁償で金貨百枚だもの。そりゃ怒るわよ。私でも怒るわ」
はぁ……とメルザが申し訳なさそうにため息をつく。
「おや、術を習いに来た方々ですね。お名前を頂戴します」
「私はフェドラート。こちらがメルザ・ラインバウト、ファーフナーです」
「ラインバウト一家の方々ですね。えーと……この試験結果は少々おかしいですが、どの術を
受講されるかお決まりですか?」
「秘術の講義を受けたいのですが、受けれるのでしょうか?」
「それは難しいですね。秘術講師は確かにおりますが、秘術とは分類が困難な術を
指します。現在いる講師は二術合成の講師でブレンド先生です。
講義を受けるにはお一人金貨一枚は必要ですが、どうされますか?」
「高いわね。お金を払った所で覚えらえるかわからないのかしら」
「……ええ、そうなります。ブレンド先生は魔術講師も受けもてますから
銀貨一枚と合わせて両方受講されてはいかがでしょう?」
「この学校は容赦ないですね。いいでしょう。ルインさんには許可を得てますから。
秘術が三人、魔術が二人で金貨三枚と銀貨二枚です」
お金を受け取った受付担当は先生を呼びに行った。
ほどなくして……これぞ魔道士と言わんばかりの老人がやってくる。
「講師のブレンドだ。なんでも三人それぞれ秘術の適性があるとか。滅多に持つ者がおら
ぬ適性故少々疑っておる。どなたか既に秘術の一端を使えぬか」
「では私が……乱術、操踊狂乱」
「おお、身体が勝手に……分かった、もう結構!」
「おー、フェド先生の新しい術! 先生は人の動きを止めたりする術いっぱいあるんだなー!」
「ええ、妖術より乱術は強制力が高い。ただ少人数にしか効果がありません」
「それでも十分よ。一人は抑えておけるじゃない。私なんてボール一個飛ばすしか出来ないのよ?」
そう言うと、ファナががっくりと肩を落とす。
「そちらのお嬢さんは魔術適性だけなのかな?」
「いいえ、秘術の適性があるらしいわ。どんな秘術なのか分からないのよ」
「ふむ。二術合成ではないようだ。どれ……お嬢さんは変身術の変異術じゃないかね?」
「変身術の変異? 何よそれ」
「モンスター以外へ変身する。稀に表れる奇才じゃ」
「……どういうものに変身できるのかしら?」
「それこそ色々じゃ。例えばこの杖とかじゃな。しかも杖に変身して動けたりするぞい」
「へぇ。練習してみようかしら。私あっちでやるから、メルザのも見てあげて」
「ふむ……こっちのお嬢さんも適性があるのか。驚いた……むぅ、これは?」
「何かわかったのかじーさま!」
「こら、メルザさん。じーさまはないでしょう!」
「なんでだ? じーちゃんよりいいだろ?」
「うっ……確かに進歩はしていますが。ブレンドさんと呼んであげてください」
「わかった! じーさまブレンド!」
「だめだ、全然わかってない……」
「よいよいじーさまで。してその子の才能じゃが、最低でも二術合成が出来る。三術……
いや或いは四術もいけるかもしれぬ」
「俺様算術は苦手なんだよな……一と五を足して、えーと……」
「計算の算術ではない! 術を三つ合成するという意味じゃ!」
「そのようなことが可能なのですか?」
「例えばわしが得意なのは幻術と魔術を組み合わせたもの。イメージで魔術を出せるので
詠唱がいらぬ。
パワーボール!」
ぽーんとボールが勢いよく飛び出る。
それはファナたちが以前使用していたものよりも巨大、かつ速く発射された。
「このように通常のパワーボールよりイメージ調整によって威力もあがる。そっちのお嬢
さんが多くの術を扱えるのであれば、これほど強い秘術は他に無かろう」
「俺様、よくわからねーけど組み合わせればいいのか? うーん、そうだ。これでどーだ
ろ。邪火!」
忽然と目の前の的に灰色の炎が降り注いだ。
「な、なんと! 今のは邪術!? それに幻術の火を組み合わせたのか? お主は一体何
者じゃ……」
まずいと思ったフェドラートがフォローに入る。
「い、いえよく見てください。あれは幻術の火が強すぎて灰が燃えカスとして見えている
だけですよ。……乱術、眼輪狂乱……」
「む? わしの目が狂っておるだけか。年のせいかのう」
「ひっ……そ、そうみてーだじーさま! 俺様腹減ったよー」
「出来たわ! 見て二人とも!」
ファナにそう言われて二人が見ると、そこにはルインの蛇籠手に擬態したファナが、その
恰好ででぴょんぴょん飛び跳ねていた……。




