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第二百十話 捕らわれの移動牢

 ……夢を見ているようだ。地面が揺れている。前世では頻繁にあった地震。

 ただの人間が、自然の摂理には逆らえない。

 この世界ではどうなんだろうな。今まで地震を感じたことがなかった。

 ……なんだろう。何をしていたっけ。起きないといけない。

 起きないと……「うっ、げほっ……げほっ」

「おや、起きたかいお兄さんや。死んではいなさそうだったけど生きててよかったね」

「誰だ? ……ここはどこだ? ……意識がもうろうとする」

「わしはマァヤ。見ての通り水魔族の老いぼれさね。ここは移動牢の中。あんた、見たと

ころ人間だけどどうして捕まったんだい?」

「捕まった……か。警戒していたが堂々と生徒に危害を加えるとは……」

「悪人じゃなさそうだね。ちょっと待ちな……雄大なる魔の世界より這い出て力となれ。

汝が癒す淡き水の雫をかの者へ。ティアウオータリー」


 老婆と思われるマァヤがそう言い終わると、俺に水滴のようなものが降り注ぐ。

 すると身体に力が溢れたのが分かった。意識がはっきりする。

 今のは魔術か? ……周囲を見回すと、鉄格子の中に老婆……といっても魔族である異

形の者と二人きりだった。


「婆さん、俺の装備は外されなかったのか? それにもう一人、女の子が連れて来られな

かったか?」

「元気になったかい? あんたはそのまま放り込んでいったよ。武器も見当たらないし面

倒だったんじゃないかね。女の子は違う部屋に入れられるのを見たが、意識はなさそうで

ぐったりしていたよ」


 婆さんに一言礼を告げる。

 ……そうか、アドレスの仕様上よく見ないと内蔵されているカットラスは分からない。

 盾だけじゃ持たせておいても仕方ないし、男をひんむく趣味はないか。

 この装備は外し辛いしな。


「くそ、ジオのやつ。警戒していたのに建物の中で襲ってきやがった……俺をさらった理由

は一体何だ。何が目的だたんだ」

「お主、この大陸の者ではないな。この国では異形の者をさらい、ある実験をしておる」

「実験だと? つまり実験材料にするため俺やベルディアを?」

「わからぬ。だが、何の理由もなくさらってきたとは思えぬでな。あんたが王国にとって危

険な人物だと判断したんじゃないかえ?」


 ……その可能性はあるな。俺とベルディアの強さを確認して、脅威となる相手か見定め始

末する……か。

 だが、ジオは俺の装備を見ていた。脅威に感じなかったのは可笑しいけど。

 それに意識がなくなる前に色々言っていたような……いや、今はそれより脱出を考えよう。


「婆さん。俺たちここにいて助かると思うか?」

「まず助かるまい。わしのような外見のものは好きに殺していいようになっておる。だが、わ

しにはあの鉄格子を壊して脱出する術はない。それはお主もじゃろう?」

「……いいや、恐らく破壊出来る。ベルディアを助けないといけない」


 念話でドーグルへ呼びかける。


「ああ。わらたちは一部始終を大人しく見ていた。あの男はちみを殺すつもりはないように思

える。それどころかわらに気付いていたようだ。頑張れと聞こえたぞ」

「……どういうことだ?」

「ちみを殺そうとするならすぐにでも打って出るつもりだった。勝てる気はしないが。あの男

は何かしらの考えで動いているようだ」

「そうか。色々と確かめないといけないことが一気に増えたな。今はここを出る方法を。まず

は外の様子を確認しよう」


 鉄格子の外で様子を伺う。兵士が二人。他は見当たらない。

 

「何か強力な術でも使えるのかい? とてもじゃないが武器もなく脱出するのは命を捨てるよ

うなもんじゃろう?」

「武器ならある。シールドの中と、身体の中に」


 ここで使えなきゃ手に入れた意味がない。頼むぞ。


「剣戒」


 左手にコラーダが出現する。


「ドーグル。念動力で兵士を襲えるか?」

「やってみよう。 念動力、石つぶて!」


 付近に転がっている石が兵士に降り注ぐ。


「何だこの石は? 何が起こった!」

「コラーダ、力を見せろ! 横なぎ!」


 コラーダを真横に振るってみる。

 斬撃が目の前の鉄格子を全て切り裂いた。

 そのまま斜めに切り下ろし、鉄格子を破壊する。


 兵士は石つぶてを真正面から受けていて、こちらに気付いていない。

 体を動かすと、腕にジオとの練習で使用していたものと同じような円月輪が、二枚両腕

に装着されていることに気付いた。

 なんであいつの円月輪があるんだ? 

 いや、今は兵士をどうにかしよう。


「婆さん。兵士を始末するまでじっとしててくれ!」


 牢屋から飛び出して石つぶてをくらっている兵士へ一気に迫り、一閃した。


「ぐあっ、だっそ……」

「赤星の突」


 喋ろうとする兵士にトドメを刺す。


「氷塊のツララ」


 遠方の兵士に氷塊を飛ばす。

 追い打ちをかけないとまずい。


「妖赤星の矢・破」


 赤い矢が飛来して遠方の兵士を貫き絶命させた。


「この二人だけか、兵士は」

「普段見回っておるのはこの二人だけじゃ。お主、強いのう」

「それよりベルディアが連れ去られていったのはどっちだ、案内してくれ婆さん!」

「こっちじゃ。ついて来てくれ!」


 左右を警戒しながらマァヤの後をついていった。

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