第百九十九話 剣戒《ケンカイ》
「案ずることは無い。鞘を手に取り同じく掲げてみるのだ」
「鞘を? やってはみるけど」
イーファに言われた通り鞘も掲げてみる。
同じくふっ……と鞘も消える。
「剣戒と構えながら叫んでみるがいい」
「ああ……こうか? えーと剣戒!」
すると、消えたはずのコラーダを手に持ちながら構えている。まじかよ。
「あんな大層な武器を持ちながら歩けまい。格好の的となり世界中から狙われるぞ。
奪うことは出来ないであろうが」
「確かに……これはありがたい」
「すげー、かっこいいなルイン! 俺様にも持たせてくれよ!」
「ああ。わかった」
「無理だ、やめさせた方がよい。認められぬ者が所有すれば
反発して相手を襲うやもしれぬ」
「メルザ、やっぱダメだって」
「えー、剣戒! ってやってみたいぞ!」
「僕は剣を扱えないからね。でもいいなぁ。しまっておけるのは便利そうで」
「どう? 握ってみた感じは?」
「重さが感じられない。わずかにあるかなって程度だ。振ってみるか」
「気を付けて振るように。いくら持ち主の力量によるとはいえ扱いは難しい」
コラーダを構え、軽めに振るってみた。しかし剣が消える。
「? 剣戒!」
もう一回呼び出してみて軽く振るってみた。しかし剣が消える。
「剣戒! あ……! 剣戒! ……? 剣戒!」
「あー、ルイン。言いにくいんだけど、そのー」
「剣に遊ばれているな」
「はっはっは。ちみは面白いな」
「い、今はいいんじゃない? ほら、お宝は手に入れたんだし。ね?」
「さぁ、後はルインにお礼をもらうため、三夜の町でお買い物よー! 行きま
しょ、カノン」
「いいの? やったー! リルさんとお揃いのものがいいな」
「そうだね。僕も草臥れたしルインに何か買ってもらおうかな」
「みんな、お待ちくださいって! こっから、こっからだから! ね? 剣戒! うお
お! 剣! 戒! ……あ、出てこなくなった。いじけるなってコラーダ!」
「やれやれだ。使いこなすのに時間がかかりそうだな」
こうして俺は消える神話級の剣、コラーダを手に入れた。
持っている実感がわかない。ちゃんと使えるようになるのかな。
まだまだその真価は発揮出来そうにない。
封印穴も無いし今後の装備をどうするか一度アルカーンやニーメと相談する必要はある
な。
そういえばベルドは特殊な武器を使っていたな。
彼に聞いてみるのもいいかもしれない。
「部屋から出れば地上へ押し戻される。忘れ物はないようにな」
「ん? どういうことだ? ワープでもするのか?」
俺たちは扉から出て、来た道を引き返そうとした。
すると一気に水が流れ始める。聞いてないぞ!
「うわぁー、なんだこの水。おかしいぞ! 普通の水じゃない!」
「排出用の水だ。壁に手をつかず進めば押し流されて外に放り出される」
「先にいえよ! メルザ、捕まれ!」
「だいじょぶだ、この水呼吸できるぞ?」
「え? 本当だ。でも立ってられない」
「言ったであろう。排出用だ。危険ではない」
水に押し流されて入り組んだ道を勝手に進む。上にぐんぐん登って行く感覚があったり
でわけがわからない。
しばらくするとペイッと外へ排出され、その場所はみるみる塞がり無くなった。
「ここ、ガルドラ山脈の入口か? こんなとこまであんな速さで戻れるのか」
「帰りだけだがな。そこから掘っても何も出てこない」
「楽でいいけどプールの滑り台みたいだったわ……あ、領域にプール作ろう」
「プール? 食えるのか? それ」
「水の遊び場だよ。楽しいぞ」
「ほんとか? いいなそれ! 温泉で遊ぶとフェド先生すげー怒るんだよ」
「そりゃな……温泉は遊び場じゃなくてくつろぐ場所だぞ、メルザ」
「そうなのかー」と言うメルザは相変わらずだ。
「ミドー、三夜の町まで行く。頼むぞ」
「シュルー」
ミドーを呼び出して三夜の町を目指す俺たち。
ガンツのお店に寄り、各自欲しいものを選んでもらう最中、三夜の町についてイーファ
に聞いた。
この町はイーファの先祖が造った町らしい。
三つの夜を構築して、虐げられる亜人、獣人たちが暮らしやすい町を作ったそうだ。
獣人や亜人、竜族などは上空からも見れるが、ただの人間では何の補助も無く目視は出
来ない町らしい。
上空から行けばバレバレではと思ったが、そういう仕組みなのか。
「真なる夜の町に私の古い知人が住んでいるのだが、今の私では会っても誰かわから
ず、協力も得られぬ。そやつの協力が無ければ海底へは赴けぬだろう。まずは元の姿に戻
る方法を探す必要がある。それからライデン、ジムロの一件も解決せねばな」
「ああ。やる事万歳だな。今は多くの仲間がいる。それぞれ役割分担で行動しよう」
「なぁルイン。俺様はしばらく術の勉強しっかりしたいんだ。いいか?」
「もちろんだ。それぞれのやりたいことを帰ってからまとめよう。その前に領域拡張だ
な!」
買い物を済ませた俺たちは、再びミドーに乗り、領域への道を急いだ。