第百九十三話 古代樹の図書館裏手
ライラロさんのトラウマ思い出を振り切った俺は、みんなを集めて古代樹の図書館方面
へと向かった。
知令由学園の最北に聳える大きな木で出来た図書館。
大きさのスケールが違う。樹齢何万年経てばここまで育つのだろうか?
うちの領域にも確かに大きな木があり、その中がみんなの安息所だが、ここまでは大きく
ない。
もし次に造り変える機会があれば、このサイズを想像出来るかもしれない。
そう思いながら古代樹の図書館裏手に回る……と気づいたことがすぐにあった。
ここにある泉が、領域に向かう泉にそっくりなのだ。
ライラロさんがフェドラートさんとともにここへ来させたということは……そういうこと
なのか?
だとしたらとても有難い。しかしこの泉で自分たちの領域へと赴ける保障はない……か。
「ここからもしかしたらあんたの領域へ行けるんじゃないかしら。その時計についてフェド
ラートから聞いたのよ」
「この時計は領域同士を繋げるものじゃないんですか?」
「ええ。私もそういう認識でした。ですがあなたとメルザさんの領域は泉と湖までも繋
がっています。もし領域へ侵入できる泉ないし湖であれば、繋がる可能性はあります。
やってみましょう」
飛び込むならまず俺からだろう。
イメージも大事だ。もし泉があらたに構築されるなら、北がメルザの領域、南が俺の
領域側でそれぞれ出口がある。となると西かな。
そのあたりに出てくれると助かるんだが……と思い泉に飛び込んだ。
しばらくして浮上すると……俺たちの領域へ戻ってこれた!
間違いない。急いで元来た道へ戻る。
全員に知らせてみんなで向かう事にした。
トリノポートからここまで、道が繋がったのは大きい。
いつでも帰ってこれるのはありがたい。
「これは驚いた。ここが君たちの家かい?」
「最高っしょ。あたしずっとここ住む」
「久しぶりに温泉だー! 今日はぱーっとやるぞー!」
「いいですね。あの宿は少し窮屈でしたし、こちらで寝泊まりしましょう」
「そうね。無駄にお金も掛からなくて済むし。事あるごとにお金を要求してくるものね」
「お兄ちゃんたち、領域を一通り案内してあげるね! そのあと温泉も入ろうよ!」
「ふっ。これで貴様の菓子を食えるな。あそこの甘味は美味くなかった」
「これならルーをここへ呼んで傍でみていられますわ。よかった……」
皆さん戻ってこれたのが嬉しいようで何より。
それじゃ……「他のメンバーを紹介するよ。カノン、パモ、ドーグル、それに……イー
ファだ。それと領域内にレウスさんやカカシ、モラコ族もいる。ニーメと一緒にいる人形
はマーナだ。元々は人だぞ」
「ココット!」
「大人しくしてたお前もいたな。ココットだ」
「あの、よろしく……」
「わらも温泉とやらに興味がある。案内してほしい」
「……」
「ぱみゅ!」
思えばとんでもなく仲間が増えたものだ。
今夜は大宴会。スタッフィーというぶどうのような果物をワインにしてみたらそれらし
いのが出来た。
肉もピーグシャークの肉が沢山冷凍してある。
ワインに肉、大いに振舞える食料品が揃ってるな。
古代樹の図書館へ行く準備も出来た。
やらなければいけないことはまだまだあるが、今日一日みんなで旅の疲れを取り、無事
知令由学園からの一時帰宅を喜び合おう。
領域に戻ったらまず温泉だ!
やっぱり一日一回は体を洗い流しておきたいよな。
――そう思い温泉に一番乗りで直行したはずなんだが……あれぇ?
蛇が浮いてます。何故でしょう。
「おお、戻ったか。首尾はどうじゃ? 毎日ここで湯浴みをさせてもらっておる。童はも
うこの湯の虜じゃ」
「おう、もう戻ったのか? どうよ、古代樹の図書館は。大陸はくそみてーなとこだが図
書館は悪くねぇ知識が得られるはずだぜ」
そこにはすっかりと出来上がっている師匠とフェルドナージュ様が湯に浸かりながら酒
を酌み交わしていた。
あの蛇、カドモスとピュトンだよな……凄く怖いんですけど。




