第百九十話 サラ対ベルディア
「久しぶりだね、何年ぶりだろうか。君はあまり顔つきが変わらないね」
「胸触られたこと忘れてないっしょ。エッチ」
「……どういうことかしら?」
「あら、本当にファナだけ取り残されてるわね」
「お、俺様だってそんなとこ触らせてないぞ!」
「あー、ちょっと待て! 冤罪をばらまくのはやめろ! 食堂だぞここ!」
周りの人の視線が痛い。さっさと食事を済ませてしまおう。
かき込むように食事を済ませると、あまり人がいない方へ場所を移したい旨をベルドに
伝えて移動する。
「それで、君たちはここで何を?」
「古代樹の図書館に用事があってね。色々調べたいんだ」
「そうか。僕らはここで修行を積んでいる。君もあれから相当修練を積んだんだろう?
食事も済んだし腹ごなしに一つ手合わせしてくれないか?」
「やるっしょ。今度は負けないし。強くなったよあたし」
「そういえば弟のボルド……だっけか? あいつはいないのか?」
「兄弟全員いるよ。ビスタたちも。君とは面識がなかったね。ただ、ベルディアと僕は兄
弟でも少し上をいっているからね。基本は二人で行動しているのさ」
「もう行くっしょ。訓練場はこっち」
「まだやるとは言ってないんだが……」
「逃げるの? 強くなったあたしらが怖いっしょ。きっと」
「そうじゃなくてだな……ああわかった。それじゃメルザたちは先に宿へ戻っててくれ」
「僕も見ていくよ。ルインの戦いが近くで見れるなら見たいし」
「私もちゃんと監視してないと」
「俺様もうちょっと食事してたいなー」
「あらメルザさん、一緒に甘い物でも食べましょう」
「甘い物とやらに興味がある。私も同行しよう」
「では私も」
「お姉ちゃん、僕ちょっと疲れたから宿まで連れてって」
「しょうがないわね。変なことしないか見張ってなさいよサラ!」
バラバラに分かれる我が旅団。
個性的な行動が素晴らしい。
結局リルとサラがついてくることとなった。
装備は付けていいらしいのでフル装備だが、この状態で人間相手に戦っていいものかど
うか……少し気が引けるがまぁいいか。
訓練場は知令由学園の東側にあり、何人かの学園生らしき人物がいる。
あんまり派手にやると噂されそうだが……いいのか?
「最初に妹がやりたいらしいんだが、そっちの二人も戦えるのかい?」
「ええ、もちろん。そんな女には負けないわよ」
「へえ。言うっしょ。むかつくわ、あんた」
「あら、ちょっと胸を触られたくらいでルインに色目使っちゃって。いけすかない女ね」
「ああ、これはまずいね」
「そうだね」
「ですよね……」
男三人で迸る稲妻を飛ばし合う二人を見る。
全員深いため息をこぼした。
「じゃあサラ対ベルディアで」
「上等よ、かかってきなさい。ボコボコにしてあげるわ」
「冗談きついっしょ。あたしが負けるわけないし」
「配置について。はじめ!」
お互い猛ダッシュで正面から行く。どう見ても血の気がありすぎだ。
サラは至近距離で上空へふわりと飛翔してけり技を出す。
「ぐっ、飛びやがったっしょ。あんた何」
「ふん。この程度で驚くんじゃないわよ! えい!」
けりを防いだ手に邪術糸を出す……が上体を大きく斜めにそらしながら
斜め回転蹴りで振り払った。サラの糸を振り払うとは相当やる。
「ちっ。少し甘くみてたわ」
「練気散弾、くらうっしょ」
うお、気弾のようなものを飛ばした。
攻撃されると思っていない距離で不意を突かれたサラが食らって吹っ飛ぶ。
「すきありっしょ。あんた弱」
「っんじゃないわよ! 妖陽炎!」
当たったと思えた追撃が空を切る。なぜサラやリルが至近距離を好んで戦うか。
この術があるからだろう。俺も何度も命拾いした使いやすい術だ。
「なんで? どうやって避けたっしょ。意味不」
「邪術激糸縛」
「そこまでだよ、サラ。殺してはいけない」
「熱くなりすぎだ、ベルディア」
兄二人が止めに入った。二人はふーふーと息を切らして目が血走っている。
俺もなにかしないとと思い両者の中央に割って入った。
「落ち着けって。勝負は引き分けだろ」
『いやよ!』
止める二人に手で割って入っていたのに前に出て来た。
……お前ら、絶対わざと狙ってやっただろ!
『エッチ!』
兄二人に生暖かい目で見られながら、俺は妹二人に罠にはめられた。




