第百八十八話 術試験と術について
「皆さん武芸試験お疲れ様でした。しばらく時間を置いてから、術試験を開始します。
休憩後再びこちらへお戻り下さい。試験金額は銀貨八枚となります」
お金を払うと、しばし術試験が始まるまで待つ間に、術について考えてみる事にした。
術の適性有無を調べたり、どの様な術があるかは、以前リルたちから聞いた。
今の俺は、妖術の才能はあるが、妖魔として未熟で、妖楼術と妖赤星術しか使えない。
幻術は補助する様な媒体が有れば使えるが、補助具が無ければ使用できない。
それ以外の術は不明のままだ。何か自分に適合するものがあればいいのだが、試験を合格
しないとその段階にまで至らないのだろうか。
――しばらくして準備ができたらしく、担当者に声を掛けられる。
「ラインバウト一家の方々。術試験を始めます。この試験を始める前に各種適性検査を行
います。珍しい適性があればそれだけでも免除対象となりますが、試してもらう場合もりますのでよろしくお願いします。
ではまずこちらへ手をかざしてください」
幻魔神殿で見たような板状の物へ触れるよう指示を出される。
「ルインさんは……幻、妖、魔……秘! 信じられない。
四適性な上秘術適性まであるなんて」
「こ、壊れてるんじゃないかなー。ほら、メルザを見てみてください」
「え? ええ。わかりました。それではメルザさんは……
幻……妖、招来、呪、魔、秘あわわわ……」
「……ね? 故障でしょう?」
「そ、そうですね。新しいのをお持ちします!」
「俺たちはいいから新しいので他の人のを……」
別のを持ってきた担当が今度こそとリルのを図る。
「……妖、呪、秘……つ、つぎこそ! 妖……秘……な、なんで?」
リルとサラだからだ。どっちも呪術やら邪術やら使うし。
「ありえないわ! そこの坊や! お願いよ!」
「僕? 術なんて使ったことないよ?」
「魔……秘術……そちらのお姉さん! 幻、魔……秘……
か、かっこいいお兄さん達二人はさすがに……妖……秘……妖……秘……嘘でしょ
全員秘術適性があり、妖術適正持ちがこんなに……前代未聞です!」
「だ、だから故障ですって。試験にうつりましょう」
「ええ、申し訳ないのですが故障でしょう。全員実技試験を受けてもらいます」
かなーり疑われている。フェドラートさんの言った通り
派手な奴は使わずにいこう。お願いしますよ先生!
先生はふっ、と笑っている。いやな予感しかしない。
そういえば魔術適性がニーメとファナとメルザにあるようだが、どうしたら魔術を使えるんだ?
悪魔と契約して悪魔のもつ術を発動するのが魔術……つまり魔法だったよな。
「あのー、魔の適性があるみたいですが、この中で誰一人として悪魔と契約なんて
したことないんだけど、どうやって試験するんですか?」
「こちらにデビルマウスを用意するのでそれと契約して発動できれば大丈夫です。
呪文はこうです」
呪文を詠唱して見せてくれるのはありがたい。
「雄大なる魔の世界より這い出て力となれ
その身を持ち汝の宿敵を打て、パワーボール
です。こちらが契約用の媒体で、銀貨一枚になります」
……ここでもお金をとるのかい。しかもデビルマウスと契約ってちょっと嫌なんだけど。
メルザは嫌そうにしてる。ニーメとファナはやるようだ。
俺もどんな攻撃方法なのか興味はあるけど今はいいかな。
赤星を極めてからでも遅くはない。
「皆さんはよろしいんですか? 銀貨一枚ですけど」
「はい、結構です。ではこちらニーメとファナの分の銀貨二枚」
「そ、そうですか。残念です。ではあちらで試してみてください!」
「僕魔法なんて使うの初めてだ! わくわくする! いくよー!
……雄大なる魔の世界より這い出て力となれ。
その身を持ち汝の宿敵を打て、パワーボール!」
ゴムボールみたいな小さな玉がポーンと飛び出してマトにあたった。
「はい、合格です。次ファーフナーさんどうぞ」
「……雄大なる魔の世界より這い出て力となれ。
その身を持ち汝の宿敵を打て、パワーボール」
同じくゴムボールみたいのがポーンと出る。
俺たち全員ボーっとそれを見ていた。ファナが膝から崩れ落ちる。
「こんなのが……こんなのが銀貨一枚なんて! 新作のお菓子を買った方が
数千倍マシじゃない!」
「ま、魔法の基礎中の基礎ですから! これ以外にも沢山あるんですよ!?
見ててくださいね!
悠久の織り成すハーモニー。異界より這い出て汝が
思うままに踊り狂い、泣き叫べ。其は万物の欲する流れを呼び
対象を吹き荒らす。ストームウインド!」
ボヒューと少し強い風が吹いた。
「……メルザ」
「ああ、風臥斗!」
目の前に凄い突風が吹き抜ける。まともにくらえば立っているのも困難だ。
受付の人が棒立ちしてしまう。
「詠唱が長すぎて唱えてる間に逃げられますよね。その魔法」
「そ、そんな幻術使える人ゴロゴロ転がってませんからー!」
そもそも無詠唱じゃないと使えなくないか? 範囲型遠距離魔法であれば詠唱しても
問題無いとは思うんだが……いざ戦闘で悠長に唱えている暇を敵さんは
与えてはくれないだろうに。
詠唱省略か詠唱速度上昇あたりでもできないと実践は厳しい。
集団戦でならあるいは使えるが、余程腕の立つ前衛がいて初めてこなせるだろうな。
「で、では気を取り直して皆さんの試験を始めます! ではルインさんから
ご自慢の術を一つ披露してください!」
フェドラートさんを見て一度頷くと、詠唱をするフリをした。
「んじゃ魔術っぽいのでやります」
「ぽいの? どういうこと……」
「えーと我が下僕よ。我の意のままに動き敵を恐怖に陥れ
その身をもって行使しろ。己が技を血とかして静寂の訪れる無常な氷塊のツララ!
と化せ」
氷の塊がツララとなってマトへ飛んでいき突き刺さる。よし、うまくいったに違いない。
「あわわわ。新しい術を構築しましたよ、この人。とんでもない……」
「合格でいいんでしょうか?」
「は、はい合格です。次メルザさん!」
「燃刃斗」
「あ、メルザそれは」
マトどころか天井が焼き切れてぶった切れる。大きく穴が開いた。
「わりーわりー、ダメだったかー? なんか暇だからよー。おなか空いてきた」
「じゃあとっとと済ませていきましょうか。
なんとかの法、邪術強糸! 私強い人好き!」
謎の詠唱で無数の糸が破壊されたマトに飛び交い再び立ち上がらせる。
「それじゃあ僕も。プラネットフォール! と契約して僕の周りを破壊せよ。
後はルインに同じ」
……ヤバイ。その模倣技は必殺技だろ! フェドラートさんに怒られる!
「皆さんやりすぎです。妖不動固定の術」
リルが完膚なきまでに破壊した上空を固定した。もうバレバレじゃないですか!
「なんだ、破壊してよかったのか。それなら……」
「それはダメーー! 先生ー!」
「黒星の鎌」
こうして試験会場は完膚無きまでに破壊されつくした。
俺たちは弁償として金貨百枚を支払い術試験合格を手に入れた……
いくらお金に余裕があっても、この分だとすぐになくなりそうだ。
お金はかかったが、術に関して伸ばせるのは有難い。
魔法は残念だったが自分の得意分野を伸ばそう。
ニーメやファナに新たな道が開けたしな!
そう思う事にして次の試験へうつった。




