第百八十六話 入学手続き
建物の中に入ると、一面真っ白な壁に謎の文字がびっしりと書かれている
部屋だった。
全て何かの効果を発動するための文字なのだろう。
ライラロさんの話だと、色々な術を学ぶことも出来るとか。
つまり魔術も学べるのだろう。
詠唱が必要だが効果は一定。契約を要して発動する。
幻術や妖術と違って発動までに時間が掛かる。
少々使い辛い気もするが、ここで覚えられれば俺でも使えるのか?
魔術と考えると、ちょっと期待してしまう自分がいる。
なにせゲームや小説では定番中の定番。例えば……
大いなる雷の神よ。我が意を持って真なる敵を打ち滅ぼせ!電撃 とか
出来たらやってみたい。
前世でやれば笑いものか頭のおかしい人物確定だろう。
中二病というキャラ認定も否めない。
だが、それが現実に発動可能となれば、こぞって皆やるんだろうな……と考え込んでいる
ると、受付の人が早く来いよ目線で見ているのでさっさと向かうことにする。
「ようこそ知令由学園へ! ライラロさん、お待ちしておりましたよ! 受付のユーミル
です。皆さんよろしくね!」
明るく元気な受付嬢だ。視線が怖いけど。
「あらユーミル。あんた受付始めたの? もう学園卒業したわけ?」
「はい! 先生からもうよい……といわれました! ここで働き始めてまだ間もないです
けど頑張ってます!」
「ふーん。それって諦められたんじゃない? まぁいいわ。それより入学の手続きよ
ろしくね。予定より随分増えたけど」
「当初の予定だと二名とのことでしたけど、何名様でしょうか? お名前と合わせて教え
てくださいね」
「ルイン・ラインバウト、メルザ・ラインバウト、ファーフナー、ニーメ、サラカー
ン、リルカーン、フェドラート、ベルローゼ。全部で八人だ」
「ふむふむ。苗字からお二人がご夫婦。他の方は親族でしょうか。ライラロさんは再受講
ですからこちらもお金が掛かります。全部で九名分なのでレギオン金貨九枚頂きますね!」
「な!? ちち、ちがう! その、家族だけど。まだ妻じゃない!」
『私が妻よ』
「あの、全員家族でいですから。これお金です。話を進めて」
このパターンになると話が進まないのでさっさと説明をしてもらうことにした。
入学費用でこの金額なら相当安い。必要となる物がほぼ持ち込みだからか?
レギオン金貨の価値は、一枚でおおよそ前世の三万円から五万円といったところだろう。
「単純に入学するだけならこれで構わないのですが、受講するにあたり試験が必要です。
試験一つを受けるのにも少額のお金がかかります。じゃんじゃん受けていってくださいね!
そうしないと私たちの賃金が心配ですし!」
ストレートな子だ。分かり易くていいけど。
学校の受講項目は大まかに武芸、術、知識、教養、製作技術。
武芸も術も危険な術、技以外ならどれでも使用は自由。
学べる内容を知る前に、まずは試験を受ける必要があるようだ。
「試験は明日からになりますので、西側にある白い本の建物でご宿泊くださいね!
お安くなっておりますので!」
ここでも商売気質バリバリだ。
抜け目がないというか経営不振なのだろうか?
俺たちは言われた通り、全員宿に向かう。
白い巨大な本は同じような建物の中で一番大きく、多くの人がここで
宿泊しているのだろうことが想像つく。
沢山ある受付の中から空いている場所を選び、宿泊手続きを済ませた。
明日には早速試験があるらしく、入学の時にもらったプレートのようなものを受付
に見せると、スムーズに部屋へ案内される。
ここからは個室だ。よかった。
全員、明日の朝落ち合う旨を伝えて俺は部屋へと赴いた。
といっても、カノンやドーグル、イーファは俺の封印の中なんだが。
明日に備えて装備のメンテナンスをしていると、ライラロさんがフェドラート
さんを連れて入ってきた。
「フェドラート、お願い」
「承知しました。妖結界防音の術」
部屋に防音が張られる。要件はイーファの件だろうな。
「お願いがあるのよ。王様と直接話がしたいのだけれど出来るかしら?」
「ああ。ドーグルの念話で出来るよ。少し待ってくれ」
「わらの準備なら出来ている。話してみるといい」
「ありがとう。意思で会話出来るのよね?」
「そうだ。試してみてくれ。俺はフェドラートさんと少し話があるんだ」
「はい、何でしょうか?」
「俺に付けていた位置を把握するマジックアイテムって、複数保有していたりします?」
「ええ。あれは私が作成した物ですから。必要であれば人数分ご用意出来ますよ」
「そうだったんですか? でしたら全員分お願いしたいんです。監視したいわけじゃなく
安全が確認されるまでの間だけです」
「そうですね。この大陸は少々過激です。用意しておきましょう。私からもお願い
を一つよろしいですか?」
「ええ。俺に出来る事なら」
「では。この学園にいる間は、表立って強力な妖術を使用しないで貰いたいのです。
弱い妖術であれば問題ありませんが、中級妖魔以上が地上にいる事を知られるのは
あまり好ましくありません。出来る限り伏せてもらいたいのです」
「わかりました。リルやベルローゼさんにはもう?」
「はい。彼らは承諾済みです」
やはり地上で使用すると目立つしな……そうすると俺は術がほぼ使えない事になる。
うまいことモンスターの技を一部偽装して出せばいける……か?
「終わったわ。これからしばらく私は別行動をとって、王を戻す方法を
探ってくるわね。必ずあるはずよ」
「本当ですか!? イーファがスライムのままだと意思疎通するのも大変なので
助かります。よろしくお願いします」
「ええ。あなたたちはまず、明日の試験に一つでも合格しなさい。そうすれば古代樹
の図書館の一部が利用できるわ。私はこの学園で学べる事がもう無いから。恋愛関係
は特に完璧ね」
「いえ、そちらは一から学んだ方が……」
「じゃあ行くわ。邪魔したわね。フェドラートもありがとう」
「では私も戻ります。ゆっくりお休みください」
相変わらず大事な部分を聞いてない……!
俺の部屋を全員去り、一人アクリル板を確認する俺。
学園に行きがてら買ってきた食糧などをカノンに渡して、少し早く眠りに着く事にした。




