第百八十四話 新しい幻妖団メルの仲間として
カノンとリルが落ち着くのをしばし待つ間に、ドーグルも封印から解き放った。
それから俺たちは、カノンが円陣の都を目指していた理由を聞いた。
村で起きた事。クインとニーナの事。俺たちと合流するに至るまでを。
俺たちも、彼女自身も涙が止まる事が無かった。
メルザもサラもファナもライラロも彼女を囲むようにして抱きしめて泣いている。
俺は怒りに震えが止まらなかった。
この大陸にきて一番腹が立った。
ここにはまともな文化がないのか?
なぜそうまでして外見が異なる人を嫌う。
理由も無くそうしているなら、許されるような行為ではない。
霧神とは何なのか。
生贄に出すとどうなるっていうんだ。
時代が時代なら、場所が場所なら人間は何処までも残酷になれるのか?
それが国家単位であるなら恐ろしいものだ。
「おまえらは今日から俺様の仲間だ。もうずっと一緒だ。だから、だからもう
怖くなんてない。みんなで一緒に楽しく過ごそう。カノンの妹たちだってきっと
喜ぶ。おまえが笑って暮らせるよう俺様、頑張るから!」
「俺たちは専用の領域を持ってる。そこには俺たちが認めた者しか入れない。
安心して暮らせるはずだ。もう苦しまなくていいんだ。それに一人でそんな
危険な村に行かせるわけにはいかない。カノンの妹たちはカノンを逃がすために
遠くへ飛ばしたんだろう? それなのに、カノンが村に戻って殺されたら、妹た
ちが悲しむだけだ。その村の事は俺も色々調べてみる。クインとニーナのために
もお前は生きなきゃいけないだろ?」
「ああ……お父さん、お母さん。クイン、ニーナ……出会えたよ。私の、私の大切
な居場所。見つけられたみたい。有難う。有難う。みんな……ううっ」
そう言い残し、カノンは泣き崩れてしまった。ドーグルが声を掛ける。
「わらもカノンもこの大陸で酷い仕打ちにあった者同士。こうして出会えた事を
嬉しく思うぞ。ルインよ。ちみの友人はどれも個性的で面白そうな者ばかりだな。
ところで今夜はもう遅い。わらとカノンは封印に戻るとしよう」
「僕もそうしようかな。あそこは君の中にいるみたいで落ち着くんだ」
「じゃあ私も」
「私もそうするわ」
「いやベッドが……」
「ベッドより快適なのよね」
サラもファナも封印に戻る。俺の封印は君らの専用ベッドじゃないんだが
なぁ……俺も入ってみたい。
ドーグルの言う通り今夜はもう遅いので、イーファの件は明日話す事にした。
メルザは相変わらず寂しいのか、手を繋いで寝る事に。困った主だ。
――翌早朝、ニーメとマーナそれにココットに囲まれて目が覚めた。
三人とも朝、布団に潜り込んでいたようだ。
さすがに狭いけど、俺以外は皆小さい。
ニーメもマーナもとても心配していたようで、にこやかなお早うの笑顔に
癒された。
ココットは相変わらずだが、静かにはしてくれている。
フェドラートさんとベルローゼさんは早朝に散歩へ向かったようだ。
ライラロさんは……目もあてられないほど寝相が悪く、服がはだけているのを
マーナが直している。
マーナには少しお母さんのような感じがするんだとか。
そう伝えたら間違いなく怒るだろう。
まだ寝てるメルザの手をお腹に乗せ換えて、装備品を再確認する。
皆が起きるまでもう少し時間が掛かりそうなので、ドーグルに貰った装備や
貴金属を鑑定してみる事にした。
ブリッツエアーナックル(風斗付与II、爆風付与)【ユニークウェポン】
使用者を風による攻撃で強化する格闘武器
攻撃の瞬間強い風力を伴い相手を吹き飛ばす
使い続けると効力が極端に落ちるが徐々に回復する
扱いが悪いと壊れる事がある
レニウムインゴット 【アーティファクト生成アイテム】
宇宙上で最も希少とされる素材であり並大抵な労力では加工すら出来ない
美しい灰白色であり破壊する事が出来ない
従来のアーティファクトと異なり素材は変形が可能だが特殊な技術が必要
黒玉 【ユニークアイテム】
樹木などが化石化して硬質化し準金属化した物
非常に美しい黒色となっており極めて高い人気を誇るが
発見される数が少ないため希少
乾燥するとひび割れ火をつければ燃え上がる
……武器は非常に便利だ。ナックルであまりしっくりは来ないが、しばらくは
使わせてもらおう。
素材が殊の外やばかった。
これは保管しておく必要があるから、パモに頼んでおこう。
黒玉はベルローゼさんに似合いそうだから、プレゼントしてみよう。
きっと喜ぶはずだ。
アナライズしてしばらくすると、ライラロさんが起き上がった。
物凄く寝ぼけている。
就寝前と寝起きが不機嫌な女性は近づいてはならない。
いつ攻撃されてもおかしくないし、ライラロさんの術は洒落にならないのはもう
わかっている事だ。
ちなみにメルザも寝起きが悪い。寝る前はあんなに甘えてくる癖に……困った
ものである。
彼女たちがしっかり目覚めるまで、俺は青銀蛇籠手を磨く事にした。




