第百八十二話 円陣の都 紅葉の宿
ベルローゼさんの黒いキラキラに乗って、俺たちは人がいない付近の林まで移動。
そこから円陣の都まで、歩いて到達した。
――その都はまさに名前の通り円状で囲まれており、陣を組んだような都。
中央には城があり、都全体を監視するが如く、高く聳え立っている。
夜更けにもかかわらず都の中は賑わっているようだ。
俺たちは先に進むと、しばらくして見知った人物と出会った。
「遅かったわね。無事でよかったわ、本当。歩いて向かうなんて正気じゃないわよ。
ベルローゼにも呆れたもんだわ。特訓なら他の場所でやりなさいよね」
「私がつけておいた身動の花が役に立って良かったですよ。動きを察知するのに
通じています。ほら、ここに」
フェドラートさんが俺の蛇籠手を指す。裏側にしこんであったの？
気付かなかった……いつの間に仕掛けられたんだろう。
ライラロさんはベルローゼさんをちょっと睨んでいるが、ベルローゼさん
は、ふっ……とすました表情をしている。イケメン主人公役はずるい。
「まずは宿へ案内を頼みます。リルの状態も確かめないと」
「……わかったわ。急ぎましょう」
明るい通りを歩いてると、よからぬ女性たちに話しかけられる。
「あらいい男。遊んでいかない？ 美味しいお酒もあるのよ？」
「なんて素敵な殿方かしら。ああ、少しだけでもお話を……」
「そんな女より私たちと遊んでよ、ね？」
俺は本当にこの大陸が好きになれそうにない。
……ベルローゼさんの袖をつかんで思い切り振り払われた。
酷い剣幕だ。あとが怖いので止めてください！ お願いしますから！
「やれやれね。相変わらずだわ、ここ。好きじゃないからさっさと学園方面に
行きたいわね」
そう言いながら、ライラロさんが宿を案内してくれる。
『紅葉』と書かれた看板のあるその店は、文字通り美しい紅葉が垂れ下がって
いる。
「綺麗だな。時期に関係なく見れるのか？ これ」
「ええ。いつ来ても見れるわ。マジックアイテムよ」
便利そうだな。うちの領域にもこういうのがあればな。
領域を拡張してからまだ地下訓練場しか作っていない。
領域を出る前、ムーラさんにある物を作ってもらうよう依頼してある。
この都で、モラコ族たちにお土産を買っていこう！
もちろんパモやカカシにもだ。
お金は大分レンズで稼いだからな。
我が団はそれなりにお金持ちだ。
幻妖団メルの資金はフェドラートさんに預けていて、俺の持っていた分は
ベルローゼさんに奪われたままだが。
宿屋の中はきらびやかな作りで綺麗だが、普通の宿屋の方が俺好みだ。
女性うけはするかもしれないが、好みの別れる作りに見える。
「お連れさんですね。お食事を用意しますのでお部屋でお待ちくださいませ。
後ほどお声掛け致します故」
「ああ。出来れば多めに頼めるか？ お金は払うから」
「そうだ、貴様の金を渡しておく。少しだけ甘味に使ったぞ」
「有り難うございます。美味しい甘味ありました？」
「貴様のアップルパイに勝るものは残念ながら無かった。別の料理、楽しみに
している」
ベルローゼさんからお金を受け取り俺たちは部屋へと進む。
警戒してるためだろう。かなり大きい部屋に、全員で宿泊しているようだ。
部屋に入ると直ぐに、ミリルと目が合った。
「ミリル！ 久しぶりだ。元気にしてたか？」
「ルインさん！ 無事で良かったです。会いたくて来てしまいましたわ」
「ああ。ルーはよかったのか？ あれ、ニーメとマーナと……パモ！？」
寝てるニーメとマーナに抱かれて、パモが隠れるように居た。
「ぱ、ぱみゅ……」
「どうしても行きたかったみたいで。道中喋らない事を条件に連れて来て
しまいましたの。勝手な事してご免なさい！」
「いや、毎回パモにお留守番してもらうのは悪いと思っていたんだ。見つか
らないようにすれば大丈夫だとは思うんだが……それに俺の封印の中に更に
三枠分増えた奴らがいる」
「そんなに大勢？ パモちゃんは封印出来ないんですの？」
「俺もそれは考えた。だがそれでいいのかは正直迷う。俺が死ねばパモも死
ぬし、封印から解放しても消滅してしまう」
「ぱみゅ！ ぱみゅ……」
自分を入れろ離れるのは嫌だ！
……そう言ってるような気がする。
「なぁルイン。俺様もパモと一緒がいい。この先ずっとパモを領域に置いて
いくのは嫌だし、出かける事も増えるだろ？
ならパモもしまってやれないか？」
「いいのか？ パモもそれで。どんな制約が生じるかもまだわかってない。
どうしようもない状況になった奴だけを入れてるんだ」
「ぱみゅ！」
勿論だ！ と言っている気がする。
それなら受け入れるしかない。
パモは家族だ。出来ればずっと一緒にいたい。
アクリル板の一つを外すと、パモを突いて封印した。
レウスさん、ファナ、リル、サラ、カノン、ドーグル、イーファ、そしてパモ。
レウスさんだけ領域だから、七名の封印が俺に入っている事になる。
これからはずっと一緒だ。共に生きよう。生きるも死ぬも常にお前たちと一緒に。
