第百八十一話 主の心配性
「はぁ……はぁ……ふざけろよ。何匹いるんだよ」
「ルイン、無茶をしすぎだ。わらの言う通りここは逃げよ」
「ダメだ! もう少しで町だろ? ここで引き返すわけにはいかない。
常闇のカイナの追手もかかっているかもしれないんだ!」
「しかし、このままでは死ぬぞ」
「なんとかする! ドーグルは休んでろ!」
次から次へと襲い来るホークフレイムやデスマンティス。
もう二十匹は仕留めただろうか?
「っ! 氷塊のツララ!」
まずい、右腕を負傷した。そろそろスタミナが尽きる。
リルもカノンもまだ寝たままだ……そうだ!
一か八か……「死んだふり」
目の前でバラバラになる。だが……だめだ。
死体は死体で食うつもりか。対人相手じゃないと効果がないか。
ここは町に近い。妖術は迂闊に使えないし、トウマたちを表に出す事も出来ない。
一旦引くしかないのか……と思った瞬間だった。
「氷臥斗!」
「燃斗!」
「やっときたか。雑魚は殲滅してやる。不甲斐ない弟子め」
「ルインー、会いたかったわー!」
「おいずるいぞサラ! 俺様たちが攻撃してる隙に!」
「みんな! なぜここに! まだ都まで距離があるのに」
「そりゃー俺様はルインの親分だからな! なんでもお見通しなのだ!」
「ルインが心配でわんわん泣いてせがんでせがんでずっと探してたのよねー」
「な! 別に俺様はそんな、泣いたけどせがんではいたけど!」
「あー、はいはい。心配したのは私たち全員だから。そんなに照れないの」
「むぅー。ファナまで意地悪だな! でもやっと会えた! ルイーン!」
メルザがホークフレイムを氷臥斗でなぎ倒しながらこちらへ飛び込んで来た。
久しぶりの主を両手一杯で受け止めてやる。
「ありがとう、メルザ。皆も。お陰で助かったよ」
「リルはどうしたの? 封印の中?」
「お兄ちゃん、どじった? そもそも何であたしじゃなくてお兄ちゃんと
二人なのよ!」
「それなら私だって! こんな事ならずっと封印に入ってるんだったわ、もう!」
「なんか顔色悪いぞ? 何かあったのかルイン」
「詳しい事は後で話そう。まずは宿屋へ行きたいが、皆は無事宿を取れたのか?」
「ああ。ライラロ師匠のいう通りに行動してるぞ。そうしないと危ないって言われた」
無事に宿を取れてるならよかった。しかしベルローゼさんまで迎えに来て
くれたとは。
「お前たち二人ならもっと早く来れると期待していたんだがな」
「すみません。確かに俺たち二人だけならもっと早く来れたんですが」
「……訳アリか。後ほど事情を確認しよう。特訓倍は許してやる」
よかったー、ただでさえ殺人メニューなのにこれ以上増えたら
俺は死ぬ。
「皆はどうやってここまで?」
「フェドラートさんがルインの持ち物に位置がわかるマジックアイテムを
入れてたんだよ。気付かなかったのか?」
「なんだって? 全然気付かなかったわ……」
「絶壁を上り始めて変な進み方したからおかしいって。メルザったらずーっと
見てたのよ、それ」
つまりあれか。幸福の絶壁をあらぬ位置から進み始めてそれで駆けつけて
くれたのか? しかも登るって、あんな絶壁登れるわけないだろ!
人間だぞ! ……違った妖魔だぞ!
「あー、なんか安心したら腹が減った……飯すら全然食ってないんだった」
「ほら、これ食えよ! 食わせてやる」
「ムグッ こんなでかいの食えるか!」
「だいじょぶだ。幻魔の宝玉じゃなくてちゃんとした食い物だぞ!」
でかい果物をまるごと口に入れようとする。
出会って数分で窒息死させるつもりか!
果物を奪って半分に割って食べると、甘くて美味しい。
残りはメルザに食べやすいサイズにして口に放り込んでおいた。
にっこり笑うメルザに少し見とれてしまう。
食ってる時が一番幸せそうだ。
「さぁ、円陣の都へ向かおう。あれ? そういえば皆どうやって来たんだ?」
「星黒影の流れ星だ。明るくなる前に行くぞ。もちろん見つからないようにだ」
なんだかんだで皆を運んでくれる先生はツンデレです。
ファナとサラを封印に入れ、俺たちは先生の星黒影の流れ星に乗り、円陣
の都へ向かっていった。




