第百七十四話 妖真化 赤海星の皇主
さて、ガキ共。見つけたぜ。こっちにはまだ気付いてないな。
円陣に向かう途中いい手土産が出来たもんだぜ。
他のガキが見あたらねーな。
あいつだけか? 一応警戒しねーとな。
おっと。どうやらこっちに気づいたか。どんな能力もってやがるんだ? こいつは。
ばれてるならガキの居場所を一応聞いてみるか。
観念してるなら都合がいいんだが。
「逃げきれたと思ったか? 残念だったな。女とガキ一匹はどこに逃げた。
あの傷じゃそう遠くへは行けないだろう?」
「はなっから逃げられるとは思ってない。逃がす気もないだろ。あのまま移動しても
お前らからは逃げられない。そう思った」
俺らの実力を分かるガキがいるとは少々驚きだ。
「へぇ。面白いガキだな。俺たちの事でも知っているのか?」
「……常闇のカイナだろう」
「なんだ関係者か。こいつは殺さず捉えて拷問する。お前らは他のガキを……」
「行かせない。お前らは何所にも行かせない。二度と御免だ。あんなのは。誰一人死なせず
守り抜いてみせる! 後の事はしったことか!」
言い終わる前にガキの様子がおかしくなった。
なんかやべぇな。何しやがるつもりだ。
まさか暗鬼化したりしねぇだろうな。
【妖真化】
姿がどんどん変わっていく。変身術か?
「な!? この姿はなんだ。やべぇな、捕らえるのは中止だ。全員で殺るぞ」
「燃臥斗」
「氷臥斗」
「雷刃斗!」
部下共の幻術は一級品。その辺の雑魚じゃ一発でお陀仏だ。
俺の雷刃斗もそう使える奴は多くねぇ。
「赤海星吸盾」
放った幻術が赤色の盾に吸い込まれていく……まじかよ。俺達が着けてる闇の衣以上だと?
「赤星の彗星・蒸」
「うおおおお、ふざけろよ! なんだそりゃ。さっきと全然……」
部下二人が落ちてきた赤い隕石で潰され蒸発した。
こいつはまずい、強すぎる。撤退を……まじかよ!
「赤海星の殺戮群」
赤い星のような形の化け物が降り注ぎ、あたり一面を喰いつくし始めた。
俺の右腕を丸ごと飲み込み咀嚼しているソレは、残忍に口許が歪んでいる。
「まさかこんな使い手がいやがったとは。手を抜いたのを見抜けず、まんまと出し抜かれた
まぬけは俺か……常闇のカイナ、イプシオともあろうものが、情けねえ」
イプシオは最後に自分を殺す相手を見た。
恐ろしい程精巧に造られた顔。
蒼黒い長髪をなびかせ左手にうねる蛇をまとい、右手にうねる水をまとい
ながら両目は鋭く赤光を放ち、不気味な笑みを浮かべている。
こちらを見て、右手で俺を指示した。
「暗鬼化する前に殺られるとは……化け物が……」
その言葉を最後にイプシオは赤海星に喰いつくされていった。
――――どれくらい時が経ったんだ。
「とんでけー!」
「いたいのいたいの、とんでけー。いたいのいたいの、とんでけー」
……何か、聞こえる。
「いたいのいたいのとんでけー。いたいのいたいのとんでけー」
……懐かしい、声だ。
「いたいのいたいのとんでけー」
……転んだ時、母にそうしてもらったっけ。俺はよく転んだ。
目が不自由だったから。
消毒液が染みたな。
「いたいのとんでってもう大丈夫!」
ああ。誰だかわからないけどありがとう。
少し楽になった……よ。
「ここ……は」
「よかった、気が付いた! ここは木の下の根本に開いた穴みたい。大丈夫。敵はいないわ」
「助かった……のか」
記憶がはっきりしない。
覚えていない。
「私も気付いたらここで。リルさんは、どこ?」
「そうだ! ……ぐっ」
俺の身体はボロボロだった。急いでリルを出す。
酷い状態だ……だが生きてる。少し安心したのか……身体の力が抜ける。
「っ! いたいのいたいのとんでけー! いたいのいたいのとんでけー!
私のせいで、私のせいで! いたいのいたいの……とんでけー! 大丈夫、絶対治すから!
もういや、嫌……クイン、ニーナ……」
リルの傷が少しずつふさがっていく。遊魔の力……か。
俺も助けられた。
「あり……がと、カノン。リルを、たの……、ミドー、入口をふさ……げ」
「シュルー」
ミドーが出てきた。無事だったようだ。これでしばらくは安全だろう。
リルにもカノンにも助けられてばっかりだな。
礼をしないと……と考えたところで、俺の意識は再度途切れた……。




