間話 カノンの悲しみと絶望
残酷な表現があります。
ご注意ください。
「けんけんぱっ、けんけんぱっぱ、けんぱっぱ!」
「うふふ、二人とも。上手ね」
私はカノン。円陣の都から少し離れた小さな村で暮らす普通の人間として育った。
「お姉ちゃん、一緒に遊ぼ?」
「うん、いいよ。何して遊びたい?」
「あやとりー!」
私には二人の妹がいる。とってもいい子で可愛い。
二人はいつも私について来てくれるし、村の仕事も手伝ってくれる。
この村は少し変わってる。そこら中に祠もあるし、お供え物の量がとっても多い。
他の村から移住したての頃は、かなり戸惑ったけど、面白い文化が沢山あった。
私は仕事を手伝いながら色々な文化を学ぶことができた。
村の人たちはあまり関りを持ちたくないのか、そんなに優しくない。
私たちは以前の村で覚えた遊びなどで、よく遊んでいた。
「ねえお姉ちゃん、あれなあに?」
「あれはねー、雲よ。とーっても大きな雲!」
その日は妹たちと遊んだ後、一緒に雲を見ていた。
「ねえお姉ちゃん、雲さん降りて来たよ? 怖いよー」
「雲さんは降りて来たんじゃなくて、近くに来たように見えるだけよ? 大丈夫よ」
「ほんとー? すっごく近いよー?」
確かに少しおかしい……こんな近くに雲? ……霧かしら。
少し不安だし、急いで家に帰ろう。
霧に覆われたら前が見えなくて危ないし。
「二人とも。遊びはまた今度にしてお家に帰ろ? お姉ちゃん、用事を思い出したの。
ね?」
「うんわかったー。お家帰るー」
「帰るー」
家に帰ると、村の人たちが家を囲んでいるようだった。
何かあったのかしら……?
どうやら私たちを探していたようだった。
カノンたちはどこだという声が聞こえた気がする。
「霧神様の通達だ。よそ者を生贄に捧げる。これまでよく働いてくれたな」
「……何をおっしゃってるんですか? 霧神様ってここの祠の?」
「そうだ。お主ら人ではなかろう。そなたの母が封印して匿っていたよう
じゃな。よそ者を受け入れるとやはりこうなる」
「私たちは人間ですよ? 何言ってるんですか?」
「お主は遊魔だ……殺れ!」
母が目の前で……村人に殺された。母から無数の札のような物が焼け落ちる。
「いやーーーーーーー! やめてええええええ!」
目の前で母が串刺しにされたのを見て、私の体がみるみるおかしくなる。
「お母さん、お母さん! えーん。お姉ちゃんお母さんが、お母さんが」
「あれ、おかしいよ、身体おかしいよ……」
「やめろ! 娘たちに手を出すな! 話が違うじゃないか!」
「話とは人同士がするものだ。外見の異なるお主らとの約束など守る必要はない」
「ふざけるな! よくもカミラを! カノン、よく聞け。教えた歌や言葉がお前を必ず
助ける! 今は逃げろ! 生きてお前たちの居場所を見つけるんだ!
クインとニーナを連れて逃げろ!」
「逃がすな! 殺して生贄にせよ! 人で無い者を受け入れさせおって! 残虐に殺せ!」
「行かせるか! 三人とも先に行け! 父さんも後で必ず行くから!」
私たちは逃げた。でも……追手は矢を射かけながら霧の中を追ってきた。
村中から次々に射かけられる矢。
その矢に、クインにもニーナにも突き刺さる。
「お姉ちゃん、痛いよ、痛いよー」
「お姉ちゃん、私たちもうだめだよー」
「私が、私が助けないと。私が!」
「お姉ちゃん、ありがと。もういいよ。大好き」
「お姉ちゃん、ありがと。ここまでだよ。ずっと一緒にいたかった」
「二人とも、何言ってるの? 一緒に、一緒に逃げるのよ!」
二人はクインとニーナ。クインは長い角を持ち、ニーナは短い角を持っていた。
一本の槍が飛来して二人を貫く。
「けんけん……ぱっ、けん……けんぱっ……ぱ、けん……ぱっぱ」
沢山血を流す二人は……槍で串刺しにされながら、姉を担ぎ上げ空を跳ねる。
「また来ておいで」
ふっと少女三人はその場から消える。
迫っていた武装する村人が周囲を探すが、見つからない。
ここはどこだろう。
どこかわからない遠くに姉を運ぶ二人。
大好きなお姉ちゃん。もっと遊んでいたかったよ。
優しいお姉ちゃん、ありがとう。私たちはお姉ちゃんといつも一緒だよ。
お姉ちゃんの中で生き続けるから。
「クイン、ニーナ……いや、いやあああああああ!」
血だらけの二人は、姉の両腕に吸い込まれていく。
「お姉ちゃん、大好き」
「お姉ちゃん、ありがと」
二人を吸い込んだ腕には奇妙な紋様が浮かび上がって変色していた。
右腕はクインの髪の赤色に。
左腕はニーナの髪の紫色に。
カノンは泣き叫び、その場に倒れ、意識を失った。




