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第百七十話 奇岩海道の小屋で

 ワイバーンを仕留めた俺たちは、経由地である奇岩海道まで来ていた。

 岩礁に囲まれた細い道を進んでいる。

 もうじき暗くなるので、安全に休める場所を探さねばならないのだが、周囲

を探しても見つからないでいた。

 今はリルに上空から探ってもらっている。


「どうだ? 休めそうな場所はあるか? 


 上空に居るリルから、返事が聞こえる。


「ああ! もう少し進んだ所に、何か小屋みたいな物がみえるよ!」


 小屋か。こんな所にあるのは不思議だが、漁師の家か何かか? 


 ――しばらく歩くと、確かに小屋がある。

 ノックをしてみたが返事は帰って来ない。


「私が調べる。クインを霊体にするわね」


 すーっと壁を突き抜けていく。怖いよ。

 クインを待っていると、ニーナの方が語り掛けてくる。


「誰もいないみたい。誰かの所有物かも知れないけど、雨風は凌げるから

今夜はここに泊まりましょう」


 俺たちは玄関を開けて室内に入る。


「お邪魔しまーす……誰もいないな本当に。明かりもつかないか。暖炉がある

から火をくべよう。誰かつけれる技とかあるか?」 

「さっきのワイバーンの能力が火炎だったんだ。使ってみていいかな?」

 

 そういうと、リルは暖炉に向けて火炎を放つ。

 いいな。俺も火を起こしたいよ。

 ぼうっと燃えて火が灯り、周囲が少し明るくなった。


「カノン。少し話を聞きたい。話せる範囲で構わないから言いたく無ければ

首を振ってくれればいい」

「いいわ。少し待ってね。今お水を出すから。ほう、ほう、ほたる、こい。

あっちのみずは、にがいぞ。こっちのみずは、あまいぞ」


 まるで歌うようにクインとニーナが口ずさむと、一瞬淡い光を

発し、用意したグラスに水が注がれる。


「片方は苦みのあるお茶よ。こっちは甘味のある水。毒じゃないから

飲んでね」


 少しおそるおそる飲む。どう聞いても童話の曲だ。

 リルはその声色にほれぼれしている。


「その技……歌って言ってもわかるか? それはどこで身に着けた技術

なんだ? 俺はその歌を知ってるんだ」

「私はお母さんに習った。それ以上の事はわからないけど、まだまだ

沢山ある。遊魔は歌で発現させる力があるの。一人じゃ出来ない技が多い

から、二人になれるのよ……」


 やっぱり日本の民謡……童話なんだろう。こんな形で触れる事に

なるとは。

 遊びから生まれた、まさに遊魔。妖かくもの悲しさがある。


「お母さんとは会えるかい?」


 途端に悲しい表情になり首を振る。


「……家族は?」


 もっと悲しい顔になり、やはり首を振った。


「……すまない。俺から話そう。礼儀を欠いた。俺は元々全盲者。半分が

幻魔で半分が妖魔。親に捨てられた所をメルザという片腕の少女に救われた。

それからはずっと、主としてメルザに付き従っている」

「半分幻魔、半分妖魔……似てるわね。私と……」

「僕は妖魔だ。母も父も既に死んだ。兄と妹がいるよ。どちらも元気だ」

「そう……ごめんなさい。私だけが辛い訳じゃ無かったのね……あなたたち

がとても楽しそうだったから、幸せなのだとばかり思っていたわ」


 俺とリルは顔を見合わせる。

 幸せだけどな。俺たちは。


「カノンには悪いが俺たちは幸せだぞ。親に捨てられても、両親が

居なくても」

「……どうして? 家族が失われたのでしょう?」

「血の繋がりが無くても、大勢家族はいるよ」

「っ! 本当の家族じゃないじゃない! そんなの!」



 ……多分この子は、苦しんでる真っ最中に俺たちと出会ったんだな。


「リル。俺は外を見回ってくる。少しカノンと二人で話をしてくれないか」

「……ああ。わかったよ。僕に上手く出来るかな」


 無言でリルの肩に手をあて、こくりと頷いてから外に出た。

 

 ――この世界に月は無い。

 代わりに大きな星々が無数に見える。

 満天の夜空はとても見応えがある。

 前世では見えなかったな。

 電柱のない世界は綺麗だ。


 本来そこにあるべき自然を肌でめい一杯感じた。

 メルザも今頃は星を見ているのかな。

 頑張って強くなりつつ先へ進み、早く主に会いたいと思う。

 寂しいわけじゃない。笑いあっていたいんだ。


 家越しに座り、夜涼みをしてどの位時間が経っただろう。

 中から凄い泣き声が聞こえた。


 リルは上手くやってくれたようだ。

 俺が今、聞く必要は無い。

 涙は防衛反応。多くのストレスを流してくれる。

 悲しみはそう簡単に癒えないだろう。

 沢山泣いて心を取り戻すにも、時間は掛かる。

 ただ、我慢し続けるだけならば、最悪死に至る事だってある。

 

 一時の涙でもいい。今はそれを嚙みしめて。

 また明日から、強く生きていくそのために。

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