第百六十二話 リルとサラの妖魔封印
リルはサラを誘って斡旋所に来ていた。
「なぁサラ。封印出来そうないいモンスターの依頼は無いかい?」
「私たち体力と素早さが極端に落ちてるからね。それをどうにかしないと……これかしらね」
―ムクバード、ギガントード狩りの依頼―
近年ロッドの町周辺に増加しているモンスターを討伐して貰いたい。
ムクバード六匹とギガントード四匹の討伐を依頼する。
報酬は固定でレギオン金貨二枚。期限は一週間とする。
「場所の指定は無いけど、どの辺にいるんだろうね。受付で聞いてみるかぁ。けど飛んでる
敵相手は僕もサラも飛べるけど、得意ではないね」
「一人得意なのに心当たりがあるけど、私でどうにかなるわ!」
「うん? ファナの事かい? じゃあ僕が頼んで連れてくるよ。喧嘩しそうだけど」
受付で場所を確認したリルとサラは、ファナの下へ向かい、了承を得る。
ルインとメルザに少し心配されたが、問題無いと伝えて目的地へと向かった。
場所は毒の峡谷グラジオというこの町北西の峡谷。
「私もトランスバンディトにジョブコンバートしたから新しく使える変身技試した
かったのよね」
「あんたなんかいなくても、私とお兄ちゃんで余裕なんだけどね」
「今の僕たちじゃ沢山モンスターがいると対処できないよ。僕の妖術、邪術と呪術……それに
劣化してる模倣じゃね」
「私も邪術と憑依術どっちも劣化してるけど、なんとかなるわよ!」
「ルインとメルザからは十分注意するように言われてきたわ。あんたらに何かあったら
ルインたちが悲しむからちゃんと守るわよ」
三人で会話しながら歩いていると、目的地に到着する。
「ここよね。随分と広い峡谷ね。毒の峡谷とはよく言ったものだわ」
「そうだね。毒々しいけど空気が汚染されているわけじゃない。単純に川だけ猛毒……かな」
「水の根源が汚染されているのかしら。それかモンスターの影響ね。さぁ進みましょう」
禍々しい毒川を横目に三人は歩いて行く。
山間からモンスターらしき声がしょっちゅう聞こえる。
この辺りには本当に多くのモンスターがいるのだろう。
人の気配は感じられなかった。
「いたわね。ギガントードってあれよね。三匹いるわ」
「封印ってルインがやってたアレよね。あなたたちも同じようにやるの?」
「いや、ルインの封印は異常だよ。僕らは入れる場所を指定するだけ。
あんな風に取り外して付け替えなんて出来るわけがない」
リルが困惑した表情を浮かべる。サラも少し呆れ顔になった。
「サラは右の奴を糸で縛っておいて。僕とファナで残りを片付けつつ封印する。
こっちが片付いたら縛った奴をサラに封印しよう」
『わかったわ!』
「喧嘩するけど息ぴったりだよね。君ら」
『どこがよ!』
「……ほらね。行くよ!」
リルはシャドウムーブで気付かれないように左のギガントードへ近づく。
ファナはそのままホバークラフトのように接近して行く。
しばらく近づいたファナは……バーサーカー化した!
あらたにトランスバンディトへとジョブコンバートしたファナは、自己催眠をかけて
トランス化する術を得た。
非常に狂暴化してしまうが、全ての身体能力が向上する。
「ぶっ潰してやるわ! 覚悟しなさい!」
そう言いながら中央のギガントードへ二つのナイフで素早く切り刻んだと思い
きや、その姿は牛鬼へと変化して中央のギガントードを両断。
二つのナイフが巨大な牛鬼の刀へと変貌していた。
右のギガントードはサラの邪術釣り糸により身動きが出来ず、左のギガントードは
リルを狙っている……が、攻撃は全て見切られる。
「彼の説明を聞いて模倣してみたけど、上手くいかないなぁ。枠見たいのは出ないや。
視野だけ広くなったから見やすいけど」
リルの秘術、模倣。彼は人の話を聞くのが好きだ。
その話の内容を取り込み予測を立てて模倣する。
完全に同じ物にはならず彼オリジナルの持つ力として生まれ変わる。
対象を取り込み発現する妖術の派生に相応しいその力を、まだまだ
コントロール出来てはいなかった。
その術をおいても、アルカーンに劣等感を抱くリル。
それ程までにアルカーンは優秀。
……リルが思案していると、近くでファナとサラの会話らしき声が聞こえる。
「グオーーーー!」
「あんた、その恰好でルインにせがんでみなさいよね!」
ファナが牛刀をサラへぶん投げる……とても危険だ。
「ちょ、危ないわねー。冗談でしょ!」
リルはその間にギガントードに迫り、呪術をギガントードにねじ込む。
「呪印、烈天の鳳凰」
ギガントードに炎の鳥の紋様が浮かび上がり、紋様から炎の鳥が舞い出る。
ギガントードはそのまま燃え上がり、リルの腰へと吸い込まれていった。
「こっちは終わったよ! ……何遊んでるのさ、二人共」
ファナは既に人型に戻っている。お互いを指さしあい「こいつが悪いのよ!」と言い
合っている。
「私が仕留めたら封印も出来ないんでしょ? さっさとやりなさいよ」
「カエルじゃ打撃が効かないから、お兄ちゃんみたいな技が無いと倒せないのよ!
私の憑依術はモンスターを封印してないと使えないのよ!」
「仕方無いわね。出来る限り痛めつけておくからトドメだけ刺しなさいよね」
仕方無さそうにファナはアルノーへ変身した。
糸で動きを封じられたままのカエルに矢が射かけられる。
その後、サラはローフライトで近づき拳をギガントードに叩き込んで、ようやく腰に
封印した。
サラは本来対象を操る邪術が得意だが、最も恐ろしいのは憑依術。自らに封印した
モンスターを対象に憑依させてその技を発動させる。
以前リベドラを爆発させたのはリルの身体に埋め込んだサラの指輪に封印されて
いた、ダイナモクラッシュの上位、デススタークラッシュ。
その爆発力はベルータスの腹心を粉々にさせた。
憑依させるモンスターにより効果は変わるが、そのモンスターは消滅するので自分の
戦力は落ちる。
サラたちがギガントードを倒し終わると、もう一匹現れていたギガントードをリルが
仕留め終わっていた。
「ふうん。このカエルの技は飲み込む……だったよ。サラはどう?」
「私の方は弾力ボディですって。元から弾力ボディよね、私」
「あ、ああ。そうだね。兄としては答え辛いなぁ」
「ふん。お粗末な物のくせによく言うわね」
「あぁ? 胸だけ女がよく言うわね!」
「ああん?」
「ほら二人共、上にお客さんだよ」
上空を見ると無数の鳥が飛来してくる最中だった。
あれがムクバードという奴だろう。
「キィーーーーー!」
高い声を上げながらムクバードがリルに飛びかかった。
「妖陽炎の術」
ムクバードの攻撃は当たらず、地面に着地する。
「邪眼」
リルの目から灰色の視線が飛ぶ。飛来したムクバードはそのまま消滅した。
「あ、やりすぎた。やっぱり邪眼は難しいなぁ。僕の技じゃないし。疲れるし」
ファナが上空のムクバードを一斉に射かけ落としていく。
「凄く助かるよファナ。サラ、今のうちに打撃で攻撃して封印しよう」
落下してきたムクバードを封印し、合計六匹討伐出来た。
「破片とかちょっと持っていけばいいって言ってたけど、いい加減だなぁ」
「そうね。これで分かるのかしら?」
「この鳥の技、結構使えるかも。フェザーガードだって」
「僕はフェザーシュート? 羽を飛ばすのかな。あまり使わない気がする」
「簡単に技が増えるだけでもずるいわよ。こっちは大変なのよ……」
こうして三人は、仕事を終えてロッドの港町へと帰還したのだった。