第百六十話 男同士の宴は静かでクール
賑やかな女子部屋を離れ、ルインはリルとフェドラートの許を訪れていた。
「あれ、フェドラートさんは?」
「出かけたよ。アルカーンがそろそろ来るかも。ニーメ君もフェドラートと一緒だよ。
杖作りに興味があるみたいだけどアルカーンはそれに興味が無いからね」
「そうか。アルカーンさんらしいね。そういえばサラとリル、アルカーンさんの関係って
ちゃんと聞いたこと無かったな」
「僕は……ちょっと言いづらいんだよね。フェルドナージュ様は三人の兄妹がいたんだけど」
「いた……か。兄がフェルドナーガ様だったな」
「そう。妹のフェルデシア。僕の母上は既に死んだよ。フェルドナーガ様の手でね」
「……すまない。聞いたらまずかったよな」
「大丈夫だよ。かなり前の話さ」
リルはふわりと立ち上がり、テーブルに置いてあるグラスで飲み物を飲む。
「当時僕もサラも幼かった。アルカーンもね。サラはきっと、あの頃のことはよく覚えて
いないと思う。あの事件からずっと、フェルドナージュ様は兄と対立しているんだ」
「リルはいつもアルカーンの事を兄とは呼ばないな」
「ああ。申し訳なくてね。優秀過ぎるアルカーンを兄として呼ぶには、相応しく無い
のさ、僕は」
「俺にはそうは見えないな。確かにアルカーンは凄いがリルの方が好きだぞ、俺は」
「っ! 全く君ってやつは本当に妖魔ったらしだね。あのアルカーンですら
君を認めるなんて。プログレスウェポンなんて、僕にも作ってくれないよ」
「あー……なんかすまん。成り行きでな。そうだ、リルに蛇籠手か蛇佩楯の
どちらかを譲ろうと思ってフェルドナージュ様にかけあったんだ。了承してもらえた
から、機を見て渡すよ」
蛇籠手と蛇佩楯にはかなり助けられた。
今では愛用の一品過ぎて毎日磨いている。
「いいのかい? とても嬉しいが、君の戦力が落ちてしまうだろう?」
「構わないさ。元々リルがフェルドナージュ様に頼んだから手にいれられた物だ。
二つは恐れ多いしな。それに、装備はまた手に入れればいい。代わりの装備が手に
入ったら譲るから、考えておいてくれ」
「わかった。僕も代わりに何かあげられないか考えておくよ。君の喜びそうな物を
調べておかないとね」
そう言ってくれるのは嬉しいのだが、前世でも人から物を貰う習慣が無かった。
気持ちだけで十分だが、そうもいかないか。
「俺は素直じゃない所もあるけど、素直に言っとくよ。お互い交換しあうのは嬉しい
結果になる。思い入れが生まれるからな。リルから貰う物、楽しみにしておく事にする」
拳を突き出す。リルも笑いながら拳を合わせた。
「そうだ。話は変わるんだけど、さっきの戦いで君の見せたあの力だけど、ターゲット
って言ったかい? あれについて詳しく教えてくれないか?」
「ああ、まだ試してる段階だから予測が入るけどいいか?」
「構わない。もしかしたら僕も似たような事が出来るようになるかもしれないんだ」
「それは本当か? あの技をリルのシャドウムーブと組み合わせられればかなり戦力
になるな」
「以前君を治療したときに、お願いしたい事があるって言ったよね。君の能力に凄く
興味があってね。だからこうして君の能力について色々話をしたかったんだ」
リルに予測できる範囲でソードアイの特殊能力について話した。
ターゲットは視界に入る入らないに関わらず、俺に敵意、敵対する者を捉えるだろう事。
視野角が広がり、本来二つの目で見る人間の視野角百七十八度を超える。
おおよそ二百二十度程だろうか。
さらにターゲットした相手が視界から消えると、追従して勝手に動く。
この勝手に動くのがとても気持ち悪い。
慣れるまではかなり時間が掛かるだろう。
それと、ここからは完全な予測だが、剣に対して何らかの目の効果を乗せられる
のではないかと考えている。
そう話すと、リルは興味津々で楽しそうに聞いている。
リルは相変わらず人と話すのが好きなようだ。
「やっぱり君と話していると楽しいね。定期的にこうして話しててもいいかな?」
「ああ勿論だ。俺もリルと話しているのはとても楽しいよ。メルザたちが女子会を
開くなら俺たちもこうやって、静かな語らいといこうじゃないか」
そう話していたら、アルカーンがやって来た。
「待たせたな。何の話をしている?」
「新しいジョブについてですよ。アルカーンさんはどちらへ?」
「この町に時間仕掛けの工作を用いるような道具が売っていてな。値段の交渉をしていた。
これがあれば貴様の話していた物がついに作れるぞ!」
「アルカーンがそんなに興奮するとは余程気に入りそうなものなんだね……僕には
考えもつかないけどなぁ」
「何を言っている。お前も協力するんだぞ、リルよ」
「え? アルカーンが棒に協力しろって? どうしたんだい?」
「お前はルインの所有物だろう? なら、協力して俺を喜ばせろ。褒美は用意する」
「……本当かい? アルカーンも変わったね」
「そうかもしれん。俺だけではない。フェドラートもベルローゼも、フェルドナージュ様さえ
その男に変えられてしまった。恐ろしい男だ」
そう言いながら、妖魔二人は俺を見る。
もしそうなら国にとって、かなりやばい奴かもな。
だが、俺の知るフェルス皇国の妖魔はとても居心地が良く、皆好きな奴らだ。
今度はフェドラートさんも、ベルローゼさんも交えて妖魔四人で語りあいたいものだ。
男同士の宴を