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第百五十六話 見えざる目の中で

 ――どのくらい意識が無かったのだろう。どうやらベッドの上のようだ。

 目が開けられないのはオペラモーヴを使用した影響だろうか。

 相当なダメージを負った上、メルザと密着で撃った代償は大きいようだ。

 

 すぐ隣に誰かいる感覚がある。

 身体は痛くて今は殆ど動かせない。傷も深いのだろう。


 骨は大丈夫そうだから、しばらくすれば動けるようになるか? 

 封印指定はしておいたが、封印されたかどうかは確認出来ない。 

 装備は外してもらったのか、衣類だけなのだろう。


「ルイン……ごめん、ごめんよ……ルイン」

「……メルザ? 起きてる?」

「ああ、ルイン。よかった……よかったよ、気が付いた?」

「ああ、けど目が開けられないし、身体もあまり動かない」

「すごい血が出て、俺様もう心配で、でもよかった……よかったよ」

「……お前、寝てないんじゃないか?」


 会話の内容がかみ合っていないから、意識が朦朧(もうろう)としているのだろう。

 どうにか動く右手でメルザを探るようにして探すと、手を握られた。

 そのまま身体ごと引き寄せる。


「大丈夫だ。メルザが無事で本当によかった。あの後どうなったか話しながらこのまま寝てくれ」

「あの鳥でよ、攻撃したんだけど倒せなくて。そしたらルインがオペラモーヴって技で

攻撃して、砂カバは倒れたよ。けどルインが全身から血を流して。ミドーがロッドの町まで

運んでくれたんだ。それで……」


 そこまででメルザの反応は止まった。何日も寝ていなかったのかも知れない。

 俺自身、どの位寝ていたのかもわからない。

 メルザの手は明らかに弱っている人のそれだった。

 片腕で布団をどうにか引っ張り、メルザにかけてやる。


「あら、起きたのね。よかったわ……あんたまた無茶したのね」

「ライラロさん。メルザが今眠りに着いた所だ。俺ももう少しこのまま寝るとするよ」

「ええ。その子ずっと寝ないで看病してたから。二日もよ。他の二人もだけど、あの子たち

は私が寝かせにいったわ。無理やりね。まだ寝てないようだったらバカ弟子もそうする

つもりだったわ。労わってやりなさいよ」

「ああ。メルザに気を遣ってくれて有り難う。ライラロさん」


 パタリと扉が閉じた音を聞き、メルザの頭を撫でながら眠りについた。


 ――――しばらくして目を覚ましたが、まだ目は開かないしメルザも寝ているままだ。

 この町で仕事をする予定だったんだが、参ったな……。  

 身体は痛むが幻薬を使ってくれたのだろう。大分楽になった。

 一度起き上がってみるか。 

 光は感じるから失明はしていない。

 言うなれば封印された感じか。

 あの技自体未知数だし、この程度で済んでよかったのだろう。


 体を動かしてみると、両腕だけはかなり動くようになった。

 メルザを起こさないよう、枕へメルザの頭を移した俺は、寝かされていたベッドを後にした。

 

 この見えない感じはとても懐かしく思える。

 見えてない頃から習慣づいている動きが、見えない人にはある。

 

 ――それは、空間把握能力だ。幼い頃から弱視であった俺は、なんとなく

物がこの辺りにあるという感覚がずば抜けて上がった。それと物事を覚える記憶力だ。

 位置さえ変えなければ、大抵の者の場所は正確に分かる。

 何をどこに置いたか把握しておかないと、場所がわからなくなるからだ。


 その影響か、記憶力がとても高い。数十年前の大したことがない出来事でも深く記憶

してしまう習性がついてしまった。

 一言一句とまでは言わないが、会話内容も記憶してしまう。よく気味悪がられたものだ。


 入口や窓、テーブルの位置が把握出来ているので、見えないまま椅子に辿り着き座る。

 目の前に何が並んでいるかはわからないから手探りで調べてみた。

 グラスと、これは俺の籠手かな。それから指輪。

 グラスを取り、中が空なのを確かめた。よし、何も入っていない。


「妖赤星の指先」


 俺は意識を指先に集中させて赤星術を使う。グラスが割れたら失敗。

 ベルローゼさんにこの練習方法を教わった。赤星のコントロールが一番の課題。

 まともにコントロールして最大限に赤星を放てば、こうはならなかっただろう。


 強くはなった。だが、まだまだ未熟だ。

 特に大型モンスター相手に一人で立ち回れるようにならないと。

 いつかは大型モンスターが複数襲ってくるかもしれない。


 「常に最悪を想定しやがれ小僧!」


 師匠の声が聞こえた気がした。

 もっともっと強くなれる。妖魔の力もまだまだ。ジョブコンバートも出来ていない。

 そうだ……この町に幻魔神殿があるか、確認しに行こう。

 ――部屋を出ると受付の前に行く。


「あの、どなたかそこにいますか?」

「ええ、いますよ。どうなさいましたか?」

「この町に幻魔神殿はありますか? あれば案内してほしいんです」

「あるよ。まったく、君はそんな身体で出歩くつもりかい?」

「黙ってみてはいられませんね。我々が連れていきましょう」


 急に別の声がしたのでそちらを振り向く。


「リルとフェドラートさん。来てたんですね」

「……君、その目、見えていないだろう。そんな身体では連れ歩けないよ」

「ええ。もう少し回復してからでよいのでは?」

「いや、どうしても今行って確認したいことがあるんだ」


 半ば強引に二人に連れ出してもらい、外へ案内してもらう事になった。

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