第百五十一話 ロッドの港町
ミッシェの峠中腹からは下り道。
道中大した出来事はなく、フー・トウヤさんの登場が衝撃的過ぎて折角の景色も
強烈な崖下りを思い出す微妙な光景に見えてしまう。
カッツェルでの話を聞いてすぐさま現地へ向かうあの姿勢。
思わずライラロさんをちらりと見てしまう。
ライラロさんはなによ? という顔をしている。
絶対似たタイプだと思うな。追っている存在は違うけど。
――そう考えながら歩いていると、どうやらミッシェ峠を抜けたようだ。
見晴らしのいい場所から確認していたので既に気付いていたのだが、ロッドの
港町はもう近い。
なにせ海が見えるし変わった建物も視界に入っていたからだ。
――俺たちは更に先を急ぎ、暗くなった頃に港町前へ着く事が出来た。
入口付近には門番らしき人物と亜人種の人物がいる。
かなりごつい猫……いや虎? っぽい男がいる。
「今厳戒令中でな。悪いが身元がわかるものとか掲示できないか?」
「おまえらミッシェ峠を越えてきたのか? 獣に襲われなかったか?」
「身分証は持ってないけど俺たちガーランド傭兵団の別団に所属してます」
「あ! 忘れてたわ。これ幻妖団メルの証明印付きの布告アイテムよ。ライデンに渡す
よう言われてたの忘れてたわー。てへっ」
「ライラロさん。そういう大事なのは出来れば忘れないで欲しいな……」
最も預けてはいけない人に身分証を託すなんて……ガーランド傭兵団は人材不足が
深刻なんだな。
「これは確かに本物だ。新しい団なんて聞いてないが」
「ああ、俺も初めて聞いた。団員に誘われたってことはお前ら強いんだよな?
今仕事が山盛りなんだ。傭兵の仕事を受けていってくれよ」
「何かあったんですか? ここに来る時もでかいケルベロスみたいなの見ましたけど」
「強いモンスターがかなり湧いて困ってる。弱いモンスターもいるが、対応が難しい奴
もいてな。だから警戒を強めてるんだよ。今日は遅いから明日斡旋所に行って聞いてくれ。
宿はルールーがお勧めだぜ」
「ガーランド傭兵団は通行料無料。滞在期間も制限はない。頼んだぜ。兄ちゃんたち」
無事にロッドの港町の中には入れた。
しかしモンスターが湧いてくるってどういう事なんだろう?
また明日にでも考えればいいか。
――宿屋ルールーという教えられた場所を目指しているがこの町の建物は本当に特徴的だ。
なにせ、ほぼ全ての建造物が杖の形をしている。
術使い御用達の町なのだろうか? それならこの町で仕事をして、メルザの新技祝いに
プレゼントしてやりたい所だ。
――宿屋ルールーに到着すると、長い帽子に杖を持った、私魔女です! といういで立ち
の女性が受付にいる。
こいつは萌え衣装ってやつに違いない!
「すみません。部屋は空いてますか? 九人何ですけど」
「いらっしゃい。部屋は四部屋しかないわ。
二人部屋と一部屋は三人。自分たちで決めてね」
「俺はニーメと時計の話をする。先に行くぞ」
「うん、マーナとココットも連れてくね」
「実に興味深い玩具だ。改造したい」
「こ、ココット……」
「僕はフェドラートと一緒にいるね。邪術をもう少し使えるために話がしたいんだ」
「奥の部屋へ参りましょう」
皆さっさと先に行ってしまう。ん? 何かおかしくないか。
『私はルインと一緒ね』
「あ、あんたたちには話があるから私と一緒ね」
そう言うとライラロさんがファナとサラ二人の首根っこを引きずり部屋に入っていく。
「メルザ、俺たち余りものだな……」
「ああ、そうだな……けどよ。この間まで一緒に雑魚寝してたんだよな。今更誰と一緒でも
いいよな」
そっぽ見ながらそう言うメルザと一緒に部屋へ入る。
へんてこな建物の割に室内はまともだが、要所要所に杖のデザインが施されている。
「へー、変わってるなこの町。面白いけどな!」
「そうだな。杖にまつわる町なんだろう。いい杖が見つかるかもな」
二人で笑いあうと、食事を済ませに行く。
食事処は一か所で、多くの人がいた。
素早く食事を済ませ部屋に戻る。
今日は良く歩いたし、早めに就寝したかったのだが隣の女子トークがうるさくはある……。
「なールイン。その……手繋いで寝てもいいか?」
「ああ、構わないよ。その方が早く眠れそうだ」
俺たちは久しぶりに手を繋いで寝た。
小さなメルザの手がいつの間にか少したくましくなった様に感じた。
あの時よりもずっと強く。
放さずに握っていられるこのひと時の幸せを、互いに嚙みしめて。
俺たちはすぐ眠りについた。