第百四十九話 見苦しい言い訳
カルト兄弟を縛り上げ、辺りを見回すと、どこからか隠れていた人々が出てくる。
皆どこかすごい不安そうにしている上、瘦せこけて目も当てられない。
ずっと怯えながら隠れながら生活していたのかもしれない。
「あのー、俺たちこいつらの仲間じゃなければ危害を加える輩じゃないので、安心してください」
「ほ、本当か? 確かにあっちにいるのはシュウさんだ。あんたらシュウさんの仲間か?」
「ええ。この町の現状を聞いて。道すがら落ち着いて休めないからちょっと血祭……
じゃなかった懲らしめてやろうかと」
危うくブラッディカーニバル宣言するところだった。反省。
「ここの町長がガルカに変わって以来ずっと虐げられて暮らしてきたんだ。シーファン
老師がお元気だった頃が一番平和だったよ」
「こいつらの町長の所まで案内してもらいたいんだけど」
「ああ、こっちだ! これでやっと解放されるんだな、俺たち」
「どうでしょうね。結局の所安心して暮らすためには自分たちで工夫して、悪漢を追い払う
しかないですよ」
「……あんたの言う通りだ。俺たちは他人を頼りすぎてこうなった。シーファン老師が
いるから安心だと。これからは皆で訓練して強い町を作ろうと思う」
「それがいいでしょう。折角武術の達人がいるんです。一人一人が町を守る気持ちで特訓
するといいんじゃないでしょうか」
そう話しながら、一軒の豪邸前に出る。この町に似つかわしくない。
ここからはセオリー通りに行くか。
ドアをけ破って中に剣を構えながら押し入る。
「な、なんだ貴様は! 扉を蹴り飛ばして入ってくるとは無礼な!」
ミドーに合図を送り、入口付近に来させる。
「息子たち! なんてことだ。バーバリアンのジョブカードを手に入れるのに幾らか
かったと思っている!? まだまだ足りんというのに!」
「あー、下種か。ちょうどサラも来たし頼む」
「はーい、邪術釣り糸!」
「なんだ、身体が自由に動かん! 放せ! わしは町長だぞ!」
「町長ってのはどうやったら決まるんだい?」
「国の議会に派遣されたんだ! 貴様らただじゃおかんぞ!」
「じゃあライデンさんに伝えればいいか」
「なんだと? 貴様英雄ライデンの知り合いだとでもいうのか?」
「俺たちは傭兵ガーランドの一団な者でね。別にここには傭兵として来たわけじゃ
なかったが、ちょうどいいか」
「ぐっ……その。金を払う。だから見逃してくれ!」
おいおい、お約束過ぎるだろ。金?
そんなもので主や仲間を散々舐めまわすような目で見られたり値踏みされたのが、許され
ると本気で思ってるのか? ばかばかしい。前世では金が全てみたいな世界だった
が、それでも許されない仕打ちだね。
吐き気がする。
「ふざけるなよ。お前らは金で命乞いした人たちを平気でなぶり殺しにしたり、酷い
仕打ちをしただろうが」
「それは額が足りないからだ! きちんとした金を用意すればちゃんと助けた! お前らに
もきちんとした額を用意する! だから、な?」
「いい加減にしろ。それ以上喋れば殺す」
「ひっ……」
俺は怒りに震えた。こんなクズ、生かしておけば災いになるだろう。
だが、ここでこいつを殺すのは俺の役目じゃない。
散々苦しめられた住人にこいつの所業を決めてもらおう。
「サラ、ありがとう。ミドーはこいつも一緒に縛ってくれるか。
死なない程度にきつめでいい」
「シュルー」
外に出ると全員戻って来ていたようだ。隠れていた住人も沢山いる。
「こいつらの仲間は他には?」
「とりあえず町から出て行ったみたいよ。隠れてて元気そうな動ける奴に、ベッツ
ェンのライデンへ連絡するように伝えておいたわ」
「そうか、助かるよライラロさん。だいぶイラつかされたから少しスッキリした」
「そこの屋敷を見る限り、居たのはクズでしょ、どうせ。どこにでもいるものね。
そういう奴」
「ああ。俺も以前嫌と言う程見たから。カッツェルの皆さん。こいつらの処遇はお
任せします。どうしますか?」
「どうするって……二度とこの町に来れないように出来ませんか?」
「そうね。殺せばもう来ないわよ」
「殺す……それはちょっと」
「あら、じゃあどうしたいのかしら? 生きていればまたここに来るかもしれないわよ」
「だ、だったら俺たちが強くなるまで来れないようにしてほしい! もう二度とあんな
状態にならないよう強くなるんだ! 町を皆で守ろう!」
「そうだな! 皆でこの町を守るんだ!」
この町は元々活気があったんだろうな。
きっと立ち直れるだろう。彼らなら大丈夫だ。
「なら私の時間凍結の空間に放り込んで、港町に着いたら島流しなり突き出すなりすれば
よかろう。どうせ峠ならその蛇は出せまい」
「それいい考えですね。そうしましょう」
一旦引き返さなければいけないのかと考えていたが、それならばこいつらをロッドの
港町まで連れていけるな。
――一件落着してからしばらくして、シーファン老師が町へとやってくる。
「有難うベルディスの弟子よ。この町は救われた。わしも余生をここで過ごし、今一度
町人を鍛えようと思う」
「そうですね。兵士を集い見回りなんかもするといいと思います。 皆でお金を出し
合い、役割を決めて頑張ってください」
「シュウさん。俺たちを鍛えてくれませんか!」
町の一人の青年が、声を挙げると、多くの人がシュウさんに集まってくる。
「だが俺は……ルインさんに恩返しをしたいんだ」
「それならシュウさん。俺たちが旅から戻ったら合流しましょう。それまではここで町人を
鍛えてやってほしい」
「しかし……いや、わかりました。そうしてみましょう。場所はこの前教わった、ジャンカ
の森の最も東の泉ですね。そこへ二人の領域へ行きたいと願いながら飛び込め……ですか。
不思議な話だ」
「ええ、いつでも大歓迎です。それじゃ町の解放を祝してパーッとやりますか」
『おー--!』
全員が一斉に声を挙げ、皆大いに騒ぎ夜を明かすのだった。