第一千話 全ては神々と、我が愛する者のために
本日分第千話目、これが最終話となります。
ここはラインバウト大陸の泉前。
その泉周辺では景観を保つため、周囲には大きな木が沢山植えられており、人々の憩いの場として利用されている。
それらは果樹であり、その木に成る果実は甘酸っぱく人気がある。
勝手に取ることは許されていないが、特別な一本の木にその果実が成っているときだけ登って取り、その場で食べても良いことにされている。
ただし条件は、二人一組であること。
男が木に登り、女の子が下で服をめくって受け止めること。
それが条件だ。
その木に登っていたのはまだ十歳になろうかという少年。
下にはピンク色の髪が映えるジト目の少女が一人。
彼女の片目は綺麗な宝石が宿るような色合いをしていた。
「おい! しっかり受け止めろよ!」
「余裕。私が登った方が早いのに」
「そーいう決まりなんだから、仕方ないだろ。結構高いな……あっ」
少年は木から落下し、その下にいた女の子が下敷きになった。
「痛っつつつ……痛っ! てぇーーー! 何すんだよ!」
少年が頭を抱えていると、頬を膨らまして蹴り飛ばす少女。
「さっさとどかないのが悪い。邪魔、未熟。雑魚も木から落ちる」
「なんだよ! ……って一応支えてくれたのか。悪ぃ……」
「どいて。実力の違いを見せつける」
「お、おい。この木は男が登って取らないとダメなんだろ?」
「ツインなら、そんなこと言わない。ツインなら、きっと、こうする」
「ああ……すっげー」
少女はスルスルと木に登り、少年に向けて果物をもぎ取り投げつけていく。
少年は顔面でそれを受け取るはめに。
「勢いが強いんだよ! 本当にお前は! こんなの服で受け止められるか!」
「ふっ……これが、鈴狼流」
「んな攻撃方法習ってないぞ! ったく、これで本当に王女かよ。メルザ女王、絶対育て方間違えてるよ……」
「カールーネーちゃーん! あーーーーーー! その木、女の子登っちゃダメなんだよーーー!」
「やっべエイナだ。おい早く降り……うわぁーー!」
少女は勢いよく木の上から飛び降り、長いスカートをはためかせて着地する。
慌ててそっぽを向く少年。
「あっ。スカートで、飛び降りちゃダメってメルちゃに言われてた。忘れてた」
「べ、別に見てねえし……」
「何を」
「なんでもねえよばーか、ばーか!」
「子供……」
泉は今日も平和に包まれていた。
その上空を大きな竜が高笑いを上げながら通過する。
「グッハッハッハッハッハァ! 今日も風が気持ちいい!」
「ぎゃっははははは。酒が足りぬわぁ」
「ふぬぅ。ルインのところへ酒をもらいに行くか?」
「今日は止めておけぃ。夫婦水いらずの日じゃろ?」
「ん? そうか。なれば竜狩りに行くぞ!」
「竜が竜狩りなんて、お主も悪じゃのぅ……」
「ところでルインたちはどこにおる?」
「んー。確か……デイスペルの幻魔神殿じゃったかな」
「ほう? 今更あんな場所になんの用があるのだ?」
「さぁのう……」
――デイスペル幻魔神殿前。
片手の女性に手を引かれ、歩く男性。
その肩には白い生物が乗っていた。
「パーミュ?」
「懐かしいな、メルザ」
「ああ、そーだな。けどよ、ハイネまで預けてきてよかったのか?」
「大丈夫。イビンが喜んで預かってくれたよ。ハイネはいい子だからな」
「んー。カルネがもうちっと大人だったらなぁ」
「カルネもしっかりしてるさ。ちゃんとお姉ちゃんしてくれているよ」
「ん、そう……だよな。おてんばなのは誰に似たんだ……」
「……だ、誰だろうなー。それよりも祈っておこう。これで最後だ」
幻魔神殿には既に取り壊し用の枠組がはめ込まれていた。
世界中にある幻魔神殿には取り壊し通知が出されている。
怪しげな祭壇、モンスターの徘徊する地下のことを説明し、町にあるには相応しくないという話を世界中に通した。
危険な場所として調査が進められ、認識されるようになった。
この祭壇で儀式をすると、特別な能力が手に入る。
だが、それは昔のこと。
ゲン神という存在が無ければその力は働かなくなる。
そしてゲン神はミーミル曰く、絶対神と共にすでに消え去った。
その下位神も全てだ。
「ルインがさ。最初に死んだかもって思ったのもこの町だったよな」
「ああ。あのときは無念で仕方が無かった。メルザたちとパモを助けようとこの町に来て。あの頃は何も知らず、戦闘のイロハを教わっただけだった。自分のことさえろくに知りもしなかった」
「それは俺様もだ。なんていうんだっけ? 胃の中の残りものだっけか?」
「……井の中の蛙だ」
「そーだ! 胃の中のカエル!」
「おい。今けろりんを思い浮かべただろ」
「にはは。でもさ。ルインとずっと離れてよ。俺様、分かったことがあんだ」
「なんだ?」
「ルインは俺様を一番に考える。だから離れていてもずっと、俺様のことを考えて動いてる。俺様はそばにいてーけどよ? でも、なんつーかいなくても安心出来るようになった。なんでだろーな。いつもルインの声が聞こえるんだ」
「そうだな、ボタンをかけ違えているぞ、とか、よだれが垂れているぞ、とか」
「むー、俺様別によだれなんて垂らしてねーぞ……たまにしか」
「はっはっは。やっぱりメルザには礼儀正しい女王なんて似合わないさ。お前はずっと、無邪気な妖精の女王のようであってほしい。それが俺にとって理想のお前なんだろう。そろそろいいか? 星の力。強すぎる力を幻魔の力でとじこめる。予定通りこの地に封印するぞ」
「ああ。でも本当に火の術で平気なのか?」
「そうミーミルに聞いた。その中でも最古の奥義」
【燃流滅斗炉】
メルザの片手から発せられた炎は、幻魔神殿の前に置いた黒曜石の剣へと飛ばされる。
アーティファクトである黒曜石の剣が破壊されることはない。
しかしその場から徐々に消え始めた。
「これがアーティファクトを封印出来る唯一の可能性か。タナトスの領域に放り込むより都合がいいな」
「ああ。すげー力だ」
「俺たちが生きている間に出来る限り違った伝承として残そうと思う。本当の伝承は必要ない」
「そーだな。いろんな力を封印しなきゃいけねーんだろ?」
「そうだ。そしてまだ、きっとどこかにある地底へ俺は行かないといけない」
「……うん。俺様、連れていけなんて言わねーよ。カルネも、ハイネもいるから。それが俺様の……ルインと同じくれー大事な子供のためになるんだろ?」
「その通りだ。子供にとって本当に必要なのは母親だ。父親はその生きざまを見せることが出来れば十分なんだ。だが、死ぬつもりはない。俺たちで出来る限り絶対なる神の力を封じていこう」
「ああ! でもさ、俺様……あっ」
メルザが話を続けようとしたところで、ルインはその体を強く引き寄せた。
「メルザ」
消滅する剣を見届けながら、二人は口づけをした。
それはおおいなるゲンドールを包むように見守ってきた神たちと、愛する主への誓いだった。
end
異世界転生、我が主のために
皆さま、1年と5か月、そして16日になりますでしょうか。
本当に長い間読んでいただき有難うございました!
作品を完成させたこともそうなのですが、最後までずっと、更新の度読んで下さる方がいて、感激で胸が詰まる思いでした。
230万文字という、想定より30万文字以上多い結果となりました。
ストーリーとは関係の無い人物紹介なども含めますと、1120投稿分もの量になりました。
初めての作品は長編じゃない方がいいと知ったのは、この物語を書き始めてしばらくしてからでした。
この作品は筆者である紫電のチュウニー初めての執筆作品です。
せっかくなので、作者名からなぜそうしたのかを綴っていきましょう。
作者名紫電のチュウニー。これは、紫電という中二的な響きがファンタジーにはぴったりだからです!
そして作品にそれなりに中二ワードが含まれる作品だからです。その方が分かりやすいのかなと。
……まぁそれだけなんですが、最初はインスピレーションで名前を決めればいいのかな? と、右も左も分からず決めました。
私らしいといえばらしいですが、こだわりがあるわけではありません。
作者名? どうしたらいいの? 適当でいいの? とりあえず適当で初めてみよう。
そんな気持ちでした。面白い作者名さん多いので、そっち路線でもよかったかなと思ったりもしてます。
よっしゃあーー! さんとか、理不尽な孫の手さんとか、作者名が面白いですよね。
今まで一度も執筆などを行ったことがない作者。
そして作者は視覚障がい者です。
色々な物語が次々に浮かぶ中、一番最初に書くのはどんな作品がいいのか?
それを考えたときに、まず自分自身を読者様に知ってもらわず書くのはよくない。
そう考えました。
そして、作品開始から完結まで一日も休まず執筆、投稿。こちらは小説家になろう投稿日が記されているので、そこで確認出来ています。
一日くらい休みたいときや、調子が悪くて書くのが辛いときもありました。
しかしながら読んで下さる方がいるからと、かなり無茶をした気がします。
書きながら、本当に多くを学んだ作品だと思います。
小説にしろ漫画にしろ思うことは、全ての登場人物は生きていること、そして何かを想い、考えて行動しているはずなんです。
これがはっきりとビジョンが見えたり、見えなかったりすることがあります。
ビジョンが見えた場合……このときは沢山書いて登場人物も設定がすごく濃くなります。
これが煮詰める作業で多分良くなるんですよね。
我が主でいうと、例えばカノン。遊魔であり、日本の童話をモチーフにした技を使う人物です。
彼女ははっきりと見えていました。ストーリー構成を会社の通勤で考え、帰宅後に一気に書き上げて次の日投稿用の仕上げをして、いい完成形となりました。
プロットが無いにも関わらず、キャラ設定が魔族として一番あります。
クインとニーナの能力や設定は、筆者の親戚の実家が農家さんでして、その中でも飛び切り美味しかったブドウ名から取ろう。
クインとニーナはカノンの妹たち。迫害され、殺されて……と連立方程式にどんどんイメージが数分で膨れ上がり、一気に書きあがりました。
CHATGPTなどは使用していませんし、小説家になろうないしカクヨムへのへべた打ちで、最後まで書ききっちゃいました。
ちなみになろうの方は自動改行機能すらありません。そのため改行がおかしくなっている場所があります。
こちらは環境がほぼ整っているので、ワードやらIPADやらでも書いていけます。
けれど、慣れって怖いですね。気付くとなろうで書いてるんです!
自分の校正力も上がり続けるしいいのかな? なんて思うようになってきていたり。
作家なら、いざというときに正しい校正で会話出来ないと恥ずかしいですものね。
いくらロボットが執筆した作品が増えていっても、最終的に読者さんは人が作ったモノを見ると思っています。
例えば模倣犯。模倣犯が見たい! それは、宮部みゆきさんが描く模倣犯が見たいんです。
紫電のチュウニーが模倣犯を書いたところでそれは見るに値しないでしょう。
宮部みゆきさんが書くから面白くなる。
そして紫電にはまだ、紫電が書いたこれだから! というものが書き上がっていません。
これから紫電のチュウニーの書いたこれが読みたいんだ! という作品を描いていき、そして読者の方々に楽しんで頂きたい。
そう思いながら、我が主が完結するまでは我慢していた、本気の新作プロットを一からちゃんと練って、MMORPG作品の執筆をするぞと意気込んでおります。
妄想するだけで楽しくて仕方ありません。よく我慢したなー……。
その次は三国志もの、戦国ものも書きたい! と本気で考えています。
まだまだ作家として活動を初めて1年5か月と16日。
経験を活かし、現作品及び新作、そして執筆予定のMMORPG作も含め、今後も頑張ってまいります。
引き続き筆者の作品を読んで頂ければとっても嬉しいです。
最後に重ねて御礼申し上げます。
長い間本当に、有難うございました!




