第九百九十三話 「やぁ」
ベルウッドが告げていた通り、爆発の規模はすさまじいものだった。
あらゆる力を行使して、その爆発を抑えにかかった。
絶対神、ゲン神族、そして管理者。
妖魔としての能力、モンスター、アーティファクト。
そんな力を持っていても、それは与えられた力に過ぎない。
その力が無ければ、ミーミルの森にいるときと変わらない、弱い魔族に過ぎないのだ。
全てを振り絞り、ベルウッドの爆発を抑え込んだ俺は、自分の寿命を感じていた。
「が、は……、方向を間違えれば、これだけで、大陸に影響、出てたな」
「おい、ルイン! ルイン! しっかりしろ! ルイン!」
「ラッピー、無事……か?」
「当たり前だろ! お前の真後ろにいたんだから。でも、お前、お前! それもう助からないだろ!」
「俺、気付いてたんだよ。いや、鈴木さんも気付いてた。この体、もうあんまりもたないって」
「……だから自分を犠牲にしたのか?」
「違う。酷い戦いを潜り抜けて来たんだ。俺を突き動かしていたのは多分、ただの使命感だよ。管理者の力を得た時から、タナトスの能力で察知してた。俺自身が死ぬことから逃れられないんだって。だから……急いだんだ」
「お前……でも神の力を使えば復活できるんだろ?」
「寿命は伸ばせない。それは定めだから。死んだ者は転生することはあっても、生き返ったりは……しないんだ」
「じゃあ、このままここで死ぬつもりか?」
「それは避けたいんだ。俺は鈴木さんと違って、日本に戻りたくない。だから、あの森へ戻してくれないか」
「分かった。ミーミルのとこへ連れてくぞ」
「すまないな、ラッピー。ベリアルの奴……最後に別れ挨拶くらいさせて欲しかった」
立ち尽くし、爆発を抑え込む姿勢から一歩も動けない俺の足元に、ここへ訪れたときと同じように文字が刻まれていく。
そして……「さぁ、戻るぞ」
「ああ。体には触れないでくれ。崩れ落ちそうなんだ」
「ああ……分かった」
「ルイーーーーーーン!」
転移が開始されそうなとき。
我が主の声を聴いた気がした。
だが、俺にはもう、目も見えず、立っている感覚も無かった。
そう。俺は死ぬつもりはない。
このゲンドールという世界で生きたい。
あいつらと共に。
「ばか、ばか、ばか! どーしていつもいつも一人で無茶ばっかすんだ! 俺様、俺様、ルインがいないと生きていけない! ルインが死ぬなら俺様も死ぬ! 何度そう言ったら分かるんだ! ルインは俺様をそんなに殺したいのか、ばかーー!」
「……ベリアルに連れてこられたのか」
「けっ。団子を喰いに行くついでだ。運んだのはルーニーだから俺のせいじゃねえな。ま、落ち着いて団子も喰える状況じゃなかったけどな。あっちも大変だったみたいだぜ。決着はついたけどな」
「はは……今にも死にそうな俺だが、お前にはとことん……」
「情けねえこと言ってんじゃねえ! ラッピー、転移を止めろ。今からこいつを治療する」
「いや、ミーミルと一緒にやった方がいい! 俺だってこいつを死なせないためにつれてこられたんだ。お前らも行くぞ。そっちの娘! 今絶対に触れるなよ!」
「なんだ? このヘンテコな生物」
「ヘンテコって言うな!」
そのラッピーの言葉を最後に、俺は意識を失った。
もう二度と目覚めないのかと思うと、最後にメルザへ触れられなかったことに悔いが残る。
そんなことを思い途絶えた意識の中、様々な過去の出来事が頭の中を過った。
それが走馬灯なのか。
それとも長きにわたる意識喪失のためなのかは分からなかった。
――再び意識が芽生えたのには驚いたものだ。
だが、転生ではない。
全身に激痛が走った。
俺は、きっと生かされたんだ。
どうやったのか、どうしてなのか分からない。
指一本動かせない程の状況は二回目だ。
常闇のカイナに体を真っ二つにされたとき以来だった。
不思議と声が聞こえる。
「やぁ」
お前は、誰だ?
「うん、繋がったみたいだよ。ゆっくり話そうか」
……懐かしい感じがする。
「そうだろうね。僕も懐かしいよ……君の心の声を聴くだけでも僕は、僕は……涙が止まらないんだ」
「ちょっとお兄ちゃん! 妻を差し置いて! 早く交代、交代して! 主ちゃん、もう涙でぼろぼろなんだから」
「ちょ、引っ張らないでよ。壊れたらどうするのさ。せっかくヤトカーンが作ってくれたんだよ」
懐かしい。そしてとても暖かい感じがする。
「ルイン。ルイン……ああ、ダメか。触っちゃダメなんだよな。ごめん。俺様、大丈夫。わがままも言わねーって約束したからよ。我慢するから。早くよくしてくれよ」
「ふう。カルネちゃんに厳しく言われて、主の方がよっぽど聞き分けよくなったじゃないか」
「だって、だってぇー! 五年振りなのよ。会いたかったに決まってるじゃない。ずっと、ずっと。ルイン。子供たち、元気に大きくなったわ。だからね。安心して。今はまだゆっくり休んで」
五年……か。五年も経ったのか。
だが、皆が無事で本当に、よかった。
「ご免ね。君にとっては一瞬だっただろうけど、僕らにとってはあまりにも長い年月だったんだ。今はもう少しお休み。ルイン。あれからのことはその時に、話すから」
大爆発から五年の歳月。
ルインの体はどうなっているでしょう。
五年後の部分からは会話文章で誰が誰か分かるよう、あえて会話者の名前を(ヤトカーンは出ていませんがヤトカーンが作ったあるものとして登場)挙げてはおりません。
キャラの特徴のみで描いております。




