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異世界転生 我が主のために ~不幸から始まる絶対忠義~ 冒険・戦い・感動を織りなすファンタジー  作者: 紫電のチュウニー
第四章 全ては我が主のために

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第九百八十八話 氷の森に住まう者

 それからベリアルと二人で食事を取り、森の中へと入った。

 吐く息は白く肌寒い。森ではあるが足元は歩きやすく、枝の広がりも大したことはない。

 幸いなことに赤星が使えたので、火を起こすのは容易だったので、暗くは無かったのだが、手元には松明もある。

 二人とも氷の世界を歩けるまともな恰好ではないので、身震いしながらも先へと進んだ。

 道中幾度かモンスターに襲われたのだが、封印などは出来ず、ただ撃退しては先に進むだけ。

 一体どのくらい歩いたのか分からないが、凍てつく森の中に一軒の小屋が見えた。

 周囲は生活感があり、誰かが住んでいるに違いない。


「寒すぎる、おめえが嫌でも俺はあの小屋へ入るぜ」

「いや、下より最初からそのつもりだった。道が歩きやすかったからな。人がいるかもとは思っていたんだよ」


 小屋にゆっくり近づくと、扉にたどり着く前に老人が杖を突きながら出て来た。

 こちらを見てはいるが、目が不自由なのかよく確認しようとしている仕草だ。


「おい爺さん。暖を取らせてくれ。このままじゃ凍えちまいそうだ」

「ふうむ。獣人の声、か?」

「声だけで分かるのか?」

「もう一人は……いや、強大な神の気配」

「神……?」


 老人はその場で杖を投げ捨て跪いた。

 どういうことだ? 俺が? 


「狭いところですがどうぞ中へ」

「有難う。少々困った事態で。色々と教えて欲しいんだ」


 老人は再び杖を取ると、俺たちを中へ招き入れる。

 小屋の中は確かに狭かったが、様々な道具がある六畳一間ほどの部屋だった。

 ひときわ目立つのは大きな弦楽器。動物のなめし皮などで作られた古いものに思える。

 それと大きめの暖炉があり、その前に飛び込んでいくベリアル。

 鳥の習慣が全然抜けていないのか、相変わらず鳥が枝に止まるような姿勢だ。


「さて。お二方はどこから参りましたかな?」

「それが分からないんだ。俺たち、ウガヤの洞窟で死んだかと思ったんだけど」

「うう、寒い……くそ、羽毛がありゃこんな寒くねえってのに」

「ウガヤ……ですか。懐かしい名前でございますな」

「ウガヤを知っているのか? ああ、申し遅れた。俺はルイン・ラインバウト。あっちはベリアルだ」

「ラインバウト……? 吟遊詩人の家系であったラインバウトでございますかな。それにそちらは魔対戦で大暴れしたベリアル様と?」

「ほう。俺のことを知ってるってのは随分と博識じゃねえか」

「失礼。こちらも申し遅れました。わしはトルバドゥール。そうですな、語り部……とでも申しましょうか」

「ラインバウトってのは俺の主の苗字なんだ。多分主も詳しくは知らないと思う」

「そうでしたか。一つお話をしましょう。古き時代、これはまだ神魔対戦前。世界にゲン神族の威光が広く示されていた時代のこと。世界は今より争いに満ちておりました」

「神魔対戦より前? おめえそんな古い時代のことを知ってやがるのか?」

「はい。少々長生きをしておりますからな」

「平和な世界じゃなかったのか? てっきり絶対神が来てから争うようになったものだとばかり思っていた」

「いえ。一部では平和だったのでしょうが、生物とは争い合うように作られるものです。安寧と争い。この繰り返しで調和が生み出されます」

「違いねえがよ。安寧ってのはてめえで勝ち取るもんだろう?」

「必然的に起こるものです。誰も動かず支配が進めばこれも安寧。虐殺が繰り返されても耐えられればそれが安寧。反旗を翻せば争いが生じる。歴史でこの一点が崩れたことはありません」

「……無残に誰かが殺されるのを、口先だけでやり過ごす社会もまた、安寧っていうのか?」

「はい。それに対し立ち上がった結果、百万もの命が失われれば、それは安寧ではありません」


 絶対的な権力者にむざむざ殺されていく姿。

 その統治はベルータスと同一のものだろう。

 そのベルータスに異を唱えて争えば、結局多くの者が死ぬ。

 争いと安寧、か。

 

「話の腰を折って済まない」

「いいえ。その争いのさ中にラインバウトはある国の宮廷において詩人であり、騎士でした。素晴らしい歌を奏で勇敢に戦い、王を守り死を迎えた。そんな歴史が何度も何度も、ラインバウトにはありました」

「まるで見て来たような言い方じゃねえか」

「ええ。少々長生きをしておりますからな」

「あなたは一体……いや、思いつくことがある。今までなぜ考えなかったんだろう。あなたは……ゲン神族側の管理者ですね?」

「お気付きになられたか。ルイン・ラインバウト殿。わしはここから離れられぬ身の上。あなたに会えたことがどれほど嬉しいことか。わしの正式名はトルバドゥール・ゲン・ミーミル。あなたの主が以前使っていた杖を作ったのもわしです。あの頃と随分気配が違いますから、確信は持てませんが」

「以前使っていた……ウガヤの洞窟で手に入れた杖か!?」

「わしが作った道具ですから。今のわしの目よりはよく見えました」

「そう、か……あなたはつまり、カイオスやウガヤ、それにメルザたちアルカイオス幻魔のことも詳しく知ってるんですね?」

「はい。ですが、今のあなたが聞きたいのはそのことよりもっと別。転生者についてではありませんかな?」


 この老人は一体どこまで見えているんだ。

 俺の思考の更に先。そんなところまで見えているようだ。

 絶対神側の賢者がブレアリア・ディーンだとするなら、ゲン神族側の賢者はこの人物で間違いない。


「賢者……ミーミル。どうかお力添えを願いたい」

ゲン神族側の賢者ミーミル。

この方に会えたのは偶然ではありません。

メルザたちの状況やルインたちの状況が大分ギルティの影響で目まぐるしく動きましたが、はてさて、どういう結末に進んでいくのでしょうか。

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