第九百八十五話 絶対なるもの同士の戦いその六 そいつぁ俺の、役目だぜ
ばらばらにしたシラが元に戻るたび、その姿はより攻撃的に、より強くなり復活してしまう。
「全テ、安息ノ地ヲ得るタメダケなノ。邪魔、死与エテ、与エ……」
腕は十六本、デュラサーより少し小さいサイズだが、その移動方法というか動き方がおかしい。
【移動】ではない。【ズレ】だ。
だから、シラの攻撃を回避出来ない。
「くっ、十王招来……ダメだ間に合わない! 炎天、それにエクスピアシオンだ!」
「はぁ、はぁ……俺に構うなルイン! このベルギルガ様はそんなにヤワじゃねえ!」
「私だって庇わなくてもいいよ! ちゃんとメルザちゃんは守るから!」
左右からバルフートとレヴィアタンによる連続攻撃、そしてメルザから極大の火炎攻撃をシラに当てている。
俺はスペリオルタイムで奴の十六本の腕全てを切り落とし、肩から放出されるミサイル群をも打ち払っている。
爆発をもろともせず、俺自身は今のところ無傷だ。
そしてこれは、アルカーンの力で時間を遅くして行っている。
「もう一度合わせますわよ、ライラロさん!」
「……そうね。でもこのままじゃまずいわ」
ライラロさんの言う通り。このままじゃまずい。
「一発でも食らえば俺以外終わりだ。それだけの威力がある」
「ダメ。やっぱり幻術の力も効いてないよ! ねえ、逃げた方がいいんじゃないの。こいつだけこの場所に置き去りにとか、出来ないの?」
「無駄だ。泉から元の場所に戻れる。ここでシラを行かせたら、外にいる奴ら全員死ぬぞ!」
「俺様の攻撃、全然効いてない。なんなんだよ、こいつ。どーしてだ? どーしてこいつは死なねーんだ? こいつは一体何しよーとしてるんだよ」
「徐々に腕が戻る速度が増している。これ以上増えてくれるなよ……」
再びスペリオルタイムを使用し、腕を切断する。もうスペリオルタイムに後がない。
通常状態でこいつを止めるのは不可能だ。
「ヤト。あいつを機械と人と魔族と神の混合として認識しろ。人としての成長力、機械のような元に戻る能力、魔族的な強さと意思。神がかった異質な能力。最悪、俺ごと殺れ。俺には十王、癒の力で傷を治せるから。メルザも見てただろ?」
「けどよ! 攻撃が効かないんじゃ意味ねーじゃねーか! ルインだけ傷付くだろ!」
「俺があいつと一体化すれば、俺の部位が弱点になると思う。シラの見えている半身。あれは既に生身じゃない。そこが弱点じゃなかったんだ」
「だったら僕がその役目をやるよ。君を主が攻撃出来るわけないだろう?」
そう言って俺のマーキングへ飛んでくるリル。
それじゃ攻撃を防ぐ役が足りない。
「ダメだ。ベリアルとフェネクスを入れてもこいつの攻撃を防ぐ役目が必要なんだ。それにメルザ。お前なら幻魔の宝玉、出せるだろ? きっとさ」
「あ……でも、絶対じゃないかもしれねーしよ……」
どのみちそんなもの出されても、使わせたりはしないけどな。
気休め……かな。
「もう後がない。ヤト。俺が奴と重なったらこの槍で攻撃してくれ。必中の槍、グングニル。ベルギルガよ。カルンウェナンをお前に。カウントレスハートレス、お前にならきっと扱えるだろう」
二人に神話級アーティファクトを託すと、復活するシラへ再び切り込む構えを取る。
見極められなかったなら、覚悟を決めるしかない。
腕がさらに増えて十八本。もうこれ以上防ぎきれない。
「ベリアル、フェネクス。外へ出ろ。パモ、よくサポートしてくれた。メルザの下へ。大丈夫、そんな顔すんな」
「パミュ……」
「我ら無くしてスペリオルタイムとやらは平気なのか?」
「……ちっ」
全員不服そうだが、指示通り動いてくれた。
「行くぞ……っ!」
――覚悟を決めたはずだった。
だが、ドラゴントウマの姿となったベリアルの尻尾で思い切り真横に吹き飛ばされた。
その方向にいたベルベディシアがとっさに俺を支える。
「何しやが……ベリアル! お前!」
「あーうるせえうるせえ。いつもいいとこ持っていきやがって。おめえは俺で俺はおめえだろ。ならどっちがこいつに取り込まれたってかまやしねえ……なぁルインよ。俺ぁ満足だぜ。地底を崩壊させてよ。このクソ野郎にもトドメを刺せるんだ。そりゃ他でもねえ俺の役目だろ。ああ、楽しかった。清々したぜ。タルタロスもタナトスもみんなぶん殴れてよ。もう思い残すことはねえな」
「止めろ、ああ……」
俺を吹き飛ばしたときにはもう、ベリアルは三分の一ほどシラに飲み込まれていた。
「殺れ。無駄にすんな。ヤトカーン、ベルギルガ、ライラロ、ベルベディシア……フェネクスも、そしてルイン。おめえもだ」
「止めろ、止めろ止めろ止めろ止めろ! お前じゃどうあがいても助からない、助からない!」
「いいからさっさと殺りやがれ、この大馬鹿野郎が!」
「ご免、ベリアル君!」
「……それがあんたの選んだ道なら、いいわ。レヴィアタン。全力で行くわ」
「わたくし、まだ言いたいことがありますのよ。だから死なずに倒してみせますわ! バルフート!」
「よく分からねえがいい覚悟だ、鳥。行くぜぇー!」
全員、動こうとしているのに。
俺は何をしている。トウマ……ベリアル……俺はこの世界に来てお前と共に……「バカ野郎……うおおおおおおおお! 生罪の剣、今ここに。ペカドクルード!」
「へへっ……それでいい。泣き虫なのは変わらなかったな、あばよ……相棒。ああ、もう一度だけへたくそなナナーの作った団子が、喰いたかっ……」
取りこまれ、残った半身部分のドラゴントウマにありったけの攻撃が当たる。
シラは今までと異なる悲鳴音を上げ、どさりと倒れた。
「癒! 急いで、ベリアルを直してくれ! たの……」
「許サナイ。殺ス、痛イ痛イ痛イ痛イ遺体遺体遺体遺体遺体ニシテヤル!」
倒れたまま半分のドラゴントウマをちぎり、シラは怒りに叫び声を発していた。
倒しきれなかった。もしあれが俺だったら、この段階で全員死んでいた。
大切な友を犠牲にして、俺は、俺は、俺は! 【スベテヲ越エシ者、カイオストナレ】
体中がどす黒い霧に包まれる。
もう何も失いたくない。平穏に暮らしたいだけなのに。
生まれ変わっても辛い人生に希望の光を灯してくれたメルザと。
ただただ平穏に暮らしたい。
そんな一滴の希望すら許してくれないこんな世界など。
「許されるはずがないんだ」
「ルイ……ン?」
「俺が最初からこうすれば、俺以外は幸せに暮らせたんだ。だから、終わらせるんだ」
「リル君! 退避だよ! これ、やばいよ。メルザちゃんを守ってあげて!」
「ダメなんだ。動けない。きっと封印者は全員……」
「わたくしもですわ。ライラロさん。それにベルギルガさん。ヤトカーン。あなたちは彼女を連れて退避なさい。それがあの方の願いですわ……」
「私は残るわよ。あんた一人じゃ到底止められないでしょ。舐めないで欲しいわ。最後まで残る!」
だから、最後に……お前の顔を、メルザ。
俺が必ず、守り通してみせるから。
「ベリア、ル。俺に、力と、希望を」
話しを書くのが辛過ぎて、何度も何度も消しました……。
しかし消えないのです。その痛みを力に変えて。




