第九百八十四話 絶対なるもの同士の戦いその五 ベル家の妖術
神兵ギルティに宿るシラは、続けざま攻撃を行ったベリアル、フェネクスに鞭を振り、後方へ吹き飛ばす。
俺はひたすら至近距離へ詰め寄り、奴が一歩も前へ出られぬようにデュラサーと連携をする。
デュラサー巨体での薙ぎ払いを、大斧で防ぎながら、術、鞭での攻撃が交互に来る。
それらを二刀でいなすと、反対側の腕にある槌でデュラサーを横から殴りつけてくる。
さらに鎖が俺へと伸びてきて、縛り付けようとしてきた。
シラと眼前の攻防。
激しく斬撃を振りかざし、持てる能力を駆使して互角かやや劣勢。
奴はベリアルとフェネクスの上空からの攻撃にも応対している。
凄まじい反応力だ。
後方には西寄りにライラロさん、東寄りにベルベディシア、それぞれが操るレヴィアタン、バルフートが攻撃の準備を推し進めている。
この布陣は地底と同様だ。
そして、中央後方にベルギルガとリルに待機してもらい、メルザがそこにいる。
今にも飛び出したくてうずうずしているようだが、それをヤトカーンが抱きしめてしっかりと抑制している。
「ダメだからね。絶対動いちゃダメ。見極めないと。それまではメルザちゃんに攻撃させないから」
「でも、俺様早くしねーと……あいつ、つえーんじゃねーのか」
……その通りだ。俺たちの攻撃は効いていない。
腕を吹き飛ばし、臓器を吹き飛ばし……何をしても壊れた機械が新品になるよう元に戻る。
定期的に封印を試みてはいるが、まったく封印出来そうにない。
違う次元に引きずりこもうとしても、現象そのものが否定される。
「ラチがあかねえ! 一体どうしろってんだ、こいつはよ!」
「くそ。これが本当に神兵ギルティか!?」
「しゃべってると舌噛むぞ、お前ら!」
俺は戦闘に集中しながらも、ベルローゼ先生との特訓を思い出していた。
「先生。俺には妖術の才能が無いんでしょうか?」
「才能?」
「はい。何せ未だに妖楼くらいしかまともに使えませんから」
「才能というより家系の傾向によるものだ。お前の親がどういった妖術が得意なのか。それを知らねば見えてこない部分もあるだろうな」
「俺の、親ですか。うーん、覚えてないし名前も分からないんですよね」
「ふっ……それならいずれ分かったときにでも試してみるといい。それがお前に合った妖術だろう。それとな。才能の有無は関係ない。俺の修行についてこれるかどうか。それこそが才能だろう」
「それは諦めが早いか遅いかの違いじゃないんですか?」
「いいや。諦めが早くても別の方向に思案して、違う形で努力をする奴はいる。諦めるのが遅くても、何も工夫せず、そして考えずにただ続けるだけの奴もいる。必要なのは己で考え、行動し、試みること。その中から成長を見出すんだ。考えにいたらなかった場合、それを聞き、受け入れてみる。あるいはさらに考えられる姿勢だな」
「うっ……肝に銘じておきます」
「お前は心配ないだろう。料理が得意だからな」
「味覚のように分かりやすかったらいいんですけどねぇ……そうか、五感も交えて修行しないとなんでしたね……」
――懐かしい記憶だった。あの時は死ぬかと思った。
赤星という力を得たが、結局妖魔としての力はあまり向上しなかったな。
そして今俺は、敵対するシラに試さないとならない。
妖術がどの程度効くのかを。
俺の三百六十度ある視界で、ベルギルガの表情をよく見る。
こいつは死なせたくない。
俺のことを……親族と呼んでくれる数少ない男の一人だ。
そして、それは先生も。
だが先生の妖術は黒星以外見たことがない。
残念だがあれは、先生の力を借りねば無理だろう。
俺が使うのは……「妖霊魂招集……悪魂、残虐霊」
「あ、あれは……親父の!」
俺の親族はベル家だ。
つまりベルータスは俺の親族。
それならば、あいつの使っていた術には適性がある。
さらに言うなら、適性があったからこそ、ベルータスの親族である無駄三昧のビノータスの攻撃もすんな真似が出来たのだろう。
ベルータスが以前フェルドナージュ様と戦闘していたときに見ていた術。
これはタルタロスの能力とも相性がいい。
こちらが霊魂を生み出している間に、シラはさらに攻撃を加速させ、ミサイルのようなものを肩から噴出してベリアルたちを攻撃した。
「やべっ、死……」
「怨霊防壁」
ベリアルとフェネクスの正面に、四角く伸ばした霊魂が現れて、攻撃を防いだ。
その霊魂はバラバラに砕け散ったかと思うと、直ぐに元に戻り、シラへとまとわりつく。
攻撃を防ぐだけでなく、攻撃した者へ私怨を返す恐ろしい術だ。
「震えながら死ね。怨霊爆散」
指を弾くとまとわりついた霊魂が大爆発を起こす。
自らの巨大船スターウィユベールを大爆発させた残虐的爆発。
使用される霊はどれも悪魂……輪廻出来ない魂たちだ。
木っ端微塵に砕け散るシラ。これほどの爆発であれば元に戻るまで多少の時間は必要だろう。
「妖魔君の攻撃……やっぱりダメだ。妖術、使うたびに成長してるよ! でもなんでだろう。成長はしてるけど効果はある気がする」
「ヤト。次は幻術で攻撃してもらう。メルザ! 俺が正面で盾をする。俺に何があっても前には出るな。後ろから攻撃を続けろ。約束だぜ、いいな!」
「わ、分かった……うん」
「ライラロさん。ベルベディシア。それぞれをリルとベルギルガが守ってくれ。無茶はするな。お前らの補助は俺がする」
「僕を補助するのかい。それは逆だといいんだけどね」
「俺なら大丈夫だ。死んでも守るぞ!」
「ベリアル、フェネクス! 一度戻って休め。スペリオルタイムが必要だ。お前たちの力を内部で借りたい!」
「けっ……仕方ねえな」
「承知」
ベリアルと一緒にデュラサーも戻し、代わりにパモを肩に乗せた。
さて、あれでもダメとなるといよいよ打つ手が限られる。
幻魔の力でダメなら後は……残る手段は少ない。
さて、ついに見せましたルインの妖術。
これは最初から見て下さった方はとても懐かしいかと思います。
残虐のベルータスが使用していた術ですね。
ただルインの場合は残虐な行為をすると威力が増すわけではなく、単純に悪い霊魂をタルタロスの力で呼び出し使用する、というものなのでベルータスほどの威力は出せていません。
しかしながらそれでも、かなりの高威力を持つ妖術のようです。
妖術の特徴本来は取り込む力。この使い方が出来るのは、幻魔の力を魂に秘める、ルインだからこそ出来る術の使い方なのでしょうね。




