第九百八十二話 絶対なるもの同士の戦いその三 ギルティ攻略の選別者
お早い時間に失礼します!
無数の手に追われながらも、ベリアルは巧みに宙を舞う。
神兵ギルティ……もうじきお前と雌雄えお決する時が来るだろう。
「待ッテ。好キ好キ好キ好キ好キ好キ好キ好キ好キギギギギギィーー」
「ちっ。しつっけえぜ! 追いつかれるかもしれねぇ!」
「なぁ、ガラポン蛇。俺様の願いを……ムグッ」
メルザの手を慌てて抑えた。
お前に願いを叶えさせるわけにはいかない。
「ウガヤ。外部から一切の干渉を受けず、追ってくる奴を巻き込んで戦える場所を作ってくれ。俺にもカイオスの血が流れているなら、メルザじゃなくてもいいだろう」
俺はこいつの恐ろしさを知っている。
メルザは知らないんだ。
こいつは……守り神であると同時に危険な存在であることを。
ウガヤは小さな蛇の形をしているが、その小さな口から一つの見覚えのある玉を吐き出した。
【何一つ干渉を受けぬ洞窟へ誘われん。追いし者と共に泉へ飛び込め】
……これが切り札となればいいが。
ウガヤはその玉を吐き出すと、姿をかき消した。
願ったのは俺だ。災いが降り注ぐなら俺でいい。
「あれ、ガラポン蛇、消えちまった? なぁなぁ、お宝じゃねーのか?」
「メルザ。しっかりつかまってろ。ベリアル、ヤトの方に向かったのは誰だ?」
「あっちにゃリルとベルギルガがいるぜ。妖魔同士で固まってんな。フェドラート、フェルドナージュもいる」
「ベルベディシアにライラロさんは?」
「近いっちゃ近いがベルベディシアの奴は分体三体を引き付けてやがる。あいつにとっちゃ地上が一番戦いやすいんだろうよ」
各自バラバラに展開して戦っている。本体を引き付けてるのは俺、ベリアル、メルザ、フェネクス。
状況を把握しながらも、迫る手に対し、メルザの幻術と俺の剣術で耐え凌ぐのが精々だ。
分体の方もダメージを与えられていないのだが、地底にいた頃のように本体を守る動きは見せていない。
「ラモト・ギルアテ」
しつこく迫る手をまとめて焼き払う。
そこに間髪入れずメルザの巨大氷がさく裂して、全ての手を打ち払った。
神兵ギルティ本体はこちらを追っているが、ぎこちない動きだ。
「着いたぜ。ヤトカーン! おめえに用事だとよ! そのまま飛び乗れ! ガァァ、エゴイストテュポーン!」
分体と戦っていた集団に奇襲をかけるようにして、分体を弾き飛ばすと、ヤトカーンがベリアルに飛び乗る。
ついでリルとカノンに合図して、二人も飛び乗った。
さらにベルギルガも飛び乗ると、若干ベリアルが重そうな声を上げた。
「ルイン! こちらは任せておけい。何か策でも思いついたのだな?」
「はい。フェルドナージュ様はベルローゼ先生寄りに移動を。上手くいけば分体にダメージは通るようになるでしょう。ですがそいつらは危険かもしれない。攻撃が効いたら爆発してもいいように結界を張るか退避を!」
「分かった。皆の者、聞いての通りじゃ。通達に参れ!」
あれはフェルドナーガに奴隷にされていた奴らか。
既に統率が取れた集団となっているのはさすがのカリスマ性だ。
「ちょ、妖魔君少し位は説明してよ!」
「ん? この姉ちゃんは確か……」
「ヤトカーンだよ! もう忘れたの? ひっどー」
「悪いが説明している暇はない。このままベルベディシアとライラロさんを連れていく」
「え? どうして? 戦闘ならあのベルローゼって妖魔が一番強いよね?」
「先生の使う術じゃダメなんだ。ベルベディシアとライラロさんなら攻撃は通るはずだ。メルザ、お前もだが……必要なのは幻術使い。それと機械の知識だ」
「妖魔君、全然分からないけど今は信じるよ」
「おい、そんじゃベルギルガはいらねえだろ!」
「俺はついていくぞ! 残された親族も、もうお前しかいない。あの場にいたら足手まといだったからな!」
「ならベルギルガ。お前はメルザやライラロさんたちを守る盾になって欲しい。リルはカノンを連れて子供をカルネの下へ。泉で別れよう」
「それはいいけど。僕は行くよ? 泉に向かうのはカノンだけで十分だ。でも、女王の盾ならそれこそベルローゼの役目じゃない?」
「先生は戦場を支配出来るほどの強さがある。ほら、見てみな」
分体四体に囲まれているが、涼しい顔をしたまま攻撃を全て回避している。
こちらを見ると、少しだけ天を仰ぎ笑ってみせた。
比類なき格好良さ。それがベルローゼ先生だ。
「あのおっちゃん、本当に強いよな」
それを聞いてヤトカーンが固まる。
いや、俺もおっちゃんはないだろうと思うけど、妖魔は年齢不詳だ。
まぁ年齢なんて大した意味をもたないものなんだが。
「おっちゃん!? あの黒星のベルローゼがおっちゃん呼ばわりされるのかぁ。メルザちゃんて本当に大胆というか面白いよね」
「また手が伸びてくるよ、ルイン!」
「不死鳥の舞……爆炎!」
しつこく何度も放出される手に、フェネクスの火炎が横から薙ぎ払う。
あの手に取り込まれると、ギルティと一体化してしまう。
残りの分体がほぼ全てライラロさんとベルベディシアの近くにいる。
「シーザー師匠! ライラロさん、借りますよ!」
「んあ? おう、早く連れてけ!」
「ちょっと何言ってるのよ! 今ベルディスといいところなのよ!」
激しく文句を言うライラロさんだが、ハーヴァルさんに担がれて放り投げられた。
ベルギルガがキャッチするとグーで殴られる。
お前ってやつは……いつも頼りになるな。
「ベルベディシア! お前もだ。テンガジュウ、ビローネ、ベロアは分体を率いてクリムゾンたちと合流をしてくれ」
「あら、ようやく本体のお出ましかしらね。テンガジュウ! ……あとは任せましたわ」
「ええっ? 俺が?」
「汚いぞテンガジュウ!」
「そうよそうよ! いっつも姉さまに……あれ? 任せる?」
クスッと微笑んで分体から離れるベルベディシア。
当然分体に取り囲まれてしまうが……俺たちをずっと地上から追っている者に合図を出す。
「シュウ、足止めを頼む!」
「承知。忍術、影縫い闇縛りの術」
地上からこちらをずっと追っていたシュウは、手助けする機会を伺っていた。
死神の格好をしているのはスキアラからの贈り物か何かのようだ。
シュウもベルローゼ先生同様、戦場全体を把握して戦っている。
俺へと向かってきた分体は全て地上へと縫い込まれ、身動きを制御された。
「すまん、あまり持たない!」
「十分だ。シュウ! 無事に戻れたら沢山話をしよう。ベリアル、本体を引き連れジャンカの泉へ」
「おう!」
「んあ? 町に戻るのか?」
「いいや。向かうのは最終決戦場だ」
ウガヤの玉。
全てはこの玉で始まり……これで終わる。
だが、俺はその先を見据えねばならない。
他の誰も頼れない、俺だけの問題としてだ。
運命の選別。
ルインの同行者はメルザ、ベリアル、フェネクス、リル、ライラロ、ベルベディシア、ベルギルガ。
封印内にはパモやバルフートなど、複数が……?
さぁ最終決戦地、ウガヤの洞窟へ!




