第九百七十八話 世界中の仲間たち
メルザが乗っているあの鳥は、まさかルーニーか?
なぜあんな姿に。それに、俺がルインだとどうしてメルザは分かるんだ……。
「へへっ。フェド先生のが役に立ったぜ。ただ、体と一緒になるとかいってたから、もうルインのいるとこは俺様にずっと分かるからな。にはは! にしてもすげー変身だな。恰好いいぜ」
「ギ、ガ、グ……」
……ははっ。この姿が恰好いい? 俺の主はどうかしてる。どうかしてるよ、ほんと……。
何諦めようとしてんだ、俺。こんな姿じゃメルザに分かってもらえないなんて。
そんなはずない。分かってもらえないなら分かってもらえるよう努力すればいい。
それが、俺だったはずだ。
何度も何度も何度も苦難を乗り越えて来たじゃないか。
それなら、それなら!
「ギ、ガ、アアアアアア! ルイン・ラインバウト。こんなわけの分からない状態異常、ぶっ飛ばしてやるよ!」
「邪魔ヲ、スル、ナ。全テヲ灰燼ニ帰セ」
神兵ギルティ全ての腹の口から凝縮された黒い塊が放出されていく。
だが、メルザは構わずこちらへ突っ込んでくる。
俺は安堵していた。
この場にいる全員、死の暗示が見えない。
どうにか出来る……そう確信していたのが油断だった。
黒い塊は放出され、その場にいた全員が弾き飛ばされていく。
「な、なぜ、なぜ動けない。メルザ、メルザーーーー!」
ルーニーがかばうのはみえた。だが、あんなものまともに受けたら……他のやつらも全員墜落していく。
動こうとしても、俺は……体がピクリとも動かなかった。
動けないまま、主がなぶり殺されるのを見ろっていうのか。
あらゆるものに力を懇願してみても、何も起こらない。
それどころか神兵ギルティに一切の攻撃を行えない。
「だカラ、カラ、カ、カ、カ、言っタ、言っタ言っタ言っタ、の、のの、ノニ」
「ふざけるな! 言葉は話せるようになった。体だって。お前の好きにはさせない」
「好き。好き? 好き。 好き? 好き好き好き好き好き好き好き好き好き好きキキキキギギギギギ」
頼む。誰か、誰でもいい。封印から出てきてくれないか。
タナトス、タルタロス、カイロス、ブレディー。力を貸してくれないか。
バルフート。デュラサー。ター君。なぁ。頼むよ。
俺は、一人じゃ何も出来ない。弱い存在だ。
こいつとのクサビを断ち切りたいんだ。
諦めるな。急いでメルザを助けに……「燃巨人斗!」
大型の炎が神兵ギルティへと飛んでいく。
さらに続けて「邪剣の力を思い知るがよい」
「はいはいー。ありったけの岩なんか用意してくれれば投げつけるけどねぇ」
「少しフェルドナージュ様から離れなさい! ルインさんの周囲に強い結界を張りました。今のうちに!」
あれはフェルドナージュ様にジオ、フェドラートさん。無事だったのか。
「お父さん! 今だよ!」
「義息殿! 遅くなり申した! ありったけの動封道具を持って参ったぞ! 嫁入り道具として受け取ってくれい!」
「はぁ。お兄ちゃんって本当、旦那に首ったけよね。奥さん置いて戻ってこないんだもの。うちの旦那も旦那よ。どれだけ妻である私たちを待たせるのかしらね」
「本当よね。家で子育てするのは楽しいけど、たまには旅行に連れてって欲しいのよねー」
「ギャハハハ。レミ、海底旅行がいいなー」
「はぁ。海底大変だったっしょ。綺麗だけどまじむり地上がいい」
「ぼぼ、僕が怖いけど守ってるから! ルイン! ここ、今度は僕が守るんだ!」
ヤトカーン、ズサカーン、アイジャックもいる。
サラ、ファナ、レミ、ベルディア、それにイビンも。
メルザは吹き飛ばされ……傷を負っていなかった。
レミのムササビがメルザを加えて、ファナが牛鬼でキャッチし、ベルディアとサラが連携して黒い塊を弾き飛ばしていた。
墜落した奴らは全員、ハルピュイアの姿を選んだものたちが受け止め……そして。
『この世界は全員で守る!』
ルジリトに率いられ、トリノポート大陸、ジャンカの町とベッツェンの間……元三夜の町付近には大軍勢が集まっていた。
「無駄なアガ、ア、アガガ、ガ、ガキ、コ、コの世界ハ、終わリ」
本体のギルティが俺へと無数の手を伸ばす。
そうか、俺自身が世界を終わらせるきっかけ、なのか。
この封印の力。
神ですら封印する力だ。
それがこいつのものになれば、確かに世界は……終わりだろう。
けどな……『ルインは渡さない!』
俺は多くの仲間に守られている。
無数の手をフェドラートさんの結界が防ぎ、姉のアネさんがその間に俺を地上へと下ろす。
直ぐに……シュイオン先生とマァヤが俺を見る。
「本当にあなたって人は、何度言えば分かるんですか! 無茶ばっかり、こんな姿で……よく、生きていましたね」
「これは呪いの類か。ずっと呪いが効かないのは、これで守っておったからか。すでに呪われていればあらゆる呪いは効かぬ。カイオスそのものの呪いか、あるいは絶対神かもしれん。シュイオンや。直ぐに試してみよう」
俺は守られている。いろんな奴らに。
「先生が治療中はスピアが守るからな。ふふん、ちゃんと助手を務めてるんだぞ」
沢山の仲間と出会った。多くの人に助けられたよ。
「このあたりのモンスターはちゃんと倒してる。だからモジョコも安心だよ」
「グレンお母さん。お兄ちゃん、痛いの? 苦しいの?」
「僕たちだって沢山励ましてあげることは出来るんだ。ね? アルン兄ちゃん」
「ああ。ルインさんがいなければ、きっと生きていられなかったんだ。もし死んでしまうなら、その時は一緒がいい」
どんな苦しい中でも、必死に生きている者はたくさんいる。
「ハヴァルがわらしを置いていったれしてヴぇぇーん!」
「お前は空気をにごすから、離れすぎないところで大人しくしてろって言っただけだろ!」
「ねぇダーリン! まとめて全部相手するのはいいけど、もっと近くで戦っていいでしょ!」
「うるっせえ! それ以上近づいたら嚙み殺すっつってんだろ!」
たくましく育てられ、決意して。
「このあたりも開拓しようと思ってたしな。破壊されてもまた大きく作り変えられる」
「ムーラ族長。資材不足は解消できそうですか?」
旅の行く末で多くの種族と出会った。
「問題ないぜ。ハートのビート。俺と木材運ぶぜ機材。イエァ!」
不思議な場所で世界の広さに触れた。
「ささ、まずは食べて食べて! 団子やモギ、新作団子だよー!」
自分たちの領域が大きくなり。
「武器も防具も最新式さ。このカーィに掛かれば壊れた武器も元通り、ね?」
「ふぅ。伝書の力をまだ半分も伝えられていないというのに。終わったら会議もせんとな」
世界中と繋がった。
「でんでらりゅうば、でてくるばってん、でんでられんけん、でてこんけん、こんこられんけん、こられられんけん。ルイン、それにリルさん。遅くなって、ごめん! エヘヘ。私とリルさんの子供、連れてきちゃった」
「あうあー」
時には少ない仲間との冒険もした。
「私なぞより先にお亡くなりになどさせません。私はあなたがいねば、生きてなぞ、いられないのだから!」
そして時には多くの仲間と旅をした。
「妹を救ってもらった恩人、守り通して見せるさ」
「ええ、レッジ兄さん。命にかえても!」
「俺っち死にたくはないじゃんよ」
この広い世界で、主ならそうすると思い行動したんだ。
「兄貴ー! あっしらだけ少し部外者みたいですぜ!」
「弟よ! 守ってみせる!」
「げーっ げけっ」
……その中には愉快な奴らも大勢いた。
「うふっ。私を守ってくれていいのよ?」
「せっちゃんが守られました」
そして俺は旅の果てに……「女王のめいれーだ! ルインを、世界をあいつから守れー!」
『おおーー!』
たった一人の優しい少女のために。
その少女は、たった一人のこんな俺のために。
世界中の人々を導き、共鳴させられたんだ。
ゲンドール大陸十で結集した仲間たち。
ここまで読み進めて頂いた方には多くの情景が浮かんだかと思います。
会話で全ての情景を思い浮かべて頂けるかは分かりませんし、膨大な人数ですから、これ誰だっけ? となる人物もいるでしょう。特に若干インパクトが強くない登場人物(レッジ、レッツェルとか)もいますし、登場させていない人物もいます。
多くの冒険で出会った仲間たちは、かけがえのないものです。
いよいよ大詰めの物語ですが、最後までお楽しみいただければ幸いでございます。




