第九百七十一話 ソロモンの悪夢たち
本日から第五部第四章となります。
出だしは予告通り時系列そのままにしてあります(久方振りにすごく迷いました)
神兵ギルティは絶対神スキアラが生み出してしまった忌神の兵士という記憶がタナトスにはあった。
その魂はいくつかに分けて封印されたようだ。
つまりシラが抱えていた玉のようなものは、神兵ギルティの一部であると推測していた。
封印したロキから情報を聞き出すにもあいつはネウスーフォにより消滅……地上にあるとするならそれはどうしたものか。
ギルティの強烈な咆哮により地底の崩壊が始まっている。
俺は地面に手を着き、最大限に闇を引き延ばして、ブレディーとタナトスの力を行使する。
……無理だ。いや、手を離す方が無理だ。多少は効果があると思われるが、管理者の力をフル活用してもこの崩壊自体は止められないかもしれない。
「おいルインよ。いつまで呆けてやがる」
「……遊んでるわけじゃない。お前はギルティを知ってるんだよな?」
「ああ。あん頃は絶対神の勢力を舐めてた。地上で活動してるときだったからな……あ? なんだありゃ」
鳥の姿で肩に乗るベリアルと空を眺めると、次々とシラが持っていたような薄気味悪い玉がギルティへと集まっていく。
その数全部で四。
分かれていた魂の欠片か?
それを見届ける暇もなく、ベリアルの古参、封印されたソロモン七十二柱のシャックスが動き出した。
「先手もらい! ゲイボルグ、頂くぜ!」
「汚いぞシャックス! ずるいぞシャックス! やっぱり嘘つきシャックス!」
「やんややんや。あんな槍もらっても使えないだろ。俺たちが欲しいのは安息の地だけだぞ」
ハルファスとマルファスの二匹はギィギィと鳥声で話し合っている。
その後ろで傍観しているのが自らを不死鳥と呼ぶフェネクス。
ヴァサーゴはその横で、まるでただの門番兵のように腕組みをしている。
こいつらに必要なのは強制的な手綱ってより勝手に統率された状態にする指揮官だな。
シャックスはハトのような姿に変貌して、ギルティ本体へ突撃していく。
こいつら全員鳥繋がりか!
それでフェネクスは鳥に嘘はつかないなんて言うんだな。
今の状況だと両手がふさがっていて行動出来ない。
俺が待っているのはルジリトからの連絡なんだ。
その前にこいつらには足止めしてもらわないといけないが、死なせるわけにもいかない。
「レウスさん。突っ込んだシャックスの補助を頼む。セーレはウォーラス、ハルファスたちと奴の眼の誘導を……と、援軍の到来だ」
「ちょっと。私はどうするわけ? というかあんたなんで地面に手を付けたままなの? 椅子にするわよ?」
そう言ってかがんで地面に手をつけている俺の背中に無許可で座るライラロさん。
あの、どいてくれませんか? こっちはいたって真面目にやってるんですが?
こんな状況を見ていつもなら高らかに笑うレウスさんはしゅんとしている。何かあったのか?
セーレたちはいつも通り騒がしく動き、俺はかがんだまま奴の状況を分析している。
ベリアルがエゴイストテュポーンを撃ちこまないところを見る限り、半端な攻撃は通じないのだろう。
――そしてシャックスが突っ込むより先に遠方の遺跡船から青紫色の電撃がギルティの側面を貫く。
撃たれた部分は直ぐに修復され一瞬と思える速度で元に戻る。
再生……いや、巻き戻しか? 攻撃された場所の時間だけが戻ったような、そんな感覚を覚えた。
「ルインズシップ、来たか。俺は今手が離せない。ギルティの相手を頼むぜ、相棒」
「ふん。ギオマも降りてくるだろうよ。ったく、ベオルブイーターのときは散々だったぜ。おっと今話してる場合じゃねえな。行くぞフェネクス、ヴァサーゴ」
「断る」
「ベリアルに従うなんざご免だね」
「勝手にしろ。俺ぁ一人でも行……」
「パモ。それからライラロさん。ベリアルの補助を。ヴァサーゴとフェネクス。協力しないならお前らはタナトスの領域に落とす。無理にベリアルへ協力しろとは言わない。邪魔にならないよう自由に戦え。それともお前ら、ソロモン七十二柱ってやつらの中で一番びびりなのか? 見ろよ。ハルファス、マルファスにセーレ。あいつらベリアルより先に戦いに行ってるんだぞ?」
「臆病……」
「だと? ふざけるなよ! こいつの指図は受けないが、あんなもんにびびるわけがない!」
「シャックスの手助けはしてやる。邪魔するなよベリアル!」
こいつら全員プライドの塊だな。
まとまりも何もない。欲望にまみれた集団、か。
ネウスーフォの下へいたのは利用するためか、はたまた束縛する何かの影響を受けていたのか。
今は分からないが、これでいい。
後優先すべきことは、どうにかしてメルザをジェネストたちに地上へ運ばせるか、か。
そっちはヤトカーンに頼むとしよう。
――先鋒となり飛び出したシャックスはギルティ本体の周りを飛び回り様子を見ている。
よく見ればギルティの周りは既に鳥だらけだ。
このままだと俺は鳥使いになってしまうだろう。
シャックスはそのまま口へ近づき……「あ、喰われた!? 油断しすぎだろ!」
飛び回っているのが邪魔だったのか、巨大に開いた口で一飲みにされたシャックス。
……これはさすがにまずいことをしたかと思ったが、飲み込まれている様子がない。
先ほどまで定期的に咆哮を上げていたギルティの口が開かなくなったのだ。
あれが……シャックスの能力か?
「おいくそったれのシャックスが! 先走るんじゃねえ! 一度離れやがれ! てめえごとぶち殺すぞ!」
「やんややんや。ベリアルの方があいつよりうるさい」
「ん? あの玉。光ってるぞ」
「怖いから離れていいよね? いいよね? いいよねー! ヒヒン!」
「まだ攻撃してこないカベ。変身するカベ?」
「俺もよう。せっかくこの地底に生まれてこの場を失うなんてよう。友達の所業としちゃ許せないんだけどよう。止められそうにないわ。本当無いわー」
……前線が騒がしいが、咆哮が止まった今なら少し安定するか。
手を離し……『グゴオオオオオオオオオオ!』
そう思った途端、玉が膨れ上がり、ギルティにへばりついていた玉四つが全て同一の神兵ギルティと同様の形を取り始めた!
合計五体の怪物。残りの四体が一斉に咆哮を発したので、たまらずシャックスが本体の口を突き破り飛び出て来た。
アトアクルーク湖が大きく真っ二つに割れて、水が地下深くへと流れていく。
それと合わさるようにして、周囲の地形がこちらへと引き寄せられていくのを感じた。
「あっぶねー! 死ぬところだった」
「いつもいつも単体で突っ込むんじゃねえ! このボケが!」
「誰がボケだ! てめえだっていっつもいっつも勝手に行動してやがるだろうが! このくっそベリアルが!」
「やんややんや。始まった」
「ひゃっひゃっひゃ。いいねえ戻った感じがする」
「もういいふっきれたぜ。てめえらもろとも粉々に打ち砕いてやるぜえええええええええええ!」
五体の神兵ギルティを前に……あいつら、なんていい顔してやがるんだ。
ははっ。俺も直ぐ混ざりに向かうぞ!
この話はものすごく悩みました。
開幕ベリアルの思考部分として過去話を入れようとして止めました。
サイドストーリー的なものはやっぱり全て間話、外伝などで表現する方がよいと思いました。
今回は戦場にかなりの人数がいますので、出だしは気を付けて書いていこうと思います。
フェネクス、ヴァサーゴ辺りは能力もいまのところ登場皆無。
ハンターハンターの念みたいな仕組み考えるのも好きなんですけどね。
プログレスウェポン、ルーニーの仕組みなんかはまさに富樫さんと同じ、FF11ユーザーだったっぽい発想ですね。




