第九百五十六話 対ベオルブイーター戦その六 交差する不足事態に主への願いを
上空に絶対神、ネウスーフォと思われる存在が現れた段階で、地上より合図が打ちあがった。
どうやらベオルブガーディアンについて詳細が判明したようだ。
サーシュに確認を頼み、こちらは不測の事態に備えようとしたが、途端にベルベディシアが悲鳴を上げる。
「いけませんわ! こちらを狙ってますわよ」
「当然だろう……何せベオルブイーターに何かしらの悪い影響を与えているはずだ。先ほどの様子から、あの存在はベオルブイーターを守っているに違いない」
「んじゃよ。あいつやっつけりゃいいんじゃねーのか?」
「それはイネービュを倒せと言っているのと同義だ。相手が悪すぎる」
七色の光を発する存在が徐々にルインズシップへと近づいてくるのが分かった。
これはもう、打って出るしかない。
「いざとなったら離脱を。高度を下げてくれ。ジェネストが飛び降りても平気なくらいにだ」
「分かりましたわ」
「ルイン! 俺様も行くぞ。ぜってーだからな!」
「メルザ。カルネを守ってくれないのか? 俺は母親にはなってやれないんだ。見ろ、カルネは怖そうにしているだろう?」
「ツイン。カルネ、行く。怖くない。話す」
……まさかこんな切り返しをしてくるとは思わなかった。
話が通じる相手じゃないだろう。
絶対神の中でも一番無口だと思うぞ。
何せタルタロスの生みの親だろう?
「じゃあルインが俺様とカルネを守ってくれよ。もう置いてかないで……」
「……分かった。レウスさんは完全にシカトされてベオルブイーター本体を調べてくれてるし、あいつを止めるのは俺の役目だろう。ジェネスト、封印へ。ベルベディシア。ベリアルを置いていくからな」
封印からベリアルを出すと、不満そうな声を出す。
だが、状況を考えれば文句を言っる場合じゃない。
俺はメルザとカルネを連れてギオマに乗り、その存在へと近づいていく。
……目を閉じた人型の者。
魔族とも人とも、普通の神とも違う違和感がある。
間違いない、絶対神だ。
「そこで止まれ。絶対神……ネウスーフォよ」
「イネービュの寵愛者。選定されし魂カイオスか」
「ネウ、ダメ、止めて」
「スキアラの道具か。しつこいぞ」
「お願い。もう、止めて」
「同じことを言う。スキアラも、イネービュも、ウナスァーでさえ。地底世界の何を嫌う」
この絶対神は、イネービュたちとは全然違う。
イネービュもスキアラもウナスァーも、人や魔族を愛すべき存在として見ていたと思う。
こいつは……まるで道具としてみているようだ。
勝手なことをする道具を止めに来ただけなんだ。
「なぁなぁ。あれをぶっ壊せば終わりなんじゃねーのか」
「……古代種。忌まわしい……ふん。抜けてきたか。さすがはスキアラよ」
メルザを見て何かつぶやいていたが、そのはるか後方の背後に突然現れたのはスキアラと死神の格好をした者だった!
スキアラは瞬時にネウスーフォの背後に移動すると、攻撃を仕掛けていた。
その攻撃を振り返らずに防ぐと、大きく後方にスキアラを弾いた。
「スキアラ? それとなんだあの死神は」
「あれはまさかルイン!? こんなところで会うとは……っと空!? 落ちるーー! って落ちない。どうなってるんだ?」
「ネウスーフォ、もうよさぬか。なぜ人に干渉する。それは理から大きく外れる行為だ。我らは見守りこそすれ、人の世に干渉してはならぬ!」
「おーい、ルイーン!」
「なんだあの陽気そうな死神は。レウスさんの親戚か?」
遠くでこちらに手を振る死神の格好をした者。
状況が複雑過ぎる。
そしてさらに……イネービュとウナスァーと思われる存在まで現れた。
「イネービュまで。絶対神が全てそろった……」
「やぁ。すまないね。君を溺愛したいけど、できなくなるかもしれないね」
「……地底はこのネウスーフォの子も同然。なぜ守らせぬ」
「人の手で変える理に干渉するなと言っている。結果地底が崩壊しても、それは人の選択に過ぎぬ。そう何度も話しているであろう!」
「我々は過度な干渉がある絶対神に罰を与える役割がある。ネウスーフォ。しばらく封印する」
「地底は破壊させぬ。タルタロスよ。地底を死守せよ。我は、絶対なる神ネウスーフォ……これでいいだろう。もうこれ以上干渉はせぬ。精々抗ってみせよ」
『テトラパナケーア』
絶対神四人が話し込み、そしてネウスーフォを三人が取り囲み……それぞれの片手を上に掲げた瞬間だった。
「よもやこのタイミングで絶対的なる好機が来るとは思わなかったぞ! アブソリュートシール!」
「なっ……あれはライデン!?」
まったく気配が感じられなかった。
絶対神のさらに上空に位置したライデンは、薄黒い三角形の霧状のものを下に降り注いだ。
いや、正確には絶対神側が何かしたものに便乗したようにも見える。
ネウスーフォを封印しようとしていて、微動だに出来なかったのか!?
その黒い何かを四柱が浴びると、真っ黒な塊となり、下へと落ちていく。
その途端遠くにいた死神も落下し始めた。
あいつに聞かなきゃ状況がさっぱり分からない!
「ギオマ。あの死神を助けてくれ!」
「グヌゥ。一体何が起こっておるのだぁ!」
「分からない。分からないがこれはやばい。今あいつと戦いながらベオルブイーターと戦う? 不可能だ」
落下する死神に向かいながら、ライデンを見る。
こちらを向いてすらいない。
やつが見ているのはベオルブイーターの下にある建物だ。
「時は熟さぬが、これで良い」
ふっと黒い羽を残して消えるライデン。
そして……ベオルブイーターが激しく動き出した!
ガーディアンが再びあの攻撃を仕掛けようとしている。ラーンの捕縛網で受け止めたときの三倍はある大きさだ。
同じ方法で防げるとは到底思えない。
地上を攻撃しようとしていたフェルドナーガ軍を全て倒したようだ。
「メルザ。前に呼び出した召喚獣みたいな竜、呼べないか?」
「う? どーやってやるんだ?」
「メルちゃ。怒る。卵、出る。それか、ラージャ、出る」
「卵かぁ……焼いて食うのがうめーんだよな」
「言ってる場合か! ガーディアンが攻撃しようとしている方向に第二部隊がいる! 仕方ない、一か八かだ。メルザ、信じてるぞ。ギオマ、このまま死神を助けてくれ! バネジャンプ」
俺はギオマから離脱して、何もない空中へ飛び出る。
ガーディアンが攻撃をしようとしている方向へ、流星で位置調整だけすると、垂直に落下し始める。
「セーレ。来い!」
「やっと呼ばれたよね一呼んでくれるかずっと心配だったんだよね酷いよね酷いよねーー! ヒヒン!」
「悪かったって。さて、今度はラーンの捕縛網で防ぎきれる大きさじゃない。ハルファス、マルファス。ここで死にたくなければお前たちも来い!」
「やんややんや。こんなところで外に出すとかお前! 悪魔だ!」
「ギィギィ。ひどいぜこいつ。俺たちをこきつかうつもりだ。お前ちょっとヴァサーゴみたいだな。おいセーレがいるぞセーレ。セーレだセーレ」
「ヒヒン!? 僕、ハルファスとマフファス苦手なんだよ? 酷いよね? 酷いよねーー!」
「どうしてこう、俺に封印されてるやつらは騒がしいのが多いんだ。俺は静かな方が好きだってのに……と、そろそろ話してる暇はない」
さぁ、メルザよ。力を再び呼び覚ますときだ。
お前はいつだって、俺のピンチを救ってきた。
「信じてるぜ……愛しき我が主よ!」
乱入に次ぐ乱入。そしてこのタイミングを狙ったかのようにライデン。
虎視眈々と狙う悪者はいかに狡猾に立ち回れるか。
それを表しているかのようです。
ちなみに死神さんは間話を見ている方にはもうお分かりですね?




