第九百五十四話 対ベオルブイーター戦その四 ルインとフェルドナーガ
封印内のモンスターたちから力を十分に分け与えてもらえる状態、スペリオルタイム。
多用は出来ず、効果時間も短いが、想像を絶する能力を得られる。
封印は全て埋めてきているわけではないが、ギオマ、ベリアルを放出している状態でも、高い身体能力向上を実感していた。
黒紫色の玉のようなベオルブイーター本体に近づくほど、その薄気味悪さが伝わってくる。
これは、遠めにみると玉の様であったが、近くで見ると玉の様に単純構造ではない。
ぼこぼことまるでマグマを逆さまにして発泡するような動きが見て取れる。
それだけではない。心臓が拍動しているかのようだ。
意思があるのかも分からないが、生物なのかもしれない。
こんな存在を神は何のために作ったんだ?
「サーシュ!」
「承知」
四幻のうちもっとも火属性攻撃に長けるサーシュを呼び出し、その背中に乗る。
ようやく俺の位置までフェルドナーガが単騎で迫ってきた。
「我が追いつくより早く動きおるとは。真化の力か」
「俺はまだ真化していない。もうじきスペリオルタイムの効果が切れる。いくぞサーシュ!」
「鳳凰炎羽、南天の門より舞い、いずる」
「焼き尽くせ……ラモト、フェニックス!」
スペリオルタイムだからこそ可能なモンスターとの強力な合わせ技。
ラモトの力をサーシュに流すと、舞い上がる炎の門を口から放出してみえせるサーシュ。
炎から飛び出すのは青白い文字でかたどられた美しい不死鳥。
それが黒紫色のベオルブイーターへ激しくぶつかりながら攻撃していく。
「お前は見てるだけか、フェルドナーガ。ハルフートを使わないなら俺に返せ!」
「我を誰と思うている! ゆけ、ナーガよ、真の邪眼を見せてやろう。貴様は退け!」
こちらのスペリオルタイム一回目はラモト・フェニックスで切れた。
がくっと行動速度が落ちる。
くそ、星の力さえあればもっと攻撃できるのに。
サーシュとの連携攻撃と、後方からベリアルとギオマのブレスも追加で当てているが、大きな効果を与えているようには思えない。
そして、ガーディアンが動きだそうとしている。
一時引くべきか。そう考えていたら、フェルドナーガが異様な姿へと変貌していく。
【神・真化】
「……ほとほと化け物に思えてくる。こんな怪物だったとは」
サーシュに乗りながら、横にいるフェルドナーガの真化を見てしまった。
搭乗していた蛇……恐らく神話級アーティファクトのナーガと呼ばれていたそれと一体化したフェルドナーガは、既にただの妖魔とは形容しがたい。
巨大なメデューサ……といった方が近いかもしれない。
蛇が髪のように乱れ咲き、蛇一つ一つの目が怪しい灰色だ。
「サクリファイスシフト」
蛇たちはベオルブイーター本体ではなく、下にいるガーディアンたちに向けて解き放たれた。
何をするつもりだ? その方向ではダメージが通らないはずだ。
ガーディアンが動き出したなら潰されるだけだろう。
……いや、すでに潰されている。そして、潰されたと同時にベオルブイーター本体へ蛇が絡みついていた。
一匹、また一匹と潰されるごとに次から次へと本体へフェルドナーガの蛇が絡みついていく。
攻撃と同時に受け身が発動する恐ろしい技だ。
蛇を放置すれば蛇に攻撃され、倒したら本体に攻撃がいくのか。
……俺にとっては天敵ともなりえる技を、あえて見せつけてくる。
「あんた、いやな奴だな本当」
「黙れ。この形態は高ぶる。薙ぎ払ってしまわぬうちに退け! これよりバルフートを呼び出す」
確かにフェルドナーガの言う通り引き際かもしれないが、はいそうですかってわけにもいかない。
【絶魔】
「悪いが引き下がるつもりはない」
「それが真化か。不完全ではないか。破壊に身を委ねよ。魔としての覚醒が足りぬうちは未熟」
「こいつは絶魔。真化とは少し違うはずだ」
「変わらぬ。妖魔にしか存在せぬ核の使い方が異なるだけのこと。本物の真化は、ただびとの姿をとどめるものではない。真・邪眼!」
一つ警告をすると、灰色のモヤをまといだすフェルドナーガ。
先ほど本体へ絡みついた蛇はそのままに、今度は別の巨大蛇を二体呼び出すと、フェルドナーガを中心としてらせん状に天へと上りフェルドナーガ周囲を取り囲む。
その蛇がベオルブイーター本体へ攻撃するタイミングを合わせることにした。
「剣戒……リーサルレデク!」
コラーダを呼び出すと、剣が俺の手元を勝手に離れ、フェルドナーガの蛇を追い抜きベオルブイーターへと突き刺さる。
その部分にフェルドナーガの蛇が重なるように攻撃をヒットさせる。
黒紫色はいくら攻撃しても、ヒビすら入らない。
このまま攻撃してもらちが明かない。もっと強力な攻撃が必要だ。
かなり遅れたが、フェルドナーガの邪念衆と思われるやつらが上まで来ていた。
「フェルドナーガ様! 危険です、お下がりを!」
「退け。邪魔は許さぬ」
「このまま攻撃しても無駄だ。バルフート、本当に使えるんだろうな」
「誰にものを申しておる。我はフェルドナーガ……完全体となり招来せよ。古の怪物、バルフート・シドニアよ!」
「あれが、バルフート本来の姿……?」
フェルドナーガが戻りつつあるガーディアン方面へ蛇を差し出すと、その蛇がどんどんと膨らんでいき、その口から吐き出したとは思えないほど大きな存在が姿を現す。
数万ともいえる翼、これはバル・シドニアのものだ。
そして、魚の様だったバルフートの面影は残っていない。
鱗一つ一つが尖った武器のように黒光りし、その形相はもはや……兵器だ。
「ゴオオオオオオオオオオオオオオオ!」
「サーシュ、引くぞ! せっかく絶魔を使ったところなのに、巻き込まれたら終わりだ」
「強大な波動アリ。嫌な胸騒ぎがいたします」
「俺もだ。どうも妙な空気だ……」
サクリファイスシフトは 犠牲を移すのようなニュアンスです。
犠牲を与えたものの本体へ憑依させるような技イメージですね。
今後は技のイメージが連想しやすいように、あとがきに書こうかな? と考えています。
いままで、分かり辛いわ! って思ってたかたもいるのかなと思い。
といっても感想などがないと伝わってるかどうかもよく分からないのが小説を書いてみた一番の悩みですね……。
そしていよいよバルフート……これはバハムートと言われる呼び名もありますが、バルシドニアは作者オリジナルの呼称です。




