第九百四十一話 マルファス対ルイン 封印の恐ろしさ
「ハルファスを倒したからってこのマルファスに勝てると思ってるのかぁー? やんややんや。調子に乗るなよ、ベリアルの子飼いが」
「ベリアルの子飼い? 何言ってんだ、お前」
「おいおい知ってるんだぜ? お前、ベリアルの寝床なんだろぉ?」
……寝床か。確かに寝床といえば寝床だ。
だが、この台詞も俺をだまそうとしているのかもしれない。
こいつとの対話は気を付けるべきだ。それにしても……「お前、ベリアルにそっくりだな」
「クソ! 殺してやる!」
小さい鳥の姿だが、マルファスは一定個所に留まって、羽ばたき続けていた。
挑発には簡単に引っかかるが、手の内はまだ読めない。
能力を調べた限りでは、かなり厄介な能力を持っている。
恐らくあの様子からして、うかつに攻撃しても物理攻撃は通らないだろう。
問題なのはこいつが俺の能力をどこまで把握しているかだ。
そう考えていると、やつはぼとりと何かを落とした。
外で白丕が対峙していたものと似たような存在に見えるが……数は全部で三体。
マルファスは怒りつつも冷静なようだ。
「いけ! 肉を食いちぎり俺の眼前に持ってこい!」
「……ヴァーーーー!」
「っと。ヴァネジャンプ……じゃない、バネジャンプ!」
三匹産み落とされたそいつらは、二匹が獣のように四足で動き、一匹はまるで忍びのような動きで俺のバネジャンプの動きに合わせて跳躍してきた。
マルファスを警戒しつつ、そいつに蹴りを入れて吹き飛ばそうとしたが、下のやつも跳躍してこちらの蹴りの反動を殺してきた。
悪くない連携だが、蹴りを入れた感覚では、絶魔状態の相手じゃない。
「氷永重斗」
アメーダの特技であった氷系幻術の絶級は俺にもどうにか使える。
氷や水に属する方は扱いやすい。
メルザのように連発はできないが、空中にいる二匹へはこいつの追撃で十分。
着地を身構えてる下の一匹へは……「ラモト・ネフィラ」
青白い文字の炎が地面へ落下すると、下にいたやつは後方へと遠のき、さらにラモトで追撃を図り後方へ大きく距離を取る。
マルファス自身は何もしてこない、か。
「何やってんだお前ら! 肉を引き裂いて持ってこいと言ったんだ! マルファス様がベリアルと似てるだと? ふっざけんなよクソクソクソ!」
「お前、ベリアルに恨みでもあるのか?」
「恨み? そんな言葉で終われるか! まずは寝床のお前をぐちゃぐちゃにしてやつを引きずりだし、羽を一枚ずつ抜いてやる。それで……」
「それで?」
「えっ?」
怒りで次の指示を出し忘れていたのか、その間に放出した三匹は始末させてもらった。
そしてやつの背後には今、ベリアルがいる。ドラゴントウマの形態でだ。
怒りは相手を弱くする。
よほど憎い相手なのかな。
「グギィーー! この裏切り者がぁーー!」
「ちっ。やっぱりこいつに攻撃は効かねえ。ルイン、お前がやれ」
「もうやってるよ」
アクソニスにしろこいつにしろ、やはり俺の能力を把握しきれていない。
封印されることを警戒するなら、俺からの攻撃はうけてはいけない。
回避しか選択肢がない。
それほど厄介な能力だったんだ、俺の力は。
しかも……絶魔状態の俺に攻撃を当ててはいけない。
あてるなら即死攻撃。
でなければその能力を……奪う。
「なんでお前、俺の能力であるそいつらを……」
俺は三匹の悪霊を放出し、やつに向けて攻撃をしている。
攻撃は効いていないものの、これは俺の攻撃だ。確実にやつへと封印値が蓄積されている。
「答えろ! 俺の……何をしている。いくら攻撃しても無駄なのは分かっているはずだ!」
「クックック。お前の最大の勘違いを教えてやるぜマルファス。こいつは俺の寝床じゃねえ。こいつの能力は俺を食い殺す能力。俺がこいつに支配されてるんだよ。まぁ気づかねえよな? あのベリアルが他者に支配されてるんだぜ? 分かるか? それとだがよ……」
ベリアルはドラゴントウマの形態に戻っている。
その表情は容易に読み取れる。
邪悪に満ちた笑みを浮かべ、口角が高く吊り上がっていた。
「おめえはこれから取り込まれる。今日からあいつの一部だ。良かったな、マルファスよぉ。クックック。ハーーッハッハッハッハッハ!」
「な、なぜ……この、ベリアルーーー!」
そう言い残してマルファスは俺へと封印された。
ハルファスとマルファス。さて、こいつらを自由に出し入れするわけにはいかないな。
過去、メナスに行ったこともあるが、封印は無理やり封じておくようなことができる。
絶対出るな、といった強い意思表示が必要だが、こいつらは今外には出れない。
こいつらのことは後回しだ。それよりも……「おいベリアル。何があった? お前、平気か?」
「ちっ……あまり平気じゃねえな。恐らく臓器を潰された。まぁ元々おめえが死竜の体に入れやがったから大体潰れてやがるんだがな」
「そうか? それならター君の方がよかったか」
「そっちは勘弁だ。あいつじゃ喋る器官がねえ。それよりもだ。ここにいたアクソニスだったか。あいつはやべえぞ」
「ギオマもあいつに負けたのか?」
「いいや。そもそもギオマは両手が塞がってやがったからな。ハルファスの能力で敵の魂を大量に抱えてやがった。あの野郎、軽く五百は手兵を出しやがったぜ。一体だれがだまされやがったんだか」
そっぽを向く俺。
いや、心当たりはあるんだけどね。
どうみてもベリアルだったわけだし。
「今はそれよりもだ。シラって女の方が問題だぞ。ヨーゼフの言っていたやつにこんなところで合うとは……メルザには合わせたくない。あいつの目的はどうやら……カイオスらしい」
「それでなんでおめえが無事なんだ?」
「さぁな。俺にも何が起こってるのか、あいつらが何をしたいのかまでは、はっきりとしない。だが、ベオルブイーターを倒す邪魔だけはしない……とも言い切れないが、今は興味があまりないようだな。しかしメルザを見たらどうなるのかが不安だよ」
「どっちにしろよ。マルファスは手に入れたんだろ? ついでにハルファスもか。あいつらの能力は使えるぜ」
「ああ、そうだろうな。あいつをアナライズで調べて能力を知ってから、どうにかその力を手に入れたいとは考えていた。さて、その話より……ベオルブイーターを倒す手がかりはこの部屋だろ?」
「おそらくな。あのアクソニスってやつが何かしてやがった」
……あいつの目的が一番不明確だ。
俺たちを利用してベオルブイーターを倒させるのはまだ分からない話じゃない。
だが、常闇のカイナを動かしてるのはあいつじゃないのか?
シラはどうみても傀儡人形のようだった。
さて……この部屋を落ち着いてみてみると、やはりというか絵が飾られている。
そしていびつな黒点がうつるだけの空の絵だ。
それと最奥には金色の船の舵のようなものが飾られている。
あと目立つものは……「うおお、びっくりした!」
「ルインー、どこーいってたーのー?」
金色の舵の隙間から気持ち悪いものが顔をのぞかせていると思ったら、そいつはレイビーだった……。
思ったよりマルファスがあっさり!?
いえ、本来は攻撃が効かないので封印出来なければ大苦戦の相手。
能力も一部のみしか使えず封印されてしまったマルファスさん、どんまいです……。
しかし絶魔は意識が飛ぶ状態の方が強いですね。
まだ上があるのかも……!?




