第九百三十九話 メルザとカルネの合わせ技
ルーニーが黒点にたどり着くと、その黒点回りをぐるぐると回りだす。
嘴の剣でザクリと一突きにすると、そこから縦へギザギザに切ったような亀裂がはしった。
それと同時に甲高いルーニーの鳴き声が響いた。
あの黒点を中心に、卵の殻にひびが入るようにして、世界が避けていく。
するとすぐに、元の景色と思われる場所が顔をのぞかせた。
「メルザ!」
「おう! いくぜカルネ」
「闇、幻術、使う」
「えっとぉ……光重刃斗」
カルネの小さな指先から周囲に闇が広がる。
それは瞬く間に元の世界を闇色へと染め上げる。
周囲に何も見えなくなったところで、メルザを中心に、ギザついた光の輪が闇の空間を照らし出す。
新しい幻術か? ずっと二人でいたからな。幻術使って遊んでたんだろう……恐ろしい。
「くっ、眩しい……俺も前が見辛い」
「なにっ? こいつら出てきやがった! あのおかしな鳥のせいか! 前が見えん! くそ、マルファスー!」
「いっけぇー!」
メルザの光の輪がマルファスを呼ぼうとしていたハルファスへと投じられる。
その数全部で二十。両手が使えるメルザの攻撃回数は今までの倍だ。
無尽蔵に繰り出す幻術攻撃は恐ろしいものだ。
幻術一つ一つは大きくないが、的確にハルファスを光の輪が攻撃し続ける。
威力こそ感じられないものの、効果としては完全な目くらましだ。
そのためカルネとの連携が生きている。さすがは元闇の賢者……子供にあんなことを教えてはいけない。いや、俺は教えていない。
二人の攻撃に重ねるようにして、ベルベディシアも雷撃を放っている。
「さぁ早く!」
「分かってる。流星!」
俺は攻撃範囲から逃れられる場所へ瞬時に移動した。
鳥の背後に回り、やつを斬撃で攻撃する。
よし、予定通り……「いくら攻撃しても無駄だね! もうじきマルファスが戻ってくる。無駄なあがきだったなー……あれっ?」
「よっしゃあー! いいぞルイン、封印しちまえー!」
「そら恐ろしい能力ですわね。攻撃が効かなくても攻撃を加え続ければ封印してしまうのだから。全部で百回かしら?」
……自覚はあったが、確かに怖い能力だ。
俺の攻撃が物理的に効いていなくても、封印しようと思った相手に封印値は蓄積される。
これはドラゴントウマのときに実証していた。
こいつは攻撃が効かないということに自信を持ちすぎ、すきに攻撃させていた。
マルファスの方が来れば攻撃に転じれるのか。あるいはこいつの攻撃能力を他所で使っているのか。
どちらにしても、こいつの負けだ。
しかし封印が終わったのに光の輪が次々と飛んでくる。
二十で打ち止めじゃなかったのか!?
「メルザ、カルネ。もういいぞー」
「まだまだいくぜー! それそれー!」
「メルちゃ、戦闘、終わった」
「まだやれるぞー。俺様絶好調だー!」
「……あなた、そういった体力は底なしですわね。わたくし、血が欲しいですわ」
「二人とも直ぐ下に向かうぞ! ハルファスが呼びつけていたマルファスが来るかもしれない。能力として厄介なのはあっちだ」
ハルファスがいないと知ればやつは激昂するだろう。それなら逆にチャンスだ。
メルザとカルネを抱えて、急ぎ下り道を降りようとする際に気付いた。
下り道に飾られていた絵の黒い部分の形が崩れている。
あの能力には絵が関係していたのか、あるいはこの絵が何かしらの干渉をうけているのか。
ハルファスを封印しても絵やこの建物に支障はないように思える。
不明点が多い相手だが……「もうすぐ最下層だ……と、こいつは……しっかりしろ、アイジャック、ヤトカーン!」
「うう……ベリアル君が……」
「兵士はすべて消えやしたか……奥へ早く」
「ここはわたくしが見ていますわ。先へ」
「頼む。いくぞメルザ!」
「おう!」
最下層はかなり広かった。
戦闘の音が遠くから聞こえる。
ヤトとアイジャックがいたなら早い話、全員封印に戻せばいい。
しかし離れすぎていたら戻れない。
「戻れるやつは一度俺の下へ戻れ!」
そう叫ぶと、戻ってきたのはサーシュと……リュシアン?
ペアが違う。どうなってるんだ?
「主様ぁ。心配すたよぉ」
「敵多勢。他はぐれたと進言アリ」
「白丕、ビュイはどうした?」
「戦況をみて交代。飛翔型多数、地上型多数。一部以外突然消失」
そうか、それで……脱出を考えて組ませたからな。
「飛翔型は撃退したのか?」
「否。ギオマ様による引き付けアリ」
「地上を掃討する。案内を頼む」
「先導の役目我にアリ。リュシアン、女王を」
「分かっただよ。さ、おらにのってけろ」
念のため二人をアナライズで確認したが、両者とも間違いなく本物だ。
安心してついていくと白丕が見たこともないやつと激戦を繰り広げていた。
ビュイは壁越しにもたれかかっている……が、生きてはいるようだ。
「流星!」
「……!」
「隙あり! 猛連破列掌激!」
流星で瞬時にビュイの前へ行くと、急ぎ封印へ戻した。
相手は俺に動揺したのか、その隙に白丕が渾身の一撃で相手の腹を砕く。
「主様。お見苦しいところを。先ほどまで多勢だったためお許しを……」
「いや、こちらの不手際だ。ギオマがいたので安心して先導させてしまったようだ。ギオマとベリアルは?」
「圧倒的な敵の数を引き連れ、奥の部屋にベリアル殿と。我々は女王様に兵が向かわぬようここで足止めをしろと言われて……ですが、妙なことにベリアル殿が現れて……主様へ報告にいくと」
「そいつは偽物だろう。アイジャックとヤトカーンも偽物にだまされたか。お前たちは一度封印に戻って休んでいろ。ここからは俺が……」
「いえ、それでしたら我々三名で女王様とカルネ様をお守りいたします」
「……では、そうしてもらうか。後方にベルベディシアが待機している。合流して待っててくれるか? あー、それとレイビーを見なかったか?」
「いえ。我々は……」
「まったくどこをほっつき歩いてるんだ、あの幽霊は……」
ヤトたちと一緒にいるものだと思ったが、見当たらない。
今はそれよりギオマたちの下へ向かわねば……とその前にこいつを調べておくか。
「こいつはハルファスの能力じゃないみたいだが、こいつも襲ってきたんだろ?」
「はい。この相手だけでもかなり厄介でした。強敵です」
「どれ……アナライズしてみるか」
悪霊の縫人形
マルファスにより生み出された悪霊
他者をだましたことで生み出される触媒を用い生成される
だました力をどの程度割り振るかはマルファス次第
「……こいつ自体がマルファスの能力。消えた方はハルファスの能力。なるほど、ハルファスの兵士自体は大した能力がないが、その中にマルファスの能力を加えて戦わせる。両方そろうと極めて戦闘向きの能力だ」
「ハルファスというのは、主様が倒されたのですか?」
「いや、相手をだますと攻撃が効かなくなる能力があった……だが、封印は可能だった」
「そうすると敵を体内に封印されたのですか!?」
「ああ。お前たちも元々、敵だっただろう?」
「それは、確かにそうでした。ご無礼を」
そういってすっとクリムゾンポーズを決める白丕。
まいったな。俺は王じゃない。王ならあっちでサーシュに乗り遊んでるぞ……。
「ギオマたちが心配だ。それじゃな。流星!」
マルファスの能力が厄介だ。
今度は簡単に封印というわけにもいかないだろうな……。




