第九百三十五話 ベオルブ遺跡、内部
俺たちは遺跡内部を調べるために、班分けをすることにした。
主に扉などを調べるのがヤトカーンとアイジャック組。
俺はメルザとカルネ。ベルベディシアも一緒だ。ギオマと一緒にしようと思ったら「死んでも嫌ですわ」とぴしゃりと言い放った。この二人は相性が悪すぎる点…まぁ雷撃で撃ち落とされたことがあるわけだから、ギオマがいやがるのは分かるんだが。
そんなギオマはベリアルと組む。
四幻はビュイとサーシュ。そして白丕とリュシアンに分かれる。
この組み合わせを選んだのにも理由はある。
なにかあっても脱出しやすい組み合わせだ。
サーシュは人を乗せて空を飛ぶタイプではないが、ビュイは軽いから問題無く乗れる。
白丕は背も高いので、サーシュと組み合わせるよりリュシアンの方がいい。
俺はバネジャンプでメルザとベルベディシアを抱えて飛ぶくらいは容易だ。
ヤトとアイジャックたちが不安だが……あいつらは何を言っても二人で遺跡を調べるだろう。
さて、遺跡の内部だが、正面に上へ上る階段。そしてその階段の裏手には地下へと続く道がある。
地下へは階段ではなく下り坂で螺旋状となっているようだ。
まずは入り口近くにある四つの部屋から探索だ。
遺跡の秘密ってのは何かあるとしたら最奥なのだろうが、入り口に仕掛けがあるといけないので、見て回らねばならない。
ヤトカーンとアイジャックも、地下道でみせたような行動がとれるなら、問題ないのだろう。
既に部屋の扉を調べ始めている。
「これ、罠は無いと思う。勿論全部無いとは言い切れないけど。私とアイジィは少し上を調べてきてもいいえ?」
「一応四か所調べてくれた後なら。俺は西側手前。ギオマたちは東手前。サーシュたちは西奥。白丕たちは東奥を頼む。何かあったら連絡を」
『御意』
クリムゾンポーズでそれぞれ探索に移る。もう突っ込まないことにした。
俺はメルザの手を引きながら扉の前へと立った。
クリーム色の扉で、綺麗な装飾がついている。
一体何年前に造られた建物かは分からないし、建造したのだって誰かも分からない。
ベオルブイーターという存在は、そもそも神が産み出したものだろう。
それならば、この扉も神が作ったものかもしれない……。
「ルイン、へーきか?」
「あ、ああ。悪い。少し考え事してたんだ」
「ルインはいっつもそーだよな。もっと楽しもーぜ」
「……そうだな。久しぶりにメルザと一緒なんだ。さて、どーやって開けたものか」
「あれ、使ったらいーんじゃねーか? ルインの、えーと何だっけかなー」
「ツイン、お鼻、お鼻ー」
「そーだ! 鼻ライスだ!」
鼻ライス? 鼻に米粒つける能力か? もう少しましな能力にしてくれ。
「……アナライズな。やってみるか」
かなり久しぶりだが、俺は正面の扉をアナライズしてみた。
すると……。
古代遺跡の扉
▲▲神が具現化した物質により創造された謎の金属により加工されたものと思われる。
この能力は▼▼であり▲▲な上、▲▲▲▲。
〇※Σ※〇▲■▲▲が▲■■■……。
「ダメだ、この方法じゃよく分からないな。この目の能力範囲を超えるってことか? ……とカルネ。俺の鼻で遊んでると怒られるぞ。背後から真面目にやれっていう殺気を感じるんだ」
「あら。わたくし殺気なんて出していませんわ。早く中にお入りになって欲しいとは思っていますけれど」
「うーん。よくわからねーんじゃどーすんだ? あの姉ちゃんが言うには、罠はねーんだろ?」
「今、探ってみてるとこだが……」
ドアノブも無いし、押しても開かない。引くにもつかむ場所は無い。
他の扉も同じだろう。
後ろが騒がしい……というかギオマたち、ぶっ壊すつもりだろ!
「エゴイストテュポーンでぶっ壊しちまうか」なんて声が聴こえるぞ!
「全員! 壊すなよ! 考えて開けろ!」
一応怒鳴っておいた。
ただでさえ入る前に壁を粉砕したんだ。
これ以上遺跡荒らししたら犯罪集団だよ。タルタロス領ならタルタロスに怒られる。
「ツイン。カルネ、見る」
「ん、また何か見えるのか?」
メルザからカルネを預かって、全体をくまなく見せた。
すると、ほっぺたをひねられる。
カルネさん? 遊んでる場合じゃありませんよ?
「ツイン。扉、上」
「上? 上ってえーと」
「手、つける。上、びゅーん」
「ええっと……手をつけて上にびゅーん? ああ! 分かった。上に引き上げろってことか」
言われた通りに両手を扉につけて上に力を込めると……徐々に扉が上がっていく。
確かに罠は無いが、頭使えってことか。
押してもダメなら上げてみろってな。引いてみろじゃないのかよ。
この娘、IQいくつだ? まだゼロ歳児だよな。
いや、魔族にとってゼロ歳児はきっと二十歳以上だということにしておこう。
そうじゃないと俺のメンタルがもたなくなる。
「えっへん!」
「何であなたが偉そうにしているのかしら。それにしても賢い子ですわね……」
また羨ましそうな目でカルネを見るので、メルザにお願いして少しカルネを抱っこさせてやった。
その間に他の奴らへ扉の開け方を伝えに行こう。
メルザは割とすんなり許すどころか、嬉しそうにしている。
やっぱ自分の子を可愛がられるというのは嬉しいものなのだろう。
「か、可愛いですわね……」
「いい匂い。する。かみなり、びりびり」
「ビリビリなんてさせませんわ! ま、まぁわたくしをベルベディシアと呼ばせてあげてもいいですわね」
「ベルちゃ、いるから。同じ、ダメ」
「ではわたくしを何と呼ぶのかしら?」
「ビリビリ」
「……」
「おーい、待たせた。部屋の中入るぞ、ベルベディシア」
戻ってみると、少し電撃を放ち始めたベルベディシアからカルネをかすめとる。
いない間に何か言われたか。カルネは可愛いが猛毒をもっている。
美しいものには棘。可愛いものには猛毒。要注意だ。
ちなみに扉の開け方を教えに行ったら、全員もれなく扉を破壊しようとしていた……。
――部屋の中に入ると、異様に生活感のあるような場所だった。
ここには誰か住んでいたのか? それに絵を描いていたような道具があり、描きかけの絵があった。
空の絵だ。そして黒い点が映っている。
ただそれだけの絵だ。
「何だこれ? 空か? 食い物は映ってねーなぁ」
「こっちに置いてあるのは何かしらね。人形のように見えるのだけれど」
「うええ、気持ち悪りー人形だな」
メルザが不気味な呪い人形のようなソレを手に取り俺へと向ける。
「ちょ、それこっちへ見せるなメルザ!」
「わぁー、可愛い―欲しいーー」
メルザがつかんだ人形を見せると、俺に封印されていたある奴が顔を出す。
それは、妖魔導列車で仲間になったレイビー。
お化けである……が害はない。
害はないが俺の心臓に害がある。
こいつのことは、俺とベルベディシアしかまだ知らないのだ。
「な、なんだこいつ? ルインから出て来た白い煙?」
「こいつはレイビー。レイスっていうモンスター……だよな?」
「うんー。えっとねー。これに入ってもいい?」
「お前、可愛い女の子って言わなかったか?」
「うんー。可愛い女の子だよー、この子」
それは、どうみても可愛くない。
子供が動いてるのを見たら泣きだすとんでもないものだ。
「もっと可愛いのを探してやるから……うん? 何だこの人形。口の中に何か入ってる」
奇妙な人形の口には、明らかに鍵っぽい何かが入っていた。
これは……一応持っていく方がいいな。
いやいやながらも口の中に手を突っ込み鍵を手に取ると、奇妙な人形が歩き始めた。
……あの。やっぱそれに入って動くんだな、レイビー。
「んー、なんかマーナみてーだな。いいんじゃねーか? ちょっと怖いけどよ」
「あいつはもっと可愛い人形だぞ……今ではもう、立派なニーメの嫁だろう」
「ツイン。お部屋、これだけ」
「みたいだな。一度ヤトのところへ戻ろう。入り口にベオルブイーターのヒントは無し、か」
部屋を出ると、他の奴らはとっくに部屋を出ていた。
いずれも生活感のある部屋で、似たような場所だったようだ。
上を調べていたヤトカーンも戻って来て、肘を曲げ、両手のひらを天に掲げて首を横に振っている。
「こっちもはずれだと思う。やっぱり下かな」
「こんなものがあったんだが……」
「うわ、何その人形!? 動いてる? 調べてもいい? ねぇ、ねぇ?」
……そっちじゃないんだよ。
それは置いていきたい方、な。
レイビーさんの存在がここで。
やっぱり怖い人形に目が無いご様子です……。




