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異世界転生 我が主のために ~不幸から始まる絶対忠義~ 冒険・戦い・感動を織りなすファンタジー  作者: 紫電のチュウニー
第二章 地底騒乱

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第九百二十六話 魅了との戦い

 耳が聞こえないという状況は目が見えないこと同意着に辛いことだ。

 補聴器などで補えない状況……いわゆる全聾(ぜんろう)そして全盲。

 双方ともである方を全盲ろう者というが、俺は前世において、その状況下にあった人

を知っている。

 弱視であった自分などには想像を超えるような世界で生きている方だ。

 そういった方に意思を伝える手段。

 それは……指先、手先で相手に言葉を伝える方法であり、伝わったときの喜びはとても

大きなものだった。

 その苦労を深くまで考えてしまう俺には、涙が出る程辛かったことを覚えている。

 そして今、ベルベディシアが行っていた手で伝える作業は、それに近いものだった。

 

 絶魔王という存在。

 それは恐怖であり畏怖の対象、そして戦うべき相手と考えていた。

 だが……なんてことはない。

 元々はこいつも、ただの人の感性と同じであることが分かった。

 守りたいもののために己の力を磨き上げ、雷帝という地位にまで上り詰めた女性に過ぎ

ないのだ。

 そんな素晴らしい人格者に手を引かれ、俺は……「何故だ。動悸がする」

「……ベルシア。妖魔君、少しまずいかも。アルラウネから離れてるのに、魅了の影響が出

始めてるよ」

「ちょ、ちょっと! どうしてそんなに手を強く握りますの? 手が熱いですわ!」

「姉御ぉ。指示を出してくだせぇ。焼き払うんですかい? それとも薬の材料にするおつも

りで?」

「く、す、り! ベルシアも妖魔君に伝えて。斬りかかったり術で燃やしたりするんじゃな

くて。ちゃんとした対処方法で素材として入手しておきたいの!」

「そ、そうは言われましても……どうしたら伝わるか分かりませんわ。手を離してもいいです

わよね?」

「ダメだって。手を離したらアルラウネに取り込まれちゃうよ。今、妖魔君とアイジィから

見て、私たちすらあられもない姿の女性が瞳に映ってるかもしれないんだから!」

「この方が女性のあられもない姿程度でどうにかなるとは思いませんけれど?」

「性格上はでしょ? アルラウネの魅了は性格も勿論関与する。エッチな男程直ぐ籠絡(ろうらく)

て血液を搾り取られて死んじゃう。でもね、エンシェントアルラウネは花粉を飛ばしてその中

に男性の本能を呼び覚まさせる興奮剤作用があるものを放出してるの」

「つまり、この場にいるだけで既に危険ですわ!」

「だからそうなんだけどね。手を離さずに指定した箇所に雷撃を撃てる?」

「……当然ですわ。この雷帝ベルベディシア。殿方と手を繋いだ位で……どど、動揺なんてしませんわ!」

「凄く動揺してる。鼻血出さないでね?」

「からかうんじゃありませんわ! さぁ何処? 何処を狙えば……」


 二人で何を話してるんだ? 俺の方を少し……向いてくれないか。

 なぁベルベ……いや何を考えている。

 俺はメルザが……あれ、樹のそばに赤い髪の少女? あれは、メルザか!? 


「メル、ザ……」

「……わたくし少々怒ったかもしれませんわ」

「あはは……妖魔君、魅了うけながらもメルザって。余程大事なんだね」

「そうですわね。彼の全ては……あの無邪気に笑う少女だけのもの。わたくしには、入る

隙間も……いえ、別にわたくしが入りたいだなんて思っていないのだけれど。わたくしに

はちゃんとリンがいますもの……さぁ撃ちますわよ……?」

「や、めろ……メルザを、何故狙う?」


 頭がくらくらする。

 メルザは何故あんな恰好で他の……男と。

 直ぐに向かわないと。あの男を切り伏せる。

 しかしどうしてだ? メルザが遠くにいるのに、この手は強く俺を引き留める。

 この手も、美しい手だ。

 だが……離せ。

 此処はそもそも何処なんだ。体が熱い。


「離して、くれ……今、そっち、に」

「しっかりなさい! これじゃ電撃なんて……そうだわ! 歯を食いしばりなさい!」

「痛ぅ……おい! 何で突然顔面を? あれ?」


 何だ、今の凄い衝撃は。

 平手打ちされた? 

 自分をつかむ美しい手の持ち主……そう、ベルベディシアだ。

 頭がしゃきっとしたが、全身に電撃が走ったような感覚。

 この電撃すら心地よく感じるこの状況は何だ? 

 目の前には確かに赤色の髪の女性……気色悪い木の枝や草、花に顔のあるような生物し

かいない。

 だがなぜだろう。視線を合わせると、とても美しく見える。

 あれが……「妖魔君のばっか! せっかく魅了を解いたのに!」

「姉御ぉ。近づく前にあっしもそろそろやばいですぜぃ……」

【絶魔】

「変身した? ちょ、それ以上近づいちゃダメ! 耳栓が! アイジィ、吠、え、ろ! 

……だめ、間に合わない!」


 俺はそっちへ行かなければ、あの美しいものを手に入れるため。  


「流星!」

「は、離さないですわよ! あぁっ!」

「クオーーーーーーーーーーーーーーーン!」

「間に合った!? アイジィ! 私が合図する前に吠えようとしてたんだ!」


 くっ……何かが聞こえて体が突如動かなくなった。

 俺の手には今、敵の攻撃によるツルが巻き付いていて離れない。

 いっそ斬り離してくれようか。

 絶魔であれば容易いことだ。

 そう、容易い……のに何て美しいツルなんだ。


「も、ど、れ! も、ど、れ! わ、た、く、し、の、血!」

「……そう、か」

「クルフハハハハハフリフハフ……」


 奇妙な声がそこら中から児玉する。

 だが、心地良い気分だ……。


「ダメーーー! ベルシア! もう離れて! アイジィのハウリングが届かなくなる!」

「これだけ近ければ……あなたがこんなところで死ぬなんて許しませんわ! あなたは人

なのだから! 人なら人らしい死に方をなさい! 雷閃光、血種魔古里の掌!」


 迸る赤い血を帯びた雷撃が……俺の目の前にいた人を貫いた。

 赤い髪色をした……ただの草木。

 そして俺を握っていたツルは……白く透き通るような色をした、美しくも細い手。

 俺はずっと幻覚を見ていたようだ。

 気色悪い木、草、枝に顔があるようなでかい木々に向けて、片手を伸ばしていた。

 そして、ベルベディシアの手を振り払おうと……していなかった。

 その手は血まみれで俺をつかみ続けたままだった。


「助かった。ベルベディシア。もう耳栓、外すぞ。パモ、出てきてくれ。まだ気持ち悪い

感覚がある」

「ぱーみゅ! ぱみゅ!」

「ふう。まだ何か出してる。俺に作用してるもの、全部吸い込めるか?」

「ぱみゅ!」

「ヤトに一言いってやりたいよ。最初から知ってること教えてくれって。そうすりゃ別の

対処方法もあるのに……と、それはお前を隠してた俺も一緒か」

「ぱみゅ!」


 パモに周囲へまき散らしていると思われる、幻覚作用を及ぼすものを吸い取ってもらう。

 進化したパモは凄い。

 ただでさえ便利な収納機能に……いわゆるデバフを与えるような状況を打ち消す効力をやっ

てのけるようになった。

 このデバフも収納出来るってわけだ。


「ふう……ふう……血が、足りませんわぁ……」

「待って! まだ耳栓外しちゃ……」

「ベルベディシア。少し待ってろ」

「ギキイイイイイイイイイイイイイイイ!」

「うおおおおおおおおおおおおおおおお!」

「ギキィ!?」

「うおお!? びっくりした! 本当に叫んだな。魅了に弱いのは神魔解放状態の影響か」


 俺は正面の木々が何となく叫ぶのを理解していた。

 同等にかき消せるくらいでかい声を出してやろうと思い、思い切り声を張り上げた。

 すると奴はその声にびっくりしたのか、再び人型の女性の姿へと切り替わる。


「嘘……かき消しちゃった。アイジィみたい」

「封剣、剣戒。剣も出さずに何をしようとしていたんだか。お前の姿はさぞ魅力的なのだ

ろうが、悪いな。俺にはもっと男っぽい動作で、無邪気に笑う洟垂れ少女のような子がお

似合いなんだ。いや……もう一つ出来たな」


 ……有難うベルベディシア。

 熱心に止めてくれたその表情も魅力的だと思うぜ! 


「俺の主はただ一人。いくぜティソーナ、コラーダ! 久しぶりに放つが上手くいけよ……

流星! 生罪の剣、今ここに。ペカドクルード!」


 闇を打ち払う超曲刀の斬撃。三刀流になってからは練習を怠っていた。

 だが、やはり一番しっくりくるのが二刀だ。

 目の前にいた木、草、花をバラバラにした。

 これでもう、叫ぶことは無いだろう。


 こいつとは二度と戦いたくない。

 もし一人で此処へ迷い込んでいたら……俺は今頃アルラウネの樹の肥料だったって

わけだ。

 ゆっくりとこちらへ近づいて来るヤトカーンとアイジャック。

 あれ……何か怒ってない? 


「妖魔君……聞きたいことと言いたいことがわんさかあるからそこで座りなさい!」

テンプテーション。

それはとても恐ろしい能力であり、本来最も得意とするのが妖魔……だったりします。

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