第九百十話 パーミッションとリフィーザル
「動くな! お前たちそこで何をしている!」
「っ!」
まさかこのタイミングで見つかる!?
見張ってた奴は何を……って後ろで頭抱えてる。
「そこを動く……いやすまん。本当にすまん。見ない方がいいこともあるのは分かってる
つもりだったんだが、見張りとしてはその、怪しい役割を……いや十分怪しいのは分かって
るつもりだがそういう愛もあるよな」
「ちょ、何……」
「ぐふふふー、優しくしてねー」
俺の手の枷を喰おうとしていたベルギルガはいつの間にか俺の手に頬ずりしていた。
さっと手を引っ込めて服で拭きとる。
「まぁ自由時間だが、あまり遅くならないように。それじゃ、な……」
「は、はぁ」
くるっと踵を翻して逃げるように去っていく見張り。
そしてまだ演技を続けるベルギルガ。
「おい。いつまでやってる」
「ぐっふっふっふ……行ったようだなぁ。どうだ見たかこのギルガ様の迫真の演技!」
「はぁ……」
ダメだ、ため息しか出ない。
さっさと片付けてもらうとしよう。
「また見つかると今度こそまずいかもしれん。早くやってくれ」
「そうせかすなよお前中々いい手してるじゃねえか」
背中がぞわぞわする。まじでやめろ!
からかうような表情をすると、ベルギルガは俺の枷を全て食いちぎってみせた。
触ってもちっとも外れ無さそうだったのに、どうなってるんだこいつの歯は。
いや、ベルータスも恐ろしい能力者だったんだ。
こいつ自身とてつもない能力を秘めている奴かもしれない。
まぁ無駄三昧のビノータスなんて無駄だらけで大したことが無い奴もいたが。
「急いでこっちを付けろ」
「ああ……こっちは少し重いんだな」
「そうじゃなきゃばれちまう。どうだ、能力は使えそーか? おっと見せなくていいぜ」
本当にこの枷で縛っていたようで、枷のうち二つ外れた段階で神魔解放状態となった。
明らかに広がる感覚。制御しなきゃばれてしまう。
「……使えるようだ」
「ルインだったな。お前……何者だ? さっきとは別の種族になったのか?」
「ベルギルガ。干渉はよそう。俺はお前と敵対するつもりも無いし、感謝もしてる」
「ん? まぁそうだな。何故か知らんがお前とは昔からの知合いな気がするぞ」
そりゃそうだろう。俺もベル家。こいつもベル家だ。
そして俺は……こいつの親の仇と言ってもいいかもしれない。
騙してはいないが黙っているのはこいつを騙しているようで、どうしても気が引ける。
後々こいつには打ち明けて説明しよう。
「そうだな。俺もそう感じるよ。さて、そろそろ部屋に戻らないと怪しま――」
「ぱーみっ……」
「ん? 今何か凄い声出さなかったかお前」
「ぱ、パーミッションって言ったんだ。俺の知る言葉で許可って意味だ。俺たちの合言葉
にしようと思って」
「おうおう、良いじゃねえか。そういうの好きだぜ。パーミッションか。いいな」
「逆に拒否はリフィーザル。俺たちだけに分かる言葉だ」
「おう。覚え……られんから書いておく」
「また会おうベルギルガ。脱出の算段が付いたら連絡するから」
腹を抱えたまま俺は全力でその場を去っていった。
「どうしたんだあいつ」
「腹下したみたいですぜギルガ様。腹パンパンでした!」
「そうか、それが奴の能力か!」
「えっ? 能力持ちだったんですかあの妖魔」
「危うかったぜ。一面ヘドロ塗れにするたぁ恐ろしい妖魔の能力をもってやがる。ヘドロ
塗れのルイン。忘れないぜ」
――部屋に到着してから服にしまったパモを出す。
……あの場でパモを放出なんかしたら一体何を言われていたか。
なにせ妖魔として俺の能力は異常だ。
普通の妖魔はモンスターを自由に出し入れ出来たりしない。
「やっとー出られたー」
「頼む! 今は誰も出て来ないでくれ! 見つかったらやばいなんてもんじゃないんだ!」
「分かったー」
レイスのレイビー。仲間になったばかりで早速出られなくなってすまん。
お前が封印に残っていたのは分かっていた。
だからこそ妖魔魔導列車を動かせるかもしれないと考えた。
――周囲を確認し……まずは手を洗わせてもらった。
全身洗っても構わないと言われたのでさっと綺麗にする。
風呂が恋しいがそんなこと言ってられる場合じゃない。
そして体を洗う場所は監視の目が無い。
当然だ、裸の男を眺めて喜ぶ奴なんて……うっ、思い返したら吐き気がしてきた。
これはトラウマものだな。
「パモ。静かに、静か―に頼む。さっきは突然口を塞いですまなかった」
「ぱ、ぱみゅ?」
「そう、結構まずい事態だったんだ。今もまずい事態なんだけど。お前が奪われなく
て本当に良かったよ……ってあれ。パモの耳が」
純白綿毛のような白一色のパモの耳が黄色っぽく変わっていた。
そして目が少しキリっとしたような、してないような。
「お前本当に進化したんだな。嬉しいよ」
「ぱみゅ!」
凄いのはこれからだぜ! と言わんばかりに両手部分の羽をぱさぱさしてみせる。
随分長く見ていなかった気がするパモは、きっと素敵進化したのだろう。
そして、パモがいるってことはこの中に収納していた幾つかの装備もあるということ。
いやそれだけじゃない。
パモには収納機能がある。
つまり、奪われたものを気付かれないようにパモへとしまえれば……。
「後で布団に入ったら状況を説明する。助けてくれ、パモ」
「ぱーみゅ!」
「ん? 今何か聞こえなかったか? おい! うるさいぞ!」
「すみません。パースタアラビアータが余りにも食べたくなってつい」
「故郷の食事か。全く」
……一日に二度もパから始まる言葉でごまかすことになろうとは。
――そして翌日の鉱山作業のこと。
俺はレイスのレイビーに妖魔導列車を動かせるか確認して、可能であることを突き止
めた。
残るは……「君の武器、今は諦めた方が良いねぇ。城に飾られてるから。この鉱山外か
らも見えるように美しくねえ。君への当てつけじゃないのかねえ? それとモンスター
は地下室に閉じ込められているようだねえ。フェルドナーガは君のモンスターを自らに
封印しようとして失敗したらしいよ」
「そうか……どうにか取り戻せられないものか」
「君はアトアクルークに向かうって言ってたよねえ。あのモンスターたちはそこへ連れ
て行くようだよ」
「つまり、バルフートたちをベオルブイーターにぶつけるつもりか!?」
「そのようだねえ。回収出来る機会があるとするならそこだね。本格的に動き出す前に
一つ伝えておこう。僕らは君と違って妖魔魔導列車で逃げない。何故か分かる?」
「フェルス皇国に到着してもフェルドナージュ様たちがまた捕まるからだろう? 枷が外れてるのは
俺だけで、フェルドナージュ様たちを一人で守り切るのは難しいから」
「そうなんだよねえ。僕としてはもっと違う方法で枷を外して欲しかった。残念だが作戦は少し変更
するしかない」
「出来るだけ騒ぎを起こしてその間に城方面から離脱……か。だがベルギルガを列車に乗せればフェル
ドナージュ様やニンファの枷も外せるだろ?」
「……君ねえ。彼女たちにその男を近づけるつもりかねえ? 冗談じゃない。男に手を握られ、あまつ
さえ手に口づけなんて。絶対、あり得ないねえ」
「言ってる場合か!? ベリアルだって我慢したのに」
「……うるせえ。声出すとばれるに決まってるだろうが」
「やっと喋った。ずっと黙っててしょぼくれてたのに」
「面白い鳥だねえ……それよりも。こちらの離脱は必ずどうにかしよう。君には武器の調
達と衣類の調達を頼みたい。フェルドナージュ様とニンファが正体をばれずに済むよう
に」
「ベルベディシアは? あいつはどうすれば助けられるんだ」
「その女性の実力を知らないんだよねえ。枷を外したとして、戦えるのかねえ」
「はっきり言おう。フェルドナージュ様より格上の強さだ」
「それは頼もしいねえ……君、女装してみない?」
「はい?」
「少し整える必要はあるけどねぇ。彼女を助けたいならそれくらいしてみてよ。今の君
なら女装してもかなり素早く行動したり出来るでしょ」
まさかのルインさん女装です。
何て可哀そうなパートなんだ……。




