間話 ハルピュイアの者たち、その後
明日より第五部第二章を開始いたします。
本日は間話一話のみの投稿となります。
ハルピュイアと変わった者たちは、ルジリトを除き、ジャンカの町北東に集められた
木が密集する場所にいた。
特に人間からハーピーへと変わってしまったものは、定期的に歌を唄う習性がついてし
まうのだ。
元々魔の抵抗が強い者であればその定かではないが、その歌声には毒性にも似た睡魔の
効果が強いため、自らが進んで人々から離れている。
その特効薬を錬金術師であるアグリコラが製作していた。
依頼を持って行った沖虎は、ハルピュイアの特性などをルジリトから聞いている。
「やれやれ、この年で随分と厄介な依頼だねぇ。あたしゃもう生い先長くないってのに」
「何をおっしゃいますか。アグリコラ先生は水魔でしょう? まだ二百年は生きられれる
でしょう」
「どうかねえ。でも、住処を追われ、牢に入ってたんだ。今回の件で少しすっきりしたよ。
あの地に戻ることはもう無いだろうけどねえ……坊やには感謝しないとさ」
「主様は確かにお強いが……ただの魔族と違いお優しすぎる。情というものは厄介でしょ
う」
「確かに甘いだろうね。その甘さがあるから、ここにこうしていられるんだよ」
「移動牢……でしたな。地底に住む、先兵のアルケーが破壊したとか」
「どうせ再生するんだろう? ……よし、これで完成だ。もってお行き。貴重な材料殆ど
使っちまったから、軍司さんにこの請求書、渡しといておくれ」
「はっ。少し中身を拝見します……ええっ!? 色んな方の髪の毛や竜の爪まで入ってま
すけど?」
「ここには魔の強い者が多い。錬金術の素材にこと欠かないからねえ。まさか覚者なん
て存在の髪の毛まで手に入るとは思わなかったけどねえ……貴重な連勤材料になりそうだ
よ。ついでにあんたの毛ももらっとこうかね?」
「し、失礼しました! 直ぐ届けて参ります!」
慌てて外に出た沖虎は直ぐにミレーユとアメーダの下を訪れた。
「あなた様。お加減は如何でございますか?」
「もう、大丈夫よアメーダ……やっぱり、私のことをあなた様って呼び続けるのね」
「はい。アメーダにとって唯一無二の主でございますから」
「違うわ! あなたの主はルイン・ラインバウト。先生じゃない!」
「いいえ。アメーダの主はあなた様です。そう命令を受けたのでございます」
「そんな……私が我儘を言ったばかりにアメーダが……」
「あなた様。悲しまないで欲しいのでございます。アメーダはあなた様をご奉仕出来れば
それで十分でございます」
「でも、あなたは先生の封印者何でしょう? それならやっぱりあなたの主は……」
アメーダはにっこりと微笑んで見せる。その美しい羽を広げてみせた。
「アメーダにとって幸せなことは主がいること。昔からそうなのでございます」
「先生の命令はどんなものだったの? 私を主として定めよという命令だったの?」
「ルイン様には、あなた様の下へ向かい、助力せよという命でございます。この暗示は
あなた様の右腕として働いてこいというものでございます。シカリー様からルイン様へ。
そしてルイン様からあなた様へ変わったのでございますよ」
「それなら元に戻す方法はあるのね?」
「いいえ。失った主の下へ戻るは不従の儀でございます」
「どうしよう。本当に私、どうしたらいいの……私たちのせいでかなり多くの人がハルピ
ュイアの姿になってしまったし」
「これはルジリト様の命令でございましょう。それにもうすぐ……」
「ミレーユ様! お薬をお持ちしました。降りて来て頂けませんか?」
沖虎は木に止まる美しい姿のハルピュイア二匹に声を掛ける。
アグリコラから頂戴した薬を手渡すと、敬礼して直ぐに虎の姿へと変わり、他のハルピ
ュイアの下へ走っていった。
「もう出来たんだ。これで……元に戻れるのかな」
「そうでございますね。この姿のあなた様も大変お綺麗でございますが」
「止めてよ。私なんて……綺麗じゃない。王女になんてならず、普通の女の子として生まれ
たかった」
「それはコーネリウス殿も同じでございますよ、きっと」
「コーネル……私、どうしたらいいと思う? 昔みたいな強い魔力を失い、国の象徴として
の権威も失って。先生の下で修行して、調子に乗っちゃって。やっぱり私なんか……」
「いいえ。あなた様はまだお若いのでございます。アメーダと共に旅をするのでございま
す。丁度シーブルー大陸へと向かう者たちがいるのでございますよ」
「それなら私も……ううん、エンシュも誘ってみる。先生はこれから忙しくなるって言っ
てたから。別に合いたいとかじゃないんだけど」
「あなた様はそう言えば、いつもルイン様を見るときそっぽを向いていたのでございます。
あれには何か理由があるのでございますか?」
「……アメーダになら話してもいいかも。あいつの顔……私の初恋の相手に似てるんだ。別
に好きとかじゃないんだけど、ちょっぴり悔しくて」
「そうだったのでございますね。妖魔はどれも美形揃いでございますが、ルイン様は少し
人の顔に近いのでございます」
「ふふっ。アメーダ、あなた遠回しに顔が悪いって言ってるわよ」
「そういう意味ではございません。十分に魅力的なお方だと思っているのでございます。
アメーダ自身は、愛しているのでございますから……」
「アメーダ? あなたやっぱり……ご免、ご免ね……」
「何故謝られるのでございますか。アメーダは平気でございますよ」
そう呟いたアメーダは、満面の笑顔を浮かべながら、ポタポタと涙を流していた。
ミレーユはアメーダを抱き締め、一時の感情に身を任せて助けを呼んだことを悔いるの
だった。




