狂おしい
戦国武将転生です。
シリーズ化する予定です。
よろしくお願いします。
「っ殿!!
貴方様だけでもお逃げ下さい!!
殿さえ居れば、立て直す為には貴方様が、居なくなってはいけません!!
だから、俺を。
俺を置いて、お逃げ下さい!!」
パチリと目を開ける。
此処が何処かわからない。寝転がっているのはわかる。
混乱し過ぎて、動く事さえも伴わない。
唯一動く瞼だけを、パチパチと瞬かせる。
それと同時に、流れる涙。
あぁ、悲しかったのだな。と気付く。
やっとそこで気付いた。
殿を置いて、死ぬしか無かった自分が情けなくて、悔しくて。
俺にはあの方しか居なかったのに。
殿。
殿。
殿。
ボロボロと死ぬ時にさえ流せなかった涙が、止めど無く溢れ出る。
俺が彼の方を守ると、あれだけ誓ったのに。
果たせなかった。
もう少し、もう少しだった筈なのだ。
何故あそこで、彼奴は裏切った!!
アレさえなければ、殿は負けやしなかった。
俺が、あの方の居場所を創ってやれると思っていたのに。
後悔しか、無い。
殿。
殿。
殿!!
今貴方様はどうしておられるのだ!!
ーーーーーーーーーー
涙が止まった後、寝転んでいた場所に座り込みポケットに入っているハンカチで涙を拭く。
(・・・・・・ハンカチ?ハンカチ。
手拭い、とかではなくハンカチ。)
これは、マズイ。
混乱を極める、とはこう言う事を言うのだと身を持って知る。
立ち上がり、自分の服を見る。
やはりそこにあるのは、着物でも無く、当然鎧でも無い。
チラッと目に入る髪の毛の色は黒。
これは間違いないが、長さが違う。かなり、短い。
靴も、当たり前に全然違う。
むしろ武器ひとつ持ってなど居ない。
当たり前だ。
日本、ではある。
あるが。時代が全く違う。
立ち上がり、此処が何処かと辺りを見渡す。
知らない場所では、無い。
それでも自分の感じる違和感が、拭えない。
(俺は、誰だ。
今の俺は・・・・・・)
寝転んでいたせいで、砂だらけになっていたのをパンパンと払う。
そもそも何故、此処にいるのか。
何故此処で寝ていたのかの記憶も曖昧だ。
しかしそんな事は瑣末だ。
先ずは、自分が今どんな顔でどんな風に居るのかを確認したくなり、姿見の代わりになりそうな物を探す。
倒れていたのは見知った公園の片隅。そんな所であったせいか、おかげか、誰にも見つからなかったようで。
倒れてからどれ程の時間が経ったのかはわからないが、この公園であればトイレがあろうとそちらへ向かう。
出来るだけ全身を見れるように、鏡の前ギリギリまで後ろに下がる。
本当はどんな顔、どんな姿をしているなど知っている。
しかしそれでも、感情が伴わない。
鏡に映るのはダークグレーのスーツで、当然それに合わせた革靴。髪は黒で一般的には少し長めで、それをワックスで軽く流している、特に突出する事も無い何処にでもいる筈の、男。
この時代の事を忘れた訳では、無い。
けれど蘇ってしまった記憶に、感情が引き摺られる。
(殿、は・・・・・・)
殿がどうなったかなんて、この時代に生きる俺は知っている。
知っているからといって、納得など出来やしない。
フラフラとトイレから出る。
これからどうするかと公園のベンチに座る。
そう言えば、とスーツの胸ポケットからスマホを取り出す。
知ってはいる、が。
殿の事を調べようと、するも。
身体が、手が、指が、動かない。
調べるのを、否定しているかのようだ。
(何故、思い出した。
何故、俺は此処に居るんだ。
死んだ筈だ。
いや、筈どころでは無い。
殿と自分が居た時代など、四百年以上前なのだ。
戦で死ななくとも、生きてなど居られない程、昔の話だ。)
記憶のみが蘇るくらいならば、産まれなけば良かったと、思ってしまう程、戦国の時代に記憶が引き摺られる。
現在の記憶の方に違和感を覚える状態が、普通など有り得ないなど知っている。
スマホで自分が死んだ後の事を調べたところで、何も変わらない。
むしろ、調べずとも大まかな事くらいなら知っている。
学生時代に、歴史で習うのだ。
現代の記憶が無くなった訳じゃないんだ。
知らない訳が無い。
相手側を、恨んでいる訳では無い。
俺の軍略が、及ばなかった。
そう言う、時代だった。
それでも殿とその後もずっと過ごしていけると、そう、信じていた。
そりゃそうだろう!信じなければ戦など出来やしない。
殿を守り続けると、そう信じて、いたのだ。
今この時代は、殿では無い者が地盤を創っている。
それさえも信じたく無くて。
足元が揺らぐ。
(殿・・・・・・貴方様はどうやって亡くなったのですか?)
歴史を調べたところで、それが本当の事なのかどうかを確かめる術は無い。
居ても立っても居られなくなり、スマホで電話を掛ける。
ーーーーーーーー
「俺について来い!!お前で無いと駄目なのだ。」
あぁ、この人だと確信したのだ。俺がついて行くのはこの人だと。
俺の生涯をかけて、守ると決めたのだ。
ーーーーーーーー
新幹線のアナウンスで目が覚める。
もうすぐ目的地だ。
最近の夢は殆ど戦国時代であった時のもので。
俺はもう自分が今、何者なのかわからない。
それでもまだ理性は残っている。
スマホで電話した先は会社で、暫く休む旨を伝えた。
どうしても行きたい場所が出来たから。
これ程貯金をしていて良かったと、思わない事はなかった。
新幹線で降りた先は滋賀県。
周りを見た所で、当時の名残などある訳もなく。それを物悲しく感じてしまう。
着いた先にあるのは佐和山城跡。
僅かに残った石垣と、後の時代に建てられたと言う石碑だけ。
わかっていた。
わかって、いた、筈だった。
見たいと願って、此処まで来た。
それなのに。
見るんじゃ無かった、と後悔が過ぎる。
周りの景色が違い過ぎて、石垣の痕跡が少な過ぎて、偲ぶ事も出来ない。
「っ殿!!
俺は、貴方様を、守れや、しなかった!」
山頂から関ヶ原方面を見る。
目の前に広がるのは現代の景色。
だが俺の眼には、関ヶ原の合戦前の景色が過ぎる。
「こんなに、こんなに後悔するくらいなら・・・・・・
あの時、夜襲をするべきだった。その後、殿に一生恨まれたとて、殿が死ぬ事に比べれば、そんなのは瑣末な事だった。
俺が殿の機嫌を損ね、側に居れなくなる事よりも、何よりも生きていて、先を見据えていって欲しかった!!」
関ヶ原方面を眺めながら、ボロボロと涙が止めどなく出てくる。
あの時は、泣けなかったから。
その代わりに。
俺は、今、誰なのだろう。
記憶がそのままの生まれ変わりなど、するもんじゃ無い。
後悔だ。
後悔しかない。
当然だ。
後悔する死に方をしたのだから。
もっと、もっと、もっと!!
上手くやれたら、殿は死ななかったのでは無いのかと。
裏切りを予測していて然るべきであったのだ。
決して負け戦では無かった。
気持ちの消化が出来ない。
今まで何十年と生きて来た。
けれど記憶が混在している今、これからも今までと同じ様に過ごせと、言うのか。
今の世にだって情は、ある。
両親はいる。仲の良い、他の人から見ても格別に仲の良い家族だ。兄弟もいる。これも問題など全く無い。
彼女だって居る。
しかも結婚まで考えていた。当然だ。付き合ってそこそこになるし、お互い適齢期だ。
愛して、いた、筈だった。
今は、どうだ。
命を賭けた。
命を賭ける程の人物だった。
だからこそ殿、と。
様々な仕官の話はあったけれど、俺の心を動かしたのは、殿だけだった。
それは記憶が蘇ってしまった今も、変わらない。
殿以上に俺を突き動かす者は、全ての生において、居ない。
このまま殿が居ない世で、ずっと、過ごせと言うのか。
どちらが本当の自分なのか、わからない。
殿。
殿。
(俺を必要だと、言ってくれ。)
俺は殿より先に死んで、良かったんだと気付く。
殿が目の前で死ぬのを見るのは、きっと耐えれなかった。
だって今現状、既に耐えれない。
守るべき主君が居ない世に、未練が、無い。
現世での記憶もあるのに。
これでは駄目だと、知っているのに。
このまま死んでも良いと思ってしまう。
出来れば同じ死に方が良い。
けれどそれはきっと難しい。
俺は、銃で撃たれて死んだから。
俺の名前を呼んでくれ。
殿。
「清正!!!」
現代での名を呼ばれる。
皮肉な名前だ。
記憶が蘇ってしまった今、嫌いになってしまった自分の名前。
そもそも加藤清正達、武断派が始まりだ。
そこから豊臣政権が崩れ出した。
それでも。
現在の、俺の、名前。
名前を呼んだ人物を、見る。
「何故、此処に?」
「いきなり滋賀に行くっ言って、荷物も殆ど持たずに行くんだもの。何かあると思うじゃない。」
「・・・・・・・・・何も無い。
そう、何も無いんだ。」
目を瞑る。気持ちが追いつかない。
「清正??」
手を伸ばしてくる彼女からさり気無く、距離を取る。
こんな標高の低い山頂から落ちた所で死ねはしない。
「貴方様の所へ、行きたい。」
ポツリと小さな声で呟くも、周りに音が無いせいで聞こえてしまったようだった。
「どう言う意味?」
「・・・・・・さて、どう言う意味かな?」
空を、見上げる。
いつか見た景色を思い返す。
「駄目よ。貴方は誰にも渡さない。」
キツい、睨み付けるかのような強い視線だ。
「君が俺に対して、そこまでの情熱を持っているとは思ってもみなかった。」
「そうね。私も予想外だわ。
けれど。」
そこまで見せないと、貴方今にも消えそうよ、と囁くのを他人事かのように眺める。
「死にたくなったって言ったら、どうする?」
本音で来られたからには、本音で返す。
それが仁義だと、俺の中のもうひとつの記憶が言う。
「止めるわよ。当然でしょ。」
戦国と現代では命の価値観が違う。
俺の中でさえ、二つの倫理が鬩ぎ合う。
「そうだな。」
別に自分の命を軽んじている訳では、決して無いのだけれど。
それでも心を預けてしまった。
それを思い出してしまった。
自分でもどうして良いかなんて、わからない。
「帰らないの?」
もう逢魔時。
夜も直ぐそこだ。
「・・・・・・・・・どうしよっか?」
帰るべきなのだと、現代の記憶は言っている。
でも戦国時代の記憶は、帰りたくないと言っている。
此処は思い出も多いから。
もう以前見た景色の面影さえ無いのに、縋り付いてしまう。
「会いたい人が、居るんだ。」
「・・・・・・こんな所まで来て、会いたい人?
それは、会える人なの?」
当然の疑問だろう。
平日の、しかも佐和山城跡とはいえ、城が残っている訳でも無いこの場所、こんな時間に誰が来ると言うのか。
実際、此処に来てかなり時間も経ったが人を見かけても居ない。
「会えたら、良かったのにな。」
止めた筈の涙が、また溢れ出す。
言葉にしてしまったら、余計に会えない事を実感してしまった。
流石に涙を見せるつもりは、無かったのに。
「彼女がこんな所まで迎えに来たのに、会いたい人が居るって泣くのね。」
貴方の泣き顔なんて初めて見たわ、と切なげに目を伏せるのを申し訳なく思う。
別に彼女に対して、愛情が無くなった訳では無いのだ。
それでも、生きる意味を見失ってしまった。
思い出しさえしなければ、こんな風に悲しませる事など無かったのに。と思うも、思い出さなければ良かったなんて、もう思えなくて。
俺にとって唯一だったんだ。
殿。
俺がこうしているのなら、貴方様も何処かに居るんじゃないかと、期待してしまう。
殿が死ぬ時は、俺の死ぬ時だと。
俺の過去の覚悟が、今を縛る。
「帰るわ。」
そう言って彼女は俺から背を向ける。
「連れ戻しに、来たんじゃないのか?」
自分でどうしたいのか、わからないから一層の事決めて欲しかったのかもしれない。引き止める様な口調になってしまった。
「連れ戻しに来たけど、無理矢理連れて帰って清正は納得するの?」
「・・・・・・・・・」
「自分で納得しないと、同じ事を繰り返しそうだけど?」
「・・・・・・・・・」
「だから貴方の好きにしたら良いわ。
私は私で好きにする。この子と二人で。」
彼女がそっとお腹に手を当てる。
ハッとするも、既に彼女は背中を向けて歩き出していた。
『左近!!
お前はお前の道を進むんだ!!俺に縛られるな!!!』
錯覚、かもしれない。
それでも聞こえた声に従って彼女を追いかける。
「殿。
次の世では、必ず側に。」
何故思い出したのか、わからないけれど。
短くとも殿の。石田三成様の声が聞こえただけで、そして謝る事が出来た。それはただの自己満足かもしれない。
それでも。
殿。
守る者があろうとも、やっぱり俺の唯一は殿で。それはきっとこれから先も譲れない。
それでもこの生は産まれてくる命に。
責任を持って全うすると誓います。
殿。
俺が次に死ぬ時は、またお側にーーーーーー
島左近。
関ヶ原の合戦で西軍に属し、亡くなってます。
石田三成を主君とし、二万石の俸禄で召し抱えられており、石田三成に過ぎたるものと言われる程、優秀な軍師であり参謀でありました。




