初のエンカウント。
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アレな出会いを果たしたミレニアと一緒に薬草採取に勤しむ。
知り合ったミレニアと薬草採取をしていると、しらばくして森が薄暗くなり始めた事に気付いた。
どうやらいつの間にか日が暮れてきたらしい。
「二人とも、そろそろ切り上げましょう。薬草も十分、というかありえない量を採取できたし、今から戻れば暗くなる前に開拓村に着けるはずです」
それに気づいたミレニアの言う通り薬草はかなりの量を採取しており、途中ミレニアが持つ袋に入らなくなった程で、見つけた木の蔦を紐替わりにして束ねたものが四つ程出来上がっていた。
一つが3~5㎏くらいありそうなんだけど、さして重く感じたりしないのが異世界仕様の身体のおかげだろうか。
「はいよー。じゃあ、村までの案内よろしく…………の前に、シオン、気づいてるか?」
「ん。こっちになにか近づいてきてる。気配からして、そこそこ大きい、動物?」
「え? え? なんです? なにが近づいてるんですか?」
ミレニアは気づいてないのか。
まあオレも索敵を散発的に展開していなかったら分からなかっただろうけど。
スキル様々である。
「こっちに向かって、大き目の動物が近づいてきてるっぽい。しかも真っすぐ向かって来てるところからして、オレ達の匂いかなにかを追ってきたのかもしれない」
「ど、どうしましょう! あたし、あまり戦いが得意じゃなくて……!!」
「大丈夫。私とミナトが相手をするから。ミレニアは、囮になってくれれば大丈夫」
「あー、よかった。それなら私にも出来る・・・・・・じゃないですよ!? それ思いっきり怖いんですけど!?」
「冗談冗談。ミレニアは、どこかに隠れてて」
「け、怪我とか気を付けて下さいね!」
そう言い残してミレニアはそそくさと素直に木の陰へ身を潜めた。
というか、元の世界じゃ大人しそうだったシオンが、まさかのブラックジョークとは。
「シオン、なんか人が変わった?」
「わかんない。でもこの獣人になってから、戦うことを意識すると、ちょっと気分が高揚してくるの」
え、意外と戦闘民族だったのシオンさん?
まあでもここで「きゃーこわーい」とか言われてもどうしようもないし、かえってよかったのかもしれない。
「ミレニアには任せてと言ったけど、ミナトは平気?」
「平気かどうかはやってみないとだけど。まあ、アレだ。オレも魔法を使ってみたくてってところは、同じだな」
オレが笑いかけるとシオンも笑みを浮かべて頷く。
魔法を使えるなら使ってみたいし、それにどちらにしろこの異世界で生きるなら魔物や人との戦いは避けられないことだろうしな。
「それじゃオレが魔法で足止めするから、シオンはとどめをお願いできるか?」
「わかった。気を付けてね」
「シオンもな」
そう言って、オレ達は左右に分かれて茂みの中に身を隠した。
いつでも魔法を放てるように準備をしながら待つことしばしして、前方の茂みをがっさがっさ揺らし枝を折りながら姿を見せたのは……猪?
「マジか、でっけぇ……」
テレビ等でしか見たことがないけど、そのフォルムは猪のそれだと思われる。
ただサイズが……牛くらいあるんですけど……。
よし、ここは看破さんの出番だ!
種族:不明
状態:健康
「…………」
看破さん仕事してえええええっ!?
種族名すらわからないのはどういう事!? まさか実はどっかの隠しボスとかじゃないよね!? とりあえず索敵だと魔物の反応じゃないから、でっかいだけの動物だよね!?
しかしここまで来た以上、倒さないでいるのは色々危険な気がする。猪との距離は10メートルくらい。よし、やるか!
「『氷針』!」
「プギィィィッ!?」
茂みから立ち上がり放った5、6本の『氷針』が、見事に巨大猪の左顔面に命中して、その周囲を白く凍てつかせる。
気づいた巨大猪がオレに顔を向けた瞬間、シオンが茂みを飛び出して木刀もどきのフルスイングを頭部に勢いよくぶちかます。
当たった瞬間、バキリと砕ける音。
「っ!? 硬い!!」
声を上げたシオンがすぐさま巨大猪から距離を取る。
砕けたのはまさかの木刀もどきの方で、巨大猪の方は額から出血しているも、倒すまでには至っていない。
その巨大さは伊達じゃないか……!
「ブモオオオオッ!」
「やばい! シオンよけろ!!」
怒った巨大猪が怒声を上げてシオンへと猪突猛進していく!
あれに当たったら冗談じゃなく死ねる!!
「いらっしゃいませ、そしてさようなら」
人の心配をよそに余裕な感じでシオンがひらりと躱すと、その先にあった大きな木に巨大猪が頭からぶつかり、ガツンと大きな音を立てる。
「きゃあああっ! なんかすっごい揺れましたよ!?」
直後に響くミレニアの悲鳴。どうやらその木の向こうに隠れていたっぽい。よかったね、木が折れたりしなくて。
そして巨大猪といえば、ダメージはあったようでふらふらとした足取りで後退していく。
「ミナト、前足を凍らせて!」
「了解! 『氷針』! 『氷針!』」
「プギィッ! プギギギィッ!?」
魔法の試射をした際に魔力を込めればその分だけ威力も増す、ということが分かっていたので、遠慮なしに魔力を込めた『氷針』は狙い違わず巨大猪の左右の前足に刺さり、地面ごと関節部まで凍り付かせてその場に縫いとめる。
「あとは、任せて」
言うが早いか、必死でもがいて脱出しようとする巨大猪の前にシオンが駆け寄り、軽く飛び上がるとその右足を高々と振り上げてその頭に勢いよく振り下ろした。
すごい綺麗なカカト落としなんだけど、貫頭衣のままやったもんだからもろに見えた紐パンがセクシーだね!?
ゴシャリ、と何かが砕ける音と共にシオンの右足の踵が巨大猪の頭部にめり込み、びくびくと痙攣してそのまま倒れこみ、動かなくなった。
多分、最初の木刀もどきの一撃と木への激突の衝撃で巨大猪の頭部に重大な損傷が発生して、踵落としがダメ押しのとどめになったんだろうけど、まさか素手で倒してしまうとはシオン、恐ろしい子!
「倒せたっぽい?」
「みたいだね」
シオンが足でツンツンとつつくものの、巨大猪はぴくりとも動かない。
「え、えっと、なんか静かになったみたいだけど、二人とも大丈夫で――――きゃあああっ! なんですかこれ!?」
大きな木の後ろから出てきたミレニアが、巨大猪を見て驚いて目を丸くしている。
「……タスクボアみたいだけど、こんな大きいのは初めて見ました」
恐る恐る近寄り巨大猪を観察していたミレニアによると、これはタスクボアという名のれっきとした動物らしい。
「ところで倒したはいいけど、これ、どうする? 置いてくのか?」
「えええ!? これを置いていくなんてもったいない! 全部……は無理でも、解体して持っていけるお肉だけでも持って帰りましょう!!」
「これ、おいしいの?」
「もちろん! しかもこんな大きなサイズなんて滅多にいませんよ!!」
「ミナト、このお肉、持って帰ろう」
肉食系女子達により、お持ち帰りが決定した瞬間だった。
「いやでも、料理はしたことあるけどこんな素の状態から解体なんてしたことないぞ? シオンは?」
「私は、食べる専門だから」
「大丈夫です! あたしが解体できます! まずは手早く血抜きしちゃいましょう!!」
言うが早いか、ローブの袖をたくし上げたミレニアが腰元からナイフを取り出してタスクボアの首元をかっさばき、そこからどっぱどっぱ血が溢れるように流れ出てくる。
さらにはお腹を捌いて、そこから手を突っ込んで内臓を掻き出していく。
「うわぁうわぁ、スプラッタが生で、生でスプラッタが……」
心臓に胃に腸にと、取り出されてでろでろんと地面に横たわる内臓とその臭いに、思わず血の気が引いていくのを感じる。
「ハツ、ハラミ、モツ、レバー、ミノ――――」
お隣では真面目な顔でシオンが焼肉で聞くような部位を次々と連呼している。ちょっと逞しすぎやしませんか?
「ふう。とりあえず、急ぎですが血抜きと内臓は取り終わりました」
いや、いい笑顔で言ってるけど、その腕や顔についた血が猟奇殺人を犯した後にしか見えなくて怖い。
「あとはお肉を綺麗にしますね。『浄化』」
ミレニアがなにかの魔法を使った瞬間、巨大猪についていた土埃や血等の汚れが無くなって綺麗になっていく。
今度は自身にもかけて、さっきまで血だらけだった腕や顔、青いローブなんかも染み一つなくなってしまった。
え、なにそれ? ダスキ〇もびっくりなんだけど。
「なにその魔法。すごい便利そう」
「はい。光魔法の一種なんですけど、これで幽霊とかを浄化したりできますし、あと綺麗にする効果もあって、寒い中で水を使って体を拭かなくても済むので便利です!」
理由の後半に熱い気持ちが感じられたのは気のせいだろうか……。
「それにしても、あとは毛皮とお肉の解体ですが、時間的に一部しか持って帰れないのがもったいないですね……」
「ミナト、なんとかならない?」
シオンさん、そんな切なそうな顔で見ないでくれる!? 男はそういう顔に弱いんだよ! なんとかしてあげたくなっちゃうよ!?
とは言うものの、成牛の場合、血や内臓を取ったとしても300㎏以上あるとかないとか聞いたことがある。
そんな重さのあるものを持ち上げたりはできないだろうし、ましてや台車や固定するロープもないわけなのだが……。
持ち上げる、引っ張る、押す等の様々な運搬方法を考えながら何か使えないかと周りを見渡していると、あるものが目について自分のスキルと合わせればもしかしたら、と思いつく。
「できるかどうかわからないけど、ちょっと試したい事がある。
でも時間もないし、これがダメだったらお肉の一部だけ持ち帰るってことで構わない?」
巨大猪と仕留めた時間もあり、すでに日が暮れ始めて辺りが暗くなってきてるので、これ以上時間をかけると村まで戻る道が見えなくなりそうで危なそうだし。
「大丈夫。ミナトならできる、頑張って。でもその時はロースの部分を持って帰る」
「ミナトさんならできますよ! でもその時はモモを頂きたいと思います!」
二人の肉への期待が熱い。
「はいはい。じゃあ、シオンとミレニアで、これからオレが言うものを取ってきてくれるか?」
「お任せ」
「わかりました!」
とりあえず巨大猪を運搬する方法を模索するべく、嬉々とした様子の二人に必要なものを取ってきてもらうのだった。
子供の頃、なんかのイベントで牛一頭が丸焼きにされてるのを見て、その大きさに圧倒されたことがありました。その後、お肉は家族でおいしくいただきました。