初めての異世界人。
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お互いのスキルを確認し合い、冬磨の呼び名が「ミナト」になった。
「あ、なんか反応がある」
「魔物?」
猫耳獣人となったシオンと使えるスキルの確認をし終わった後、まずは街道を目指してしばらく森の中を歩いていたのだけど、そんなオレの探索スキルに反応があった。
「この反応は……魔物じゃないっぽい。でも動物かというと、そうでもないような気がする」
森を歩く間に何度か魔物や動物と遭遇していたので、少しは判別できるようになっている。
もっともどちらとも遠目から確認したのみ。
スキルがあるからと言って、まともな装備がない状態で戦いなんてしたくないし、なにより女の子であるシオンに不要な怪我等してほしくない。
まあ今のオレも女だろ、というツッコミもあるのだけど、そこはほら、男の矜持というか。
「魔物じゃない? ……なんだ、ちょっと試したかったのに」
なにゆえ残念そうに手にした木刀もどきを見つめますかシオンさん。
元の世界では地味目で大人しそうに見えていたシオンが、異世界に来てなかなかに脳き、もといアグレッシブになられておる。
ちなみにこの木刀もどき、シオンのお手製である。
道中に落ちていたジュースの細缶くらいの太さのある長い木の枝を見つけ、「ちょっと削ったら、いい感じになるかも」と言い、そこらにあった大人の腕くらいの幅のある長細い石を手刀で真っ二つに叩き割り、その切断面を他の石で削り磨いて鋭角にして枝葉を落として微調整したところ、その木刀もどきが出来上がった。
オレの頭に〈シオンは、お手製の木刀もどき、を手に入れた〉というログが流れても仕方ないと思う。
そして思った以上にシオンがサバイバーでした。
「もしかしたら人かも知れないし、ちょっと様子見に行ってみようか?」
「うん。ミナトは私が守るから、安心して」
それは男(中身が)としてオレが言うべきセリフでは……。
現状で魔法しか使えないので、接近戦はシオン任せになるしかないからある意味しょうがないけども。
そんな思いを抱きつつも、オレとシオンは木の葉や雑草で音を立てないように慎重に反応の元へと近づいていく。
ジャングルのように植物同士で鬱蒼としているわけではないけど、起伏のある地面に木が生えている位置や腰くらいまである草木等、それなりに見通しが悪いので例え10メートル程まで近づいても見えない時もある。
今回もそのような感じで随分近くにまで来たものの、反応がある位置には低木が邪魔をしていてその姿を見ることが出来ない。
目的の場所が視認できるくらいの距離で、木の陰に隠れながらシオンに話しかける。
「あそこの低木に囲まれたところなんだけど、どうする? 声でもかけてみようか?」
「ダメ。一人みたいだけど、万が一盗賊や犯罪者とかだったら、逆に襲われるかもしれない。回り込んで確認してからの方が、いいと思う」
「オーケー。そうしようか」
小声の話し合いで結論が出たところで、オレは先行しゆっくりと迂回していく。
シオンが少し離れた位置から追従してくるが、それは万が一オレが襲われた際に助けに入るための距離だ。
普通は接近戦ができる方が前を行くのだろうが、それだとシオンが身動きできなくなった時に、フォローしようにもオレの場合だと魔法で敵ごと巻き込む可能性がありそうなので、二人で話し合って今の形に決めた。
そして迂回して近づいていくうちに低木の密度が薄くなり、そこから人影が見えてきていた。
「……なんだか、蹲っているような?」
しかも木の葉からわずかに見えるシルエットは女性のようで、蹲るような姿勢から髪が地面につきそうなくらい長い。
オレは目的の位置まで5メートル程近くにある木の陰に身を潜め、後ろのシオンにジェスチャーにて女性がいるっぽいことを伝える。
それを見たシオンが小さく頷き、オレは姿を確認するために木の陰からそーっと顔を覗かせようと、ってなんだ、首の後ろでなんかもぞもぞしてるような?
この身体になってから髪が腰位まであり、たまに首元にかかる髪でくすぐったくなることがあるようになった。
なので今回も首元にかかる髪を手で払ったのだが……あれ? なんか払った手の甲になにか、黒いものがひっついて、る…………。
それと目が合い、「やあ」というように前足を上げた仕草をした瞬間、全身が総毛立ち、
「いやあああああっ! クモォォォォォッ!?」
めっさ女の子らしい悲鳴を出したあげく、クモが乗った手を振り回した反動ですっ転んでしまい、後ろ手に尻もちをついてしまった。
「いったぁ……ふぅ、でもよかった。クモはどっかいったか……」
手を見れば先ほどまで乗っていたクモはいなくなっており、安堵の息が漏れる。
いや蜘蛛自体は見る分には平気なんだけど、それがほら、やっぱり体を上ってきたり這いまわれたりすると違うわけで。
いやー、まさか自分からあんな女の子100%な悲鳴が出るとは思わなんだけど。
「…………」
なんて思っていると、ふと視線のようなものを感じて横を振り向けば、
『…………』
ばっちり目と目が合ったのは、一人の少女だった。
小麦色の髪をしたその少女と言えば腰をあげてやや前かがみになっており、捲り上げた青いローブから伸びる色白な両足の膝の位置で、下着を両手でたくし上げた状態のまま、目を丸くして固まっている。
少女の足元を見れば、濡れた地面があり、うん、まあ事後だったんだろうと。ごめんね?
「…………やあ?」
いたたまれない空気を打破するべく、なるべく気軽にフレンドリーに話しかけたつもりだったんだけど、オレと足元の濡れた地面を交互に見比べた少女の目が段々潤んでいき、
「いやあああああっ! 見ないでえええええっ!!」
「すいませんでしたーっ!」
そんな少女の悲鳴に、オレは即座に回れ右して謝ることしかできなかった。
「ミナト、実はラッキースケベのスキル、取ってたとか?」
「違うからね!? 不慮の事故だからね!?」
後から来てとんでもないことを言うシオンに、オレは即座に弁明するのであった。
まあさっきの光景は、男として脳内ファイルに保存済みだけども……!
異世界人との遭遇シーン、作者は小学生低学年の頃に同じ状況に陥ったことがありました。
あ、ちなみに見られた側ですorz
あの時の言い知れぬ焦燥感と言ったら……!