これからどうする?
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スキルポイントを残して転移したら、まさかのTS(女の子)化させられていた。
「じゃあ、今度は私のスキルを、教えるね? その棒、貸して?」
そんな申し出をしてきた稲葉さんがオレから棒切れを受け取り、すらすらと地面に自分のスキルを書き出してくれる。
【剣の才能】【双剣術Lv3】【格闘の才能】【格闘術Lv3】【身体強化Lv3】【動体視力v3】【反射神経Lv3】【自己治癒力Lv2】【頑強Lv2】【気配察知Lv3】【鑑定Lv1】【看破Lv1】【ヘルプ】
なんというか、オレとは真逆に物理特化していて、
「なにげに脳筋仕様……?」
「がーん……」
非常にショックを受けた顔で、稲葉さんが肩を落として俯いてしまった!?
心なしか尻尾も垂れているような気がする。
「稲葉さん!? ご、ごめんね! 悪気はゼロだから! だからそんなわかりやすく落ち込まないで!?」
「ほんとに?」
「ほんとに!」
聞けば実は稲葉さんは元の世界で剣道を有段者であるおじいさんに習っていたらしく、また同じ道場で空手の教室があり、そこにもたまに参加していたそうでそれを元にスキルを構築したらしい。
ちなみに剣道はなのに【剣術】ではなく【双剣術】を取ったのは「二刀流はロマンだから」とのこと。
……見た目に反してアグレッシブですね? 怒らせないようにしよう。
「それにオレのスキルも、逆の意味で稲葉さんと同じだと思うし!」
オレがそう言うと何を思ったのか、稲葉さんがしばし考えるように小首をかしげ、
「……めぐみ〇タイプ?」
「がはっ……!」
今度はオレが心理的ダメージを喰らうことになった。
それはやめて。魔法寄りとはいえ、なんかアホの子と言われてる気がする……。
というか、稲葉さんもアニメとかも知ってるんだね? 意外だったよ。
「そ、それよりこれからどう動こっか? テンプレだと適当に歩いてれば、町に続く道に出たりするけど」
なんとか立ち直ったオレは今後の提案に、稲葉さんはしばし考え、
「それは危険。しっかり場所や方向を把握しないと、遭難する可能性があるから。それに、魔物も出ると思うから、猶更」
そうだった。これはラノベやゲームじゃなくてリアルなんだった。オレ、反省。
「それになにも武器になるものもないし、こんな服だと心もとない」
「あー、そういえばそうだった。武器も防具もない転生って、けっこうハードモードでしかないような……」
ドラク〇の主人公だって、初期装備で旅人の服とかこんぼうとかもっているというのに。
オレ達に至っては膝上のワンピースのような貫頭衣と靴しかもっていない。
あと、稲葉さんは服の裾をぴらぴらと捲り遊ばないで欲しい。外見はこんなでも中身は男だから、つい、そこに視線が……!!
「あ、そういえば、この服ポケットがあるね」
稲葉さんの服を見て気づき、中身はなにがあるのかと探れば、指に当たる感触は……硬貨か?
手を出して開けば、そこには、
「100円玉サイズの銀貨? が、10枚?」
「うん、私も同じ。ヘルプだと大銀貨一枚100レアって出るけど、日本円的にいくらかはわかんない」
「んー、まあそれは現地の物価と照らし合わせれば、大体わかる、かもな?」
一枚500円~1000円くらい? 銀貨だけにそう価値が高いとも思えないし。
しかし全財産が大銀貨10枚(推定1万円)と服だけって、異世界でも普通に路頭に迷いそう。
まあ良くも悪くも異世界でなので、スキルと腕があれば冒険者として稼げるとは思うけど。
そういえばスキルで思い出したが、オレは魔法を持っているんだから試さないわけにはいくまい!
「ところで稲葉さん、魔法を試してみたいんだけど、どうだろ?」
「いいと思う。私も実は、魔法に興味があった」
ということで、オレは近くにあった5メートル程離れた木に向けて、威力などの確認も込めて試射してみることにした。
魔法の種類はレベルに応じて基本的なものは分かっているので便利だ。
「まずはレベル1から行くか。『氷針』
なんとなく前へ翳した手から、20センチくらいの針金のようなものが5本程射出され、スコココンと軽い音をさせて木へと刺さる。
うん、文字通り氷の針。
「すごい、刺さったところが白く凍ってる」
「どれどれ……。おお、ほんとに魔法みたいだ。魔法だけど」
木に近寄っていった稲葉さんが声を上げたので、オレも近づいて見てみると、確かに刺さった箇所が白く凍りついており、表面がうっすらと氷の膜で覆われている。
「……これって実際に当たったら、どうなるのかな? 壊死?」
「さらっと飛躍して怖い事言わないで欲しいんだけど!?」
まずは霜焼け又は凍傷とかじゃないのかな?
でも実際、こんなんが目や口にでも当たったらヤバそうである。
とりあえずそれ以降も使えるレベル3までの魔法を一通り試してみたのだが。
うーむ、氷魔法、使い方によっては凶悪な気がする。
効果はどの魔法もほぼ文字通りなのだけど、どれも下手に人相手に使うと殺傷能力が半端ない。
特にレベル3の『凍結球』なんか、木に当ててみたらその周辺もろとも、氷像と化してしまった。
それを見た稲葉さんが「氷魔法、漁とか魚市場に行ったら、すごく稼げそう」とか斜め上の発言をしていたが……。
「でもこれくらいの威力があるなら、魔物とかに襲われてもなんとかなるかも?
じゃあ次は、私が色々と試してみるから」
そう言って稲葉さんがどこからか拾ってきた、身長より少し短いくらいの木の棒を正眼に構え、動いた。
「……ふっ! はっ!」
短い息と共に稲葉さんが型のようなものを次々と繰り出していく。
え、なにこれ? 動きが流れるようでいて鋭くて、木の棒が聞いたことない風切り音上げてるんですが?
時代劇でもこんなの見たことないというか、完全にアニメの世界のような動きをしている。
「冬磨君、落ちてる葉っぱ、ちょっと上に放り投げてみて?」
「え、こう?」
素振りを辞めてこっちを振り向いた稲葉さんに言われたとおりに、数枚の木の葉を地面から拾い、手前に放り投げた。
もちろん投げられた木の葉はいったん宙へと舞うものの、ひらひらと不規則に落ちていくわけで。
「やっ! はっ!」
稲葉さんが木の棒を正眼に構えたと思った瞬間、気合の声と共に次々と斬撃が繰り出されて、木の葉がパパパンッ! と落ちきる前に全て弾き斬られていった。
ていうか、近すぎるよ稲葉さん! 風圧が前髪揺らしてスーパー怖いです!!
下手に動くとオレに当たってしまいそうで不動の姿勢でいると、満足したのか稲葉さんは木の棒を地面に刺し、今度は近くにある木に向かって軽く構えだし、
「ふぅぅぅぅ……はっ!」
深く静かに息を吐きだし、今度は空手の型のようなものを連続した動きで繰り出していく。
正拳突き、手刀、回し蹴り、二段蹴り等がやっぱりオレが見たことない速度で放たれる。
たまに木に打ち当てているんだけどその時の音が重くて、しかもなんか木が結構揺れてません?
いやあれ、大人が一抱えあるくらいの太さなんだけど。稲葉さん、どこの地上最強ですか?
「ふっ、やぁ!」
ひときわ気合の入った声で、稲葉さんが飛び上がり身体を捻って連続の回転蹴りを打ち上げた。
わあ、リアルでチュン〇リーの覇山天昇脚が見れるとは思わなかった。ついでに蹴りの途中から服の裾がめくれて、素敵なものが見えたんだけどありがとうございます。
動きの確認が終わったのか、稲葉さんは自然体になりゆっくりと息を吐きだす。
「すごい。前の身体? より、理想通りに動く。多分元の世界でも、そこらへんのチャンピオンとかなら、余裕で倒せそう」
後半、とても物騒な事が聞こえたけど、稲葉さんが笑顔で喜んでいるのでスルーしておこう。
ともかくオレの魔法や稲葉さんの腕前を見ても、ゴブリンとか下級の魔物くらいなら大丈夫な気がする。
邪神も「最低でも向こうの世界の平均よりは上」とも言っていたし、まさかゴブリン級がそれよりも強いなんてことはないだろう。
「お互いに問題ないみたいだし、とりあえずここから移動してみようか。
邪神とは言え、さすがに町も村も近くにない森の奥とかに転移させたりしないだろうし」
「そうだね。でもこんな状態で、魔物に会いたくないから、冬磨君は索敵をお願い。私は、気配察知しながら、がんばる」
そう言って胸のあたりでぎゅっと両手を握る稲葉さんが、獣耳や尻尾の可愛さも相まって尊い。
「それじゃ、どっちに行こうか?」
「あ、ちょっとまって」
「!? まさか魔物が……!?」
オレの索敵には特に引っかかってないのだけど、稲葉さんはなにか感じ取ったのか?
「そうだ冬磨君。呼び方、どうする?」
「はい?」
すわ魔物か!? と緊張していたところに、稲葉さんの的を外した問いかけに力が抜けてしまう。
え? 呼び方? 普通に今まで通りでよくない?
「冬磨君、今は女の子でしょ? その姿で冬磨君は、違和感が凄いし。それにもし、他のクラスメイトに会った時、すぐにバレない方がよくない?」
「そういえば、そうだった……」
魔法のことや稲葉さんの演武なんかで忘れてたけど、オレ今、可愛い女の子(稲葉さん談)だった。
それに名前はまだしも確かに他のクラスメイトに会った時、この姿でバレる事を考えるとなんか恥ずかしい気がしてくる……。
「えーと、じゃあ名前どうしようか? なんか捩ったのに変えてみるとか?」
とは言ってもパッと思いついたりはしないんだけど。
「……南 冬磨、みなみとうま、ミナミト、ウマ…………ミナト? とか、どう?」
途中、なんだか不穏な区切り方をされた気がするけど、最後に提示された名前はわかりやすくていいものだった。
「ミナト、か。うん、それじゃ今からオレはミナトにしよう。それでよろしく、稲葉さん」
「シオン」
「稲葉さん?」
聞き返したオレに、なぜか稲葉さんが唇をとがらせてむくれてしまった。
ホワイ?
「私のことも、呼び捨てで呼んで。稲葉だと、他のクラスメイトにも、すぐわかっちゃうから。それに、変なスキルを取った人がいる事を考えると、すぐに分からない方がいい」
「あー……確かにそれはあるかも」
オレが覚えてるのだけでも【奴隷化】【ハーレム体質】とか、字面からして禄でもない追加スキルがあったもんな。
異世界だけに元の世界のような治安を期待できない以上、理不尽等に対する自衛は必要だろうし、オレもそんなスキルを取ったクラスメイトと仲良くしたいとは思わない。
「よし、それじゃあ、シ、シオン? これからミナトとして、よろしくね」
「うん。よろしく、ミナト」
クラスメイトとはいえ、女子の名前を呼ぶことがなかったのでどもってしまったオレだが、なぜか頬を赤くした稲葉さ、もといシオンにとてもいい笑顔で頷かれたのだった。
貫頭衣は弥生時代の人が着ていたようなものではなく、現代風なおしゃれなものをイメージしていただければ……!
女の子の服の表現が難しい……!