対蛙特攻?
本格的なマーシュフロッグの狩りがはじまる……!
「『凍結球』!」
「ゲゴッ!?」
白い軌跡を残して放たれた魔法が、日向ぼっこらしきことをしていたマーシュフロッグに着弾して、その身体をうっすらと凍らせ動きを鈍らせる。
その直後に駆けだしていたシオンがマーシュフロッグの頭部に飛び乗り、サクッと剣で貫くことによって一丁上がり。
特に危なげもなくまた一体の狩猟に成功した。
「思いっきりミナトの魔法が嵌まってるね。これで11体目なんて、まさに破竹の勢いだね」
「いやぁ、こんなに楽な狩りは初めてだわ」
「ち、力仕事はおでに任せてくんろ」
「じゃあ、皮を剝ぐのをお願いしまーす」
オレの隣で上機嫌なスヴェトラーナさんと、解体をしにミッチェさんとモロックにミレニアが揃ってマーシュフロッグへ駆けよっていく。
次々と解体されていくマーシュフロッグを遠目でみつつ、まさか自分の氷魔法がここまで有効なんて思いもしなかった。
直接攻撃も解体もお任せだったので、さすがにオレも狩りに貢献しなければと試しに撃ってみた『凍結球』が効果抜群だった。
初めはガッチガチに凍らせていたが、威力を調節して本来の半分以下の魔力で撃った魔法でも極端に動きを鈍らせることができ、そこからはシオンやスヴェトラーナさんの剣、モロックの槍などで簡単に狩りが進む進む。
ただ一度「あたしもやってみます!」とメイスをもって正面から駆けだしたミレニアが、鈍いながらも動き出したマーシュフロッグの粘着質な長い舌に巻き取られ、上半身が口の中に収まるという事故が起きたけど。
あまりにコミカルな事故に一瞬誰もが動けなく、ジタバタしていたミレニアの下半身が麻痺毒で動けなくなりぐったりしたところで慌てて皆で救出に向かったほどの出来事だった。
「暗いよ臭いよ怖いよぉ……」
ぷるぷると震えて泣いてたミレニアには悪いけど、マーシュフロッグの粘液で上半身がべったべただった上に、牛乳を拭いて乾いた雑巾を一週間くらい放置したような臭いで近寄りがたかった。
シオンなんか「大丈夫?」と心配しつつも、獣人特有の嗅覚の鋭さが仇になって十歩位引いた場所をキープしてたくらいだし。
スヴェトラーナさんから麻痺毒を中和する薬を貰って飲み、麻痺が抜けたあとはミレニアが自前の『浄化』を念入りに二度かけて汚れと臭いを取っていた。
それ以来ミレニアは「カエル怖いです……」なんてトラウマになったようで、解体以外は近づかなくなってしまったけど。
まあオレが言うのもなんだけど、ミレニアは光魔法があるし適材適所だよね。
「ミナト、終わった」
「ありがと、シオン」
「……なんだか放った木の枝を取ってきた犬が褒められてるみたいだね」
シオンは猫です。いやだって、一度すごいなぁって褒めて何気なく頭を撫でたら、それ以来活躍しては頭を差し出して上目遣いでおねだりなんてされたら、まあ、撫でちゃうよね?
「しかしおかげで今月のノルマどころか、それを通り越して余剰分も確保できたのはありがたいよ」
「私達も、お肉のストックが出来た」
二人の言う通りで六匹目でスヴェトラーナさんが必要なノルマは達成し、それからはお互いに必要な素材として確保していた。
しかしマーシュフロッグというのは捨てるところがなく、肉は食用、脂は燃料や食用油、皮は服飾品や装備品にと、骨や内臓以外はほとんど使える。使えるんだけど……。
「わあ! このマーシュフロッグは当たりですよ! たっくさん卵が出てきました!!」
「……出ちゃったかぁ」
嬉しそうなミレニアの声に思わずちょっと遠い目になってしまうオレ。
だってさぁ……。
「ほれミナト。出番だよ」
「卵は貴重。よろしくミナト」
「はいよー……」
スヴェトラーナさんとシオンに見送られて解体現場に行くと、そこには可食部位などに切り分けられたお肉があり、にこにこと両手にマーシュフロッグの卵を抱えたミレニアが立っていた。
ちなみにこの卵も食べれるらしい。
しかし半透明の丸い卵に黒点が一つという、目玉のような卵が薄い膜に包まれてぎっしりと詰まっているそれを見て、背中に悪寒が走って自分でも顔が引きつっていくのがわかる。
……だって気持ち悪いんだもん! 小さい虫や卵の集合体って見てるだけで寒くなるんだよ! いやまあ、たらこや筋子なんか食べるのは平気だけども!!
それにしても服のあちこちにマーシュフロッグの青い血が飛び散ってる状態なのに、笑顔のミレニアという絵面のギャップがちょっとホラーというか…………夢に出てこないといいなぁ。
うへぇ、と思いつつ『氷結』で卵やその他のお肉等も冷やしてマジックバッグへとしまい込んでいく。
「マジックバッグってほんと便利だよね。ミナト達がもっててくれて大助かりだよ」
「シオンとミナトがすぐ獲物を見つけてくれるし、短い時間でこんなに狩ることができるのはすごいんだな」
ほんとミッチェさんとモロックの言う通りで、マジックバッグ様様なところはある。
もしマジックバッグがなければ一、二匹狩るごとに一度町へ戻らないといけないし、こうも立て続けに素材を確保するのは困難だろう。
まあ獲物の索敵に関してはモロックには悪いけど、オレとシオンの『探索』と『気配察知』があるからなわけで、真面目に狩りをしている他の冒険者に対してちょっと気が引けなくもない。
「そろそろ昼になるころだし、拠点に戻って昼飯にしようか」
「賛成」
「さっそく蛙肉を食べましょう!」
即座に反応するシオンとミレニアに苦笑いしつつ、皆で拠点まで戻ることに。
ミッチェさん先導の元、行きとは逆でオレとシオンの索敵能力によりマーシュフロッグの反応を回避しながらスムーズに拠点へと到着できた。
まあ拠点に近づくにつれて魔物除けの香木の匂いが漂ってきたらしく、シオンの表情が苦いものに変わっていくのは可哀想だったけど。
ただその問題もスヴェトラーナさんが煙をくゆらす香木に土をかけて消火したことで、サクっと解決した。
なんでも魔物除けの香木は拠点を留守にしている間か、野営で一夜を明かす時くらいにしか使わないそうだ。あとそれなりに値段もするので、節約第一だとか。
そんな話を聞いている間にもモロックとミッチェさんにより、テキパキとお昼ご飯を作るための準備が進められていく。
あらかじめあった窪みに焚き火用の薪が組み上げられていき、そこへミッチェさんによる『着火』により火を起こして出来上がり。
燃え盛っていた火が収まって安定してきたころに、モロックが焚火をまたぐようにT字の金具を地面にさして固定し、その上に二本の鉄の棒を渡す。
なんだろうと思っていると、そこへマジックバッグから出したマーシュフロッグの肉を捌いていたスヴェトラーナさんが、ちゃちゃっと切り分けた肉を串にさして手馴れた様子で並べていく。
少しすると串焼き肉から滴り落ちた脂が焚火で蒸発して、おいしそうな音と匂いに鼻孔がくすぐられる。
ちなみにうちの肉食女子達はその様子を一言も発さずに、お肉の前にしゃがんで陣取ってガン見してます。
「あとは焼けたら軽くこいつをかけて出来上がりだよ。どんどん焼いていくから食べておくれ」
『わーい』
さっそく欠食児童がごとくシオンとミレニアが焼けた串焼き肉を手に取り頬張っていく。言葉は発しないものの、その緩んだ顔を見る限り美味しさが伝わってくる。
かくいうオレもお腹が空いているので、焼けた一本を頂いて実食。
「お肉もさっぱりしておいしいけど、このかかってるスパイスが甘しょっぱくておいいしいですね」
「お、わかるかい? うちの旦那が作ったハーブと塩のスパイスでね。宿でもこれを肉にかけて出すと人気なんだよ」
やばい。料理上手の旦那さんに胃袋を掴まれそう。でもなんかこう、ちょっと対抗意識が芽生えたのでオレもここで一つ披露しようと思う。
皆が串焼き肉を食べいる中で、オレはマジックバッグから日ごろからストックしている茶色い丸パンを取り出し、ナイフで半分にスライスして焚火で軽く炙っていく。
軽く焼き色がついたところでこれまたマジックバッグから取り出した片手鍋の蓋を開け、自作した『フォレストキャタピラーの濃液』入りのシチューをお玉で掬って上にかけて出来上がり。
ちなみにマジックバッグの中にはこれの他にも調理済みの料理がいくつか入っていたりする。
開拓村で森に狩りに行った時とか温かい物を食べるのに重宝するんだこれが。
「簡単なものですけど、よかったらスヴェトラーナさん食べませんか?」
「お、うまそうだね。ありがたく頂くよ」
受け取ったスヴェトラーナさんがシチューかけパンにがぶりと齧りつき咀嚼する。
……なんだろう。うちの肉食女子にも好評でおいしいはずなんだけど、身内以外の人に食べてもらうのってちょっと緊張してしまう。
「こいつは美味いね。シチューはもちろんだけど、野菜の他に砕いたナッツが入ってて食べ応えがあっていいね」
あ、やばい、自分で工夫したところを褒められるとじーんと来るものがあって嬉しい。
「なんかおいしそうなの食べてるー。ミナトちゃん、あたしにもちょーだい? あ、モロックもいるよね?」
「う、うん、おでもちょっと気になってたんだな」
「もちろんどうぞ」
ミッチェさんとモロックにも同じようにシチューかけパンを振舞う。
自分の作ったものを美味しそうに食べてくれるのを見ると、作り手冥利に尽きるというもんである。
あとまだあるからシオンとミレニアは急いで串焼き肉を頬張らなくてもいいってば。そんなことしてたら、
『いひゃいっ……!』
ほら、二人とも舌嚙んじゃったじゃん?
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『暗いよ臭いよ怖いよぉ……』ミレニア。
蛙肉食べたことありますが、普通においしかったです。
ただ、姿焼きを見た時はなんというか、本能が『やめとこうね?』と叫んでいました。




