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異世界転移、地雷付き。ifモード ~TS&獣人少女の異世界デイズ~  作者: 隣の斎藤さん。
第二章 行商人と町。
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二つ名。


スヴェトラーナさんの自宅兼宿屋で一泊。そこで繰り広げられるミナトとの添い寝券争奪戦。


 

 朝、目が覚めると隣で寝ているミレニアがなぜかオレの服の中に手を突っ込んでいて、ときおり「うへへぇ、柔らかいパンです……」なんて寝言をこぼしつつ胸を揉まれるという怪現象が起こっていた。


 とりあえず胸を揉んでる手をそっと外しておく。自分の顔がちょっと熱っぽい気がするのはきっと二人で密着して寝ていたからに違いない。そうに違いない。


 それにしても昨日は三人の着せ替え人形になったりして大変だったな……。


 時間をかけて着替えさせられたオレは「どこのお嬢様だよ?」みたいな服装にさせられるわ、三人はオレの目の前で平気で下着姿になって着替え始めるわ、外に出たら出たで男共からナンパされるわ……。


 ちなみに一組しつこくナンパしてくる男達がいたが、イラっときた白いワンピース姿のシオンが道端に落ちてたソフトボールくらいの石を拾い、それを握り砕いて「まだ、用ある?」と笑顔で対応したことで解決した。


 シオンが逞しすぎてオレの男としての心の立場がどんどん遠のいていく気がする。


 もう途中から開き直って屋台のおじさんに可愛くおねだりしてみたら、鼻の下を伸ばして串焼きおまけしてくれたけども。


 シオンから「そうしてれば、可愛いのに」と言われたが、中身が男子なオレとしては気持ち的に複雑な上に素直に喜べないんだよなぁ……。


 それから町を食べ歩きながら町を散策し、スヴェトラーナさんの宿に戻ってミレニアに全員『浄化(ピュリフィケイト)』で綺麗にしてもらい、全員薄手の服に着替えてそろそろ寝ようかというところで問題が発生した。


 一部屋に二つしかないベッド。否応なしに二人一組で寝るしかないわけで。


「たまには私がミナトさんとご一緒したいです!」


 というミレニアの唐突な発言があったかと思ったら、それに呼応するようにシオンが挙手をし、


「ミナトの、マシュマロボディは、譲らない」


 そんな謎の主張をしたところ、にこやかなリセッテがパンと両手を叩き、


「じゃあ、誰がミナトさんの隣を勝ち取るかぁ、じゃんけん大会ですねぇ」


 なんて提案をしたことから、なんでか始まってしまった『ミナトの隣は誰だろな選手権』。


 いやほんとなんでだろうね……。


 その勝負は先に三勝した人が権利を得るというルールで、ことさら白熱を見せた。


 三人同時ということであいこが何度も続き三人それぞれ徐々に勝ちを得ていくが、意外にも真っ先にシオンが負けてしまい自分で出したチョキの手を頬を膨らませて睨んでいた。


 最後はミレニアとリセッテの一騎打ち……となるはずだったのだが、


「リセッテ、あたしはグーを出します。負けてくれたら、朝のパンにあたしの分からハニーシロップをわけてあげますよ?」


「……じゃんけん、ちょきぃ」


 まさかの買収により、リセッテが勝ちを放棄してミレニアがオレの隣で寝る権利を得たのだった。


 ……なにがミレニアをそこまでさせるんだろうか。


 そんなわけでジト目でうらやむシオンをよそに、にっこにこのミレニアがオレの隣で寝ることになり冒頭の朝の怪現象と相成ったわけである。


 あ、ちなみにクーちゃんはと言えばカレナちゃんから「一緒におねんねしたい!」と、ぐったりしているクーちゃんを抱きしめながらつぶらな瞳でお願いされたので、快く送り出している。


 その時のクーちゃんの目はドナドナされる子牛のようだったけど。


「それにしても……目の毒だな、この光景」


 まだ厚着するほど寒くもないのでみんな薄手の服なんだけど、そのせいで身体のラインがくっきり見えてたり、女子しかいないこの空間に油断しているのか胸元のボタンをかけてなかったりと、今の自身が女の子とはいえただの高校生男子だったオレには刺激が強い。


 とくにリセッテがすごい。なにがすごいって、そりゃあ、ねえ? リセッテの胸元で寝てるシオンの顔が半分くらい埋もれてるほどだし。 


 見れば見る程妙な気持になりそうだったので、オレは一人静かに起きて着替え―――


「ミナト、おはよう」

「……おはようシオン。起きてたんだね」

「うん。ミナトの貴重な寝顔、見れるのは朝だけだから」

「さいですか……」


 なんか堂々と言われると納得してしまうのはなぜだろう。そんないいもんでもないと思うんだけど……。


 それからシオンと一緒に着替えていると、他の二人ももそもそと起き出したのでみんな一緒に一階まで下りることにした。


「おはよー!」

「…………」


 階段を下りて一階へ辿り着くと、テーブル席に座り膝の上に乗せたクーちゃんと遊んでいたカレナちゃんが笑顔と共に挨拶をしてくれる。


 まあそのクーちゃんから恨みがましい視線を送られてきたけど、気にしない。


 皆でカレナちゃんに挨拶を返して一つのテーブルに着く。


 テーブル席は全部で四席あるのだけど、いまのところ利用しているのはオレ達とカレナちゃんだけだった。


「おはようございます。皆さん、朝ごはんはいかがですか?」


 スヴェトラーナさんの旦那さんがやってきて朝ごはんを勧めてくれたので、挨拶を返して皆で朝ごはんを注文する。


 うーん、相変わらず十代半ばくらいの少年にしか見えない……。


 注文した朝ごはんすぐに届けられ、それぞれの前にメイン大皿にスープと飲み物が置かれていく。


 薄茶色のスープには野菜と肉の切れ端が入っていて、メインの大皿にはごろっとした蒸かしたジャガイモみたいなのが二つと、香ばしい匂いの薄ピンク色のチキンステーキのようなものが二枚のせられている。


 茶色や白はあるけど、焼けてもピンク色のままのお肉って初めてみたなぁ……。


「それではこれからの予定なんですがぁ、食べながら聞いてほしいですぅ」


 にこやかなリセッテが話を切り出し、食事をはじめながら皆で聞く態勢に入る。


 あ、ピンクのお肉がちょっと甘めの鶏のもも肉みたいでおいしい。嚙み切れるほどの柔らかさで、肉の間から肉汁が溢れてぱさついたりしていない。


「エルクの町にはこれから五日ほど滞在する予定ですぅ。前三日ほどを使用して私は商談や買い付けをするのでぇ、皆さんはその間自由にしてもらって構いませんよぉ」

「一人で大丈夫なのか?」

「クーちゃんさんも一緒についてきてくれるのでぇ、大丈夫ですよぉ」

「ウォン<任せろ>」


 いつの間にかリセッテの足元に来ていたクーちゃん。カレナちゃんはと見れば、まだ小さいのに厨房で旦那さんのお手伝いをしているようだった。えらいなぁ。


 リセットとクーちゃんが抜けたオレ達はどうするかなぁ、なんて思いながら口に運んだスープが薄いコンソメスープの様で不味くはないが物足りない感じがする。


 いや多分元の世界の調味料とかが優秀なせいではあると思うんだけど。


「じゃあオレ達は冒険者ギルドにでも行こうか。他の町の依頼も興味があるし、少しでも稼ぎたいから」


 意外にも塩バター味がしたジャガイモもどきを食べつつ提案すると、シオンとミレニアは特に反対もないようで頷きを返してくれる。


 元の世界のように働けば月給が約束されているわけではないので、日々稼がなければならない世知辛さよ。


 でもその稼ぎが今のところ一日で数十万とか稼げる辺り、普通の自給日給の比じゃないのでそこが救いといえば救いだろうか。 


「賛成。昨日食べた、屋台の蛙肉の串焼きは、おいしかった。自分たち用の、ストックが欲しい」

「聞いたところによると、蛙の卵も珍味でおいしいらしいですよ?」


 今日も食欲がぶれないうちの肉食女子達による要望。そしてまたも出てくる『カエルノタマゴ』というパワーワード。


 いつか見たことのある、水辺に浮かぶ透明な目玉のような小さな卵がうじゃうじゃとしている集合体を思い出して身震いしてしまう。


 いや、うん、いくらや数の子だって卵なんだし食べるんだから、偏見はよくない……よくないけど、こう、イメージ的な忌避感があるのは仕方ないよね?


 それから雑談をしながらも、リセッテがこの町やギルドについて軽く話をしてくれる。


 エルクの町は沼地の側にできた町でありその資源を中心に栄えているようで、特色として沼蛙(マーシュフロッグ)沼蜥蜴(マーシュリザード)等が食肉や素材であり、あとは沼地特有の根菜類や薬草が採取できるようだ。


 冒険者はそれらを狩猟または採取してギルドへ卸し、他へ輸出されることで町の産業として成り立っているらしい。


 あと娼館もあるらしいのだが、なぜかオレは近づかないように言われてしまう。


「……い、いや、別にそういうとこに興味があるわけじゃいよ? これでも一応……女だし……?」

「違いますよぉ。ミナトさんは女として油断があるというかぁ、娼館のお姉さん方に捕まって気づいたときにはぁ、唆されて娼婦になってそうで心配なんですよぉ」


 ちょっと見てみたいかも? という男心がバレたのかと焦り、自分のことを女だと明言するのに若干苦々しいものを覚えつつ遺憾の意を示したのだが、実は全く違うところで心配されていたという。


 あれ? オレってそんなころっと騙されそうな感じに見えちゃうの? ……シオンもミレニアも揃ってうんうんと頷くのは地味に傷つくんだけど?


 そんな話をしつつ朝ごはんを食べ終えてスヴェトラーナさんの旦那とカレナちゃんに挨拶をし、宿屋をでてそのままギルド組と商人組に別れた。


 ギルドへ向かって歩いていくと早朝から時間が過ぎているということもあり、人通りが多く露店を冷やかす人や洗濯物っぽいものを持ってどこかへ行く人など、三者三様な人たちを見かける。


 しかし人種はほとんど、というか獣人やエルフなんかをまったく見かけず、そのせいか道行く人が獣人であるシオンのことをチラ見していくのが見受けられる。


 本人は気にしてないようだからいいんだけども。……ちなみにたまにオレに向けて熱のある視線が男達から送られてくるんだけど、これはスキルの【魅力的な外見】のせいだろうなぁとなんとなく理解できるので諦めている。


 開拓村のフィビオさんのところにあった小さな手鏡で自分を見たことがあるんだけど、うん、まあ、控えめに言って可愛かった……。


 客観的に見たら思った以上に胸があるし、腰も細いし脚の曲線も綺麗でなんか妙な魅力があるし、多分元の世界でこういう子がいたらオレも自然と目で追ってしまうだろうな、と思うくらいに。


 なんでスキル選びの時にスキルポイントを残したまま時間オーバーしてしまったかな……なんて過去の自分を後悔していたらいつの間にかギルドへ到着していた。


 【魅力的な外見】に関しては、もう諦めて受け入れるしかないだろう。


 それにしてもギルドの建物は大きいな。三階建てのギルドは横幅もありちょっとした校舎くらいはあるんじゃないだろうか。


「やっぱりジュディアさんがいるギルド(仮)みたいな建物と違って、町のギルドはおっきくて立派ですねえ」

「それ、ジュディアさんが聞いたら怒られない?」

「…………ジュディアさんには内緒でお願いします」


 ミレニアはそういう迂闊な発言がナチュラルに出ちゃうから、ジュディアさんからお仕置きされるんだよなぁ。見てて面白いんだけど。


 外へ出ていく冒険者達とすれ違いつつギルドの中へ入ると、混んでいるというわけではないが数十人の冒険者達が依頼が張り出されている掲示板で難しい顔をしていたり、受付でなにやら話し込んでいたりしていた。


 五つあるうちの受付のカウンターの二つは埋まっており、見れば受付嬢さんは二十代半ばくらいの妖艶な美人さんと、十代後半くらいの巨乳で可愛い子が担当している。


 もう一つはベテランっぽい強面のおっさんなんだけど、うん、男って正直だよな。


「……ミナト? どこ見てるの?」

「いや、うん、開拓村と違って冒険者が多いなーって……」


 なんて思っていたら、不意にシオンから服の裾を軽く引っ張られてお咎めを受けたので反射的に誤魔化してしまった。


 いや、あの、美人や巨乳を見ちゃうのは男の性というか……そんな疑わしいジト目でオレを見ないでシオンさん……。


「えっと、掲示板でも見てみよう?」

「あとで、お話しよう?」

「はい……」


 誤魔化そうとしたけど通用しなかった。


 シオンからはニゲラレナイ。


 ちょっと気が重くなりつつ、どんな依頼があるのか掲示板の一つを見に行ってみる。


 開拓村と比べるのはおこがましいけど、ちょっとした雑用から落とし物の捜索やお店の手伝い、植物の採取に常設依頼と書かれた沼蛙(マーシュフロッグ)等の肉の納品等と依頼が多岐に渡っている。


 でも割のいい仕事は朝早くになくなっているのか、どれもこれも一日の稼ぎとしては物足りないものが多い。


 シオンとミレニアも一緒に掲示板を見ているけど、その表情は芳しくない。


 それとギルドに入ってから気になっていることがあるんだけど……。


「なあ、おい、あの女の子達この辺じゃ見ない顔だよな? ちょっと声かけてみねえ?」

「やめとけやめとけ。お前知らないみたいだけどあの獣人の娘、スヴェトラーナの姉御とやりあえる腕前だぞ? 今じゃ”紫電の双剣”って二つ名がついたらしい」

「マジかよ……。じゃあ、あの神官っぽい服の子とかは?」

「馬鹿、お前。あの子は魔法で回復してくれるけど、金を根こそぎ毟り取るって話だ。確か”銀貨の天使”って呼ばれてるぞ」

「……え、じゃあ、隣のピンクの髪の子は? 一番可愛いくて大人しそうだけど」

「おいおいおい、あの子こそやべえって。スヴェトラーナの姉御と獣人の子が戦ってるところを横から氷の魔法で氷漬けにして、土下座させたらしいからな。ついた二つ名が”雪女”だ」


 なんか根も葉もな……くもない会話がちらほらとあちらこちらから聞こえてくるんだけども……。


 ていうか雪女ってなんだ! なんでオレが妖怪みたく呼ばれてるの!? あと氷漬けじゃなくて雪をぶっかけただけで土下座させてなんかないんだけど!?


 シオンとミレニアがちょっとかっこよさげな二つ名と畏敬の念を抱かれているのに対し、オレはなんだか妖怪呼ばわりで普通に引かれてる気がする……解せぬ。


「あ! ちょっとあんた達、いいとこにいるじゃないか!!」


 呼び名通り、オレを雪女呼ばわりしてる男共の股間でも凍らせてやろうかとちょっとやさぐれていたら、遠くから聞いた覚えのある声が響いた。


「あれ? スヴェトラーナさん?」


 声の方に振り替えれば併設されてる酒場の一画の席にスヴェトラーナさんと見知らぬ軽装の戦士風の女の子、それに相撲取りのような体格だが顔立ちが幼い男が座っていて、立ち上がったスヴェトラーナさんがこっちに手招きしていた。


「どうする? なんか用があるみたいだし、行ってみる?」

「ん、イベント発生の予感」

「もしかしたら、おいしい依頼の話かもしれませんよ?」


 ポジティブな二人の意見もありスヴェトラーナさんの元へ向かうことにした…………んだけど、側を通る度に冒険者達から一歩引かれて『雪女だ』と慄かれるのはちょっと傷つくこの頃だった。




作者にも過去に二つ名がありました。

当時まるもっこりが流行っていて、作者の坊主頭が丸いからってついた二つ名が『もっこり』。

…………悪意を感じるんだけど!? 略すな! 前を!! そこ大事だから!!!

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― 新着の感想 ―
ミナトの争奪戦… 両側から挟まれて、弄られるのかな? そのうち「うへへ」どころか「ぐへへへへへ」(じゅるり)になるやつですね。
魅力的な外見が発動している! 効果は抜群だ! 雪女良いじゃないか、強そうな二つ名も虫除けだと思えばあながち悪くも無いと思う。 少なくとも銀貨の天使よりは良さそう
娼館のお姉さん達に唆されて娼婦になったらその勢いでトップにまで登り詰めそう。
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