リセッテの回復。
リセッテを救助して村へ到着。看護をしているときに様々な試練?とくーちゃんにミナトが身バレする。
オレがまさかの着替えや水分の経口補給等を乗り越えた頃には、シオンもギルドから帰ってきており、ミレニアが調合を終えた薬を飲むことによってリセッテの容態は安定したものとなった。
ミレニア曰く『安定した状態がニ、三日続けば大丈夫』とのことで、それからリセッテの介護で三日間ほど費やした。
主に看護はオレとミレニアが行い、シオンとくーちゃんには狩りや採取をがんばってもらうことに。
なにをどうしたのか一度二人とも血まみれで帰ってきたときには大怪我をしたもんかと、半泣きになるほど焦ったことがあった。
あとで聞いたところによると、調子に乗ってタスク・ボアーに二人同時に攻撃をしたところ、中身が弾け飛んでそれを丸かぶりしたというワイルドすぎる内容だったっけ。
そして一日三回の薬やミレニアの治癒魔法、オレが即席で思いついたハニーシロップに塩と柑橘系の果汁を合わせたスポーツドリンクもどきのおかげもあってか、二日目にはリセッテが意識を回復させて軽い食事も取ることもできるようになった。
三日目には劇的に良くなり、多少支えがいるものの自力で立って歩けるようになったのは正直すごいと思う。
元の世界で毒ではないものの急性胃腸炎を患った際には、オレは丸三日は何も食べれずにほとんど自力で動くことが出来なかったからなぁ。
そうして四日目の朝、旅装束に着替えて起きてきたリセッテは朝食を一緒に取るくらいに回復を見せた。
「皆様ぁ、この度は大変ご迷惑をおかけしましたぁ。おかげで命拾いしたことにぃ、深く感謝しますぅ」
と、食事前に何度も今回のことについて何度もお礼をされたが、本当に助かってよかったと思う。
さすがに目の前で同年代の女の子が亡くなるとか、心に来るものがあるので勘弁願いたいし。
それからお互いの紹介も兼ねて世間話をしていると、今後の動きについて話が進んでいった。
リセッテはこれからギルドや関係各所に納品ついでに遅れたことの謝罪をしてくるという。
「ウォンウォン<心配だから、僕も一緒にいくよ>」
「あらあらぁ、ありがとうございますぅ」
くーちゃん男前なセリフだけど、リセッテに抱っこされてなでなでされてる姿でまったくかっこついてないからな?
完全にペット化してるだろう、おまえ。
「あたしも一緒に行きますよ。リセッテはまだ病み上がりですから、なにかあれば心配なので。ミナトさんたちはどうします? 納品が終わったら広場でバザーを開くと思うので、見てみるのも楽しいですよ?」
「はいぃ、エルクの町で仕入れた商品が色々とありますよぉ」
「ミナト、私も見てみたい。あとついでに、フィビオさんところで、剣の制作状況を知りたい」
「ん-、じゃあ皆で行こうか。オレも知らない町の品物に興味あるし」
異世界生活を始めて三週間くらい経つけど、未だ開拓村周辺から出たことはないしね。
元の世界よりは強くなってはいるけど、一歩外に出ると命の危険がある場所に用もないのにふらっと出かける気にならない。
「わかりましたぁ。助けてもらった対価と言ってはなんですが、精いっぱいサービスさせてもらいますねぇ」
ということで、朝食後の小休憩をした後に全員で外に出ることにした。
それぞれの準備を終えてまずはジュディアさんのいるギルドへ向かうことに。
途中、すれ違う村人からリセッテが『よくなったのかい』『バザー楽しみにしてるよ』なんて暖かい声をかけられていることから、慕われているのだろう。
中には『今日もいい胸してるね!』なんてセクハラ発言した村人が、後ろから静かに迫ってきた奥さんらしき人から後頭部をしばかれたりしていたけど。
ギルドへついて中へ入るとちょうどジュディアさんがカウンターで書類仕事をしているところで、リセッテが声をかけるとすぐにこっちへ駆けよってくる。
「シオンから聞いたけど災難にあったみたいじゃないのさ。その姿を見るとよくなったみたいだけど大丈夫さね?」
「天照のパーティーとくーちゃんさんのおかげで助かりましたぁ。どうもご心配をおかけしましたぁ」
「くーちゃんさん?」
「この子ですよぉ。こう見えて人の言葉もわかるしぃ、魔法も使えるとっても賢い子なんですよぉ」
「ウォン」
リセッテに抱き上げられたくーちゃんが前足を上げて挨拶すると、それを見たジュディアさんがにんまりとした表情へと一変させ、
「よーしよし、なかなかに可愛いさね。お前もあっちで一緒に今回の収支報告と商談でもしようじゃないのさ」
「はいはいぃ、そうしましょう」
「ウォンウォ――<待ってリセッテ、なんか嫌な予感がす――>」
くーちゃんの抗議はみまなまで言えず、リセッテからジュディアさんの手に渡った瞬間にその大きな胸に挟まれてカウンターへとドナドナされていく。
どうやらジュディアさんは動物好きのようだ。
リセッテとジュディアさんの話は時間がかかりそうなので、残ったオレ達は酒場の席へと移動し、適当につまめるものと飲み物を頼んで雑談に花を咲かせた。
しばらくして戻ってきたホクホク顔のリセッテとは対照的に、腕に抱かれてるくーちゃんがぐったりしてるのはなぜか。
「おかえり。なんかいいことあったっぽいね?」
「そうなんですよぉ。次回は大きな商売を任せてもらえることになりましてぇ。それもこれも天照のみなさんのおかげですぅ」
「そうなの?」
席に着いたリセッテに聞き返すとにっこりとした笑顔で頷く。
ちなみにリセッテの膝の上におろされたくーちゃんは『ウォンウォン……<可愛がりすぎはアカン……>』と体を丸めて顔を伏せていたけど、その言葉でなんとなく分かった気がする。
「みなさんがハニーシロップの採取やぁ、魔物素材をたくさん納めてくれたおかげでぇ、取り扱う商品が増えたんですよぉ。おかげでぇ、私の利益も倍増なんですぅ」
笑顔のリセッテに言われると、オレ達が日々やってきたことが役に立っているようで嬉しい気がする。
隣のシオンやミレニアも同感なようでうんうんと小さく頷いている。
「それでですねぇ、みなさんにご相談があるのですよぉ」
「相談?」
「はいぃ。是非ですねぇ、みなさんのパーティーの仲間に加えてほしいぃ、のですよぉ」
「おお? またなんで?」
突然のパーティー加入の申し出にちょっと驚いてしまう。
そんなオレをよそにリセッテは『それはですねぇ』と話を続ける。
それによると前々から一人での行商は色々と限界を感じていたらしく、今回襲撃されたことを踏まえて改めて考えたらしい。
「ジュディアさんから皆さんの腕前や評判を聞きましてぇ、それで是非にとぉ。あとくーちゃんさんから信用できるとお勧めもあったのでぇ」
「へぇ、そんなこと言ったのお前?」
「ウォフ……<別に……>」
ちらりと視線を送るとぷいっとそっぽを向くくーちゃん。こいつめ照れよって。
しかしまあそう言われると悪い気はしない。
「友人のミレニアもいますしぃ、なにより女性パーティーというのが魅力ですねぇ。たまに男性の行商人や冒険者と一緒になるときがあるんですがぁ、身の危険を感じたりすることもあったりするのでぇ……」
「こっちが一人だと分かると悪さしようとするやつはいますからね。あたしは潰して使えなくしてやりましたけど」
そう言ってミレニアが腰のメイスをぽんぽんと叩くが、男として非常に痛そうな部位を想像してしまったのでどこをとは聞かないでおく。
しかしそうか。人気の少ない野外で女の子一人に男が大勢だとそういうこともあるのか。
リセッテ、可愛いしおっきいし…………あれ、なんだろう、隣から無言の圧力を感じるけど振り向くと怖いからやめとけとオレの守護霊がささやいてる気がする。
「え、えーっと、オレ達は冒険者だけど、行商の方はいいのか?」
「私も弓矢の腕は多少ありますし、ご迷惑はおかけしないかとぉ。行商の方は皆さんの予定が合えばご一緒出来たらというくらいで、基本的にはくーちゃんさんが付いてきてくれるみたいなので大丈夫ですぅ」
聞けばリセッテの体調がよくなってからくーちゃんとお話して、パートナーになることを告げられたらしい。
まあくーちゃんの子狼とはいえ魔物だし、一匹でいるよりは誰かといた方が安全だろうとは思うけど。
「うまくナンパしたもんだな、くーちゃん?」
「ウォルウォウ!<ナンパ言うな! 心配だっただけだ!>」
「うふふぅ、ありがとうございますぅ」
立ち上がって吠えるも、なでりなでりされてるせいかまるで威厳がないぞくーちゃん。
それにしてもリセッテが仲間になる、か。
「シオンとミレニアはどう思う? オレとしてはありだと思ってるんだけど」
「私も、特に異論はない。遠距離攻撃と商人は、RPGじゃ貴重」
「あたしも賛成です! 相変わらず言葉は分かりませんが、くーちゃんも加入するのはいいことだと思います!」
というわけで、とくに反対の声もなくあっさりと新たな仲間がパーティーに加わった瞬間だった。
「じゃあこれからよろしく、リセッテ」
「こちらこそぉ。ということでぇ、ジュディアさーん! うまくいきましたよぉ」
あれ? なんでここでジュディアさんの名前が? というか、呼ばれた当の本人がすごい笑顔でこっちに来てるんだけども?
「こっちがパーティー加入に必要な書類さね。で、こっちが天照に調度いい護衛と運搬の仕事があるんだけど、受ける気はないさね?」
まるで見計らっていたかのようなタイミングで書類をテーブルに置き、オレ達にウインクしてみせるのだった。
タイトル『ありがとうございますぅ』
いよいよこれで天照のパーティーメンバーが集まった感じです。
昔、母親の実家にいた猫をまさに猫可愛がりしてお腹に顔をすりすりしていたら、へそ天しながら『ウウウウゥゥゥ』と、言い加減にしとけよ?みたいに猫パンチ連打されたことがあります。
それがまた可愛い……!(病気)




