リセッテの救助。
くーちゃんの回想終了! みんなでリセッテを助けに行く。
街道、というには踝ほどの長さの雑草が生え放題になっている獣道からちょっとはマシになった? 程度の道を先頭を走る元クラスメイトのクガヒサ、もとい現子狼のくーちゃんの後ろをシオンとミレニアと一緒に追っていく。
大人が二人両手を広げたくらいある道幅だが、樹木の枝葉が無作為に伸びているせいで実際より狭く感じる街道をひた走る。
すると子狼のくーちゃんが途中でその歩みを止めてこちらを振り返り、くいくいと森の中を顎でジェスチャーしてくる。
「ウォンウォン<ここから森の中に入る>
ウォフン、ウォウォン<魔物もでるけど、ついてこれるか?>」
「余裕」
「舐めるなよ? これでも森で狩りとか素材集めしてるんだからな。ミレニアもついてこれるよね?」
「もちろんです! リセッテを助けるためにがんばりますよ!」
三人の返事を聞いた子狼のくーちゃんが街道の横合いから茂みを飛び越えて森の中へ入っていく。
オレ達もそれに続き通れそうな茂みを越えて後を追う。
後を追うのだけど、追いたいのだけど、どんどんとその差が開いていく。
子狼のくーちゃんは別として、なんでシオンも樹木が乱立したり木の根で高低差があるような悪路をスイスイ走っていけるのか。
はたからみると走ってる姿が猫のようなしなやかな動きで凄い。
「ひぃ、ひぃ、なんでシオンさんはあんなに早いんですか!?」
ミレニアもおんなじことを思っていたらしい。
ちなみにオレはと言えば、シオン並にとはいかないまでも少し遅れる程度の走りが出来ていたのだけど、ミレニアが早々に脱落しかけていたので今は手を繋いで一緒に後を追っている。
前を走る二人の姿が小さくなっていくけど、『索敵』をしながら向かっているので見失うことはないだろう。
あるとすれば成り行きとはいえミレニアと手を繋いでいることで発生している、オレのこの気恥ずかしい気持ちが伝わっていないかなんだけど……。
なんで女の子ってこんなに手が小さくて柔らかいんだろうな……。
「ミナトさん! 絶対に手を離さないで下さい! 私、置いてかれる自信がありますから!!」
うん、半泣きになっているミレニアの顔から察するに、この調子ならばれることはないだろう。
なんてことを思っていたらオレの『索敵』の前方でゴブリンっぽい魔物の反応がひっかかった。
しかも先行している二人の進路上に二匹。
「シオン! くーちゃん! 前方に魔物の反応が――――」
しかしオレの注意喚起の言葉はくーちゃんの前方が一瞬光ったバチンという音と、シオンの華麗なる後ろ回し蹴りが作り出した鈍い打音により最後まで紡がれることはなかった。
少し遅れて二人の後を通りがかった場所には焦げ臭くなったゴブリンと、首が曲がってはいけない方向に曲がったゴブリンの二匹が力なく横たわる姿が。
「はっはっ、今は急いでいるので、魔石が取れないのは、少しもったいないですね、はっはっ」
そしてこのミレニアの逞しい発言である。
しかしお亡くなりになったゴブリンを見ても『あの二人凄いな』とか、ミレニアの言葉に内心同意しているあたり異世界に馴染んでいる自分を感じなくもない。
オレもいつの間にか逞しくなったもんだ。
それからしらばらく走り続けていると、先行していた二人の走りが途中で緩やかになり幹が太く大きい木の前で足を止める姿が見えた。
少ししてオレとミレニアもそこへ到着すると、内側に向けて大きく窪んでいる大樹の根元には明らかになにかを隠すためなのだろう、複数の枝葉で覆われていた。
「ウォンウォン!<リセッテ、助けを呼んできたぞ!>」
中から返事はないが、『索敵』には確かに弱々しいものの人の反応がある。
あとくーちゃんが木の枝をどかそうと頑張ってるんだけど、小さい体格のせいで作業が遅く見ていてもどかしい。
「一応周りに反応はないけど、シオンとミレニアは警戒を頼む。ちょっと手伝ってくるから」
「ん、わかった」
「任せてください!」
二人の返事を受けてオレも木の枝の除去作業に参加するとほどなくして取り払われ、そこには一人の少女が苦し気に横たわっている姿が見えた。
ポニーテールの薄紫色の髪にエルフ特融ともいえる長い耳をして、旅人風の装束を見るにミレニアから聞いていた特徴からしてこの子がリセッテなんだろう。
ただ今は悠長にしてる暇はない。リセッテの呼吸が見てわかるくらいに浅く、顔色もだいぶ悪い上にさっきから呼びかけてるくーちゃんの声になにも反応していない。
「ミレニア! リセッテの様子がだいぶ良くない! 治療の準備をしといてくれ!」
「は、はい! わかりました!!」
後ろを振り返りミレニアに持っていた魔法鞄を渡し、木のうろは深いものの高さがないためオレが入って直接連れ出すのは難しそうだったので、『魔操糸』にて両腕の黒糸を伸ばしてリセッテの身体に巻き付けてゆっくりと外へと運び出していく。
「ミナトさん! この上に寝かせてください!」
ミレニアの側には地面に毛皮のマットが敷かれていて、そこにそっとリセッテをおろして黒糸を解いて回収する。
さっそくミレニアがリセッテの額に手を当てたり、太ももにある痛々しい傷口に水や薬をかけたりして治療を始めていく。
しかし治療しているその顔は浮かないままだ。
「リセッテの衰弱が激しすぎます…………それにこの矢傷で化膿した毒が身体に巡っていてかなり危ないです………」
「ウォウォン!?《助かるのか!?》」
「くーちゃんが助かるのかって」
「もちろん助けますよ! あたしの大事な友達ですから! ただ、いま持ってきてるのはあくまで応急処置用の薬しかないんです……。
村に戻ればそれなりの薬はありますけど、それまでリセッテの体力がもつかどうか……」
涙を浮かべて叫ぶミレニアだけど声に力がない。
ここまで来るのに走り続けたとはいえそれなりに時間がかかっているので、重体のリセッテを慎重に運んで行こうとすればかなりの時間がかかるだろう。
誰も言葉を発しない沈黙が重苦しい。
このままだとほんとにリセッテが死んでしまう……。
人生ではじめて目の前で人が死にそうになっている現実に直面し、息が詰まるような感じがして自分の心臓の鼓動がどうしようもなく大きく聞こえてくる。
……ダメだ、考えろ、まずい時にこそ思考を止めるとなと『胸のサイズが寂しい彼女(現奥さん)に巨乳系の大人の本が見つかった時に許してもらう言い訳』を思いっきり頬にビンタの手形をつけて語っていた従兄も言っていたじゃないか。
…………なんか今になって考えたらしょーもない従兄の言葉を思い出して、ちょっと冷静になれた気がする。
オレ達が持ってる使えそうな手札はなんだ? オレは『魔操糸』のスキルにシオンはその身体能力、ミレニアには回復系の『光魔法』があってくーちゃんは……えーっと、後で考えるとして!
…………おし、かなりパワープレーになるけど、なにもしないよりはマシな筈だ!
「皆! ちょっと聞いてほしいことがあるんだけど……!」
意を決してオレはみんなに考え付いた方法を話してみるのだった。
ちなみに大人の本の下りは知り合いから愚痴られたノンフィクションを参考にしてます。
年上で姉系スレンダーな彼女に、年下で妹系巨乳な大人の本を見つけられて三日ほど存在を無視された知り合い曰く、
「彼女が好きなことと、好みは違ってもいいと思うんだ……」
とのことでした。




