笹森 久賀久の場合①
小狼の正体がついに……!
僕の名前は笹森 久賀久。
修学旅行中に、突然のバス事故により命を落としてしまった一人だ。
まあ一人って言う表現は、僕以外にも一緒に乗っていた他のクラスメイト達も同じ目にあっているから。
しかし人生というのは数奇なもので、事故にあって命を落として終わりではなく、自称『悪い邪神じゃない』と語る神様から、異世界転生へのキャリアパスを貰えたこと。
どうやらゲームのように自身の容姿や能力をカスタマイズして転生できる模様。
「おっしゃあああああっ!」
誰にも聞こえないみたいだけど、思わず叫ばずにはいられなかった。
なぜなら小学校から今まで、前ならえの時に常に最前列に甘んじいた低身長によるコンプレックスを克服できるチャンス!
もう『小さくて可愛いから小学生みたい』という理由で『くーちゃん』と呼ばせてなるものか!
あと『怒ってもチワワみたいで可愛い』とか言って頭を撫でるのはやめろよ女子!
…………なんて思っていた時もあったけど、現実は厳しかった。
思い描いていた身長になるにはポイントが多すぎる。
剣と魔法の異世界で身長は伸びたけど、能力がしょぼんだと生きていける気がしない。チートまでは行かなくても、並の冒険者くらいの実力は欲しい。
そしてある項目を見て思った。
エルフやドワーフ等といった種族に変更できるなら、ひょっとして他のもいけるのでは?
僕は思い切ってその旨を邪神に伝えてみたところ、
「へー、君は奇特なものを望むんだね。別に構わないよ。そういうのも転生と呼べるからね」
まさかの気軽な承諾が返ってきて、種族の項目を改めて見てみると僕が望んだモノがそこにはあった。
小さい頃に教育番組で見て以来、その格好いい姿と逞しい生き方に感銘を受けて密かに自分自身もそうありたいと目指していたもの。
一度人生を終えて二度目の人生を選択できるのというのだから、せっかくの機会だし僕はその種族に決定した。
さて、あとはスキルを選ぶのみだ。
僕はゲームするにしてもまずは説明書を熟読する身長は。まずはこのヘルプを取ってじっくりとスキルを選ぶとしよう。
それからしばらく苦悩しながらもスキルの取捨選択を終え、邪神の『さてさて、みんな出来たかな~~? そろそろ転移するよ~。転移時点で使ってないポイントは僕が適当に振り分けちゃうから要注意!』の言葉にて異世界へと転生していくのであった。
☆
邪神による異世界転生の後、視界が戻るとそこは辺り一面が緑の葉が生い茂る木々に囲まれた場所だった。
森だ。僕知ってる。ラノベでは割とありがちな転移スタート先。
ただスタンダードな転生じゃないとすれば、僕のこの姿だろう。
視点はかなり低くなったものの呼吸するだけでわかる鋭くなった嗅覚に、細やかな音まで聞こえる耳。
そして大地を踏みしめるのは四本の足で、お尻についている尻尾はバランス感覚を保つのに最適である。
そう、何を隠そう。僕は人間だったのを辞めて、憧れを抱く一匹の狼へと変貌していたのだった。
なんだか四つん這いでハイハイしてるような違和感があるものの、これは動いていくうちに慣れていくことだろう。
僕は改めて憧れの存在を確認するために、自分自身の手足を見つめ、見つめ…………え?
「ウォウォン!?(なんで体毛が黄色と黒の虎柄なの!?)」
しかもなんか思ってたよりも手足が短い気がするし、鳴き声もなんだかペットショップで聞いたことある子犬っぽい感じがするよ!?
え、あれ? 僕としては白や黒の体毛をした大人の狼を想像していたんだけれども!?
は! ステータスを見れば何かわかるかもしれない!! かもん、ステータス!!
名前:クガヒサ
種族:魔狼
※幼体からのスタート。頑張って大人を目指してねくーちゃん。
状態:健康
スキル:【ヘルプ】 【毒の爪Lv1】 【毒の牙Lv1】
【巨獣化Lv1】 【状態異常耐性Lv1】 【頑強Lv1】
【魔法の素質・雷系】 【雷魔法Lv3】 【念話Lv2】
【自己治癒力Lv2】
幼体が原因かあああああっ! しかもヘルプをかけてみたら、いらんあだ名まで書いてあるし!!
ていうか邪神にまであだ名がばれてる!? くそぅ……プライバシーはどこいったんだ!
……しかしまあ、嘆いていても仕方ないので気持ちを切り替えるしかないか。
幸いステータスにおいては希望していたものだし、狼の体にしてくれたことには感謝しているしね。
よーし、そうとなればまずはこの身体と能力の検証からはじめてみようかな。
僕はぶっつけ本番で行動したりしない慎重派。
ということで、とりあえずその辺を走ってみる。
おお、視点が低いというのもあると思うけどなかなかのスピードが出てると思うし、風を切って走るのは気持ちがいい。
……あ、ちょっとまって。この身体で方向転換ってどうすればいいのかな?
えっと、こう、あれ? ちょっと斜めに傾いただけでくるっと転回できな…………あーっ! 曲がれない! 曲がれないよ!? ぶれえええええきっ!!
「キャウーン!(あいたーっ!)」
必死に前後の足で踏ん張ってみるも気持ちに身体が追い付かず、そのまま滑るように目の前の木に頭からぶつかってひっくり返ってしまった。
さすがにいきなり全速力からのカーブは無謀だったのだろうか。慎重派どこいった、クガヒサ反省。
なので今度は走らずにあっちこっちを軽くランニングし、曲がる練習もかねて木の周りをぐるぐるしたり。
うん、しばらく続けてみたらうまく動けるようになってきたと思う。曲がり方のコツは進行方向に身体を捻って後ろ脚で蹴る感じ?
じゃあ次はスキルをいってみようかな!
こうして僕の検証は続くのであった。
……追伸。魔法の使い過ぎには注意しましょう。うえっぷ、グロッキー……。
子犬って可愛いですよね。
だから友人の家でおいでおいでしてよちよち歩きで来てくれた子犬に、撫でようとした手におしっこされた挙句、用を足し終わったらそのまま回れ右してハウスにハウスされても怒らない。ええ怒りませんとも。




