意外な出会い。
フィビオさんの店で野営道具などの相談をしていると、外から狼のような遠吠えが聞こえてきた。
鍛冶屋兼武器屋であるフィビオさんに野営道具やシオンの新しい双剣の事で相談していたところ、外から狼のような遠吠えが聞こえてきたので急いで駆けつけた……んだけど。
そこにいたのは農具や槍などで武装しているものの困惑した村人男性数人と、その村人に囲まれてお腹丸出しでヒュンヒュンと鳴いている子犬サイズの狼……っぽい魔物。
うん、魔物には違いないんだ。『索敵』した感触で魔物って感じがしたし間違いはないんだけど…………これじゃない感がすごいというか。
「……ミナト、『看破』使ってみて」
「わかった……うっ! ……そ……だろぉ……」
そっと近づいてきたシオンに耳打ちされて『看破』のスキルを使用してみた瞬間、その驚くべき事実に思わず声を上げそうになったのを慌てて抑えた。
名前:クガヒサ
種族:魔狼
状態:空腹
種族はまさかと思うものの、ほぼ確信的ともいえるのが名前。
どう見ても元の世界の和名だし、どう考えても魔物が名乗るような名前じゃない。
極めつけはオレもシオンもその名前にばっちり心当たりがあるということ。
「ミナト、村の人を遠ざけた方が、いいかもしれない」
「ああ、うん、そうだね。えーっと…………くーちゃん! 今までどこ行ってたんだよ!」
「ウォン!? オンオンオン!!(誰がくーちゃんだっ!!)」
起き上がって抗議のように吠える子狼と同時に、またしても鳴き声と共に頭の中に響く謎の声。というかもう謎でも何でもないけど。
「あの、すいません。この狼?は、ちょっと知ってる……はぐれたペットみたいなもので、オレ達が責任もって預かるので、いいですか?」
「そうなのか? まあ見た感じ村を襲おうとしてるわけじゃなさそうだし……。そういうことなら任せるぜ」
「ありがとうございます」
とりあえずオレがそう伝えると、村の人たちは三々五々に帰っていった。
しかしまあ……色々とどうしようか、アレ。
オレが悩んでいるとシオンがすたすたと子狼に歩み寄り、その小さな体をひょいと持ち上げて、高々と持ち上げてある一点をじーっと見つめはじめる。
そしてこちらに振り向き、
「……一応、雄だね。アレは、ちっさいけど」
「最後の一言は言わないで上げてもいいと思うなぁ……」
ほら、抱き上げてもワンワンしてたのに、アレがちっさい発言聞いてから『小さい……』みたいにショックな顔して肩を落としてるから。
しかしそんなことよりも、お互いのためにもとっとと確認すべきことがある。
さすがにミレニアには聞かせられない内容のため、ちょっと離れてシオンの側まで行きくっつくようにして隣り合って小声で話しかける。
「単刀直入に聞くからな? お前、クラスメイトの笹森 九賀久だろ?」
「ウォ!? ウォウォフッ!?(わかるのか!?)」
「あ、やっぱり、笹森君なんだ。私、稲葉 紫音」
自身を指さすシオンを見て、子狼が驚いた表情を見せる。
「ウォンッ!? ウォフウォン!?(マジで!?)」
「ちなみに、私の隣は――――」
「ちょいまちっ! 大丈夫! そこは自分から話すから! …………後で」
へたれと言うなかれ……。自分が性転換して可愛い女の子になってますなんて、多少どころじゃない度胸がいるんだよ……。せめて誰にも聞かれないところでお願いします……。
「どうしたんですか二人とも?」
「あ、いや、ほんとに知ってる子かどうか確認してたんだ。うん、どうやら知ってる子みたいだし、人を襲ったりしないから大丈夫だぞ?
言うこと聞くし、ほーらほら、お手」
「ウォンウォン!(やかましいわ!)」
この野郎。ミレニアに安全アピールしようとしたのに、オレの手に後ろ脚を乗っけてくるとは……。
「あの、すみませんシオンさん、ちょっとその子のしてるスカーフを見せてもらってもいいですか?」
お? そういえば首に洒落てる緑色のスカーフ巻いてるな。
「これってどこかで見たことあるような気がするんです…………あ!」
すると子狼に近づいてそのスカーフを触ったり匂いを嗅いだりしていたミレニアが、はっとした表情になって、
「これ! リセッテのスカーフです! この独特のハーブの匂いをつけてるのはあの子しかいません!!」
おっと。意外なところで手がかりが見つかったかもしれない。
「くーちゃん、お前リセッテっていう、行商人やってるエルフの女の子のこと知ってんの?」
『!? ウォンウォンウォン!(知ってる!)』
「ん、なんか、知ってるっぽい」
「みたいだな」
「え? 二人ともこの子がなんて言ってるかわかるんですか?」
「え、えーっと、まあ、なんとなく?」
ここで頭の中に妙な声が聞こえるんです、って言ってもどうしてと聞かれると説明しきれないので曖昧に答えておく。
それよりもエルフの行商人であるリセッテの行方を知ってるみたいだし、案内してもらった方がいいだろう。
「リセッテさんの居場所分かるか? 分かるなら案内してくれ」
「ウォンウォウォン!(こっちだ!)」
シオンがそっと降ろすと子狼のくーちゃんが村の外に向かって勢いよく駆けていく。
「よし、オレ達も行こう。上手くすれば今日中にリセッテさんを見つけられるかもしれない」
「ん、なんかくーちゃんも、焦ってるみたいだし、早い方がいい」
「はい! リセッテのためにも行きましょう!」
こうして意外な出会いと共に手がかりを得たオレ達は、くーちゃんを追って村の外へと走り出すのであった。
祖父母のところで飼っていた猫。子供の頃は毎年お盆に泊まりに行くのが恒例だったのだけど、なぜかその日だけ仏壇の前に陣取って、じーっと見つめているという行動をすることが。
後で猫は霊が見えるというのを知り…………やめてあげて。そこの前で寝泊まりしてた作者の身になって。




