人の執念とは。
まさかのフォレストキャタピラーがシチューの素材だったという衝撃の事実が。
人の執念。それは得てして恐ろしい時がある。
ハニーシロップのために群がる虫達を双剣を舞うように閃かせて真っ二つにしたり、固いはずの甲殻を中身ごとメイスで弾き潰したり。
あー、またミレニアがフルスイングしたメイスでカナブンみたいな虫が木っ端微塵に……。
「ミナトさん、これで全部片付きましたよ!」
「これで、ハニーシロップは、守られた」
二人とも大変いい笑顔で報告してくれるんだけど、服や顔の各所に飛び散った虫達の緑色の体液や破片で見た目が軽くホラーだったりするからね?
待ったなしで泣いた子供がさらに泣いちゃうレベル。
オレも「お疲れ様」と労いの言葉をかけつつ、自分の笑顔がちょっと引きつってるのを感じてるくらい。
それにしてもハニーツリーを見つけてからの二人の行動には、目を見張るものがあった。
作戦としてオレが群がる虫に『凍結球』を撃ち込んで動きを鈍らせ、その隙に二人が倒していくというものだったんだけど。
『凍結球』が炸裂した後、駆け出したシオンがよろよろと飛んで逃げていく虫を次々に斬り落とし、ミレニアもバッティングセンターやモグラ叩きもかくやという程に躊躇なくメイスを叩き込んでいき、瞬く間に数を減らしていく。
おかげで二人を援護しようと魔法を構えていたオレの出番も来ることなく、十匹程いた虫がものの見事に一匹残らず倒されてしまったのだった。
「それじゃハニーシロップはオレが採取しておくから、二人は綺麗にしたら周りの警戒を頼むね」
さすがに女の子が虫の体液を浴びたままなのはどうかと思ったので、さりげなく綺麗になることをお勧めしておく。
ミレニアの『浄化』で綺麗になっていく二人を横目に、オレは早速採取のためにジュディアさんが貸し出してくれた道具である金槌と長い釘をマジックバックから取り出す。
採取方法はジュディアさんから教わっており、木の幹に金槌で長い釘を斜め下から打ち込んでいく。
コーンコーンといい音をさせながら半ばほどまで釘を打ち込んだ後、それをぐりぐり回すように動かして斜め下に傾けると、しばらくしてそれを伝ってとろりとした薄茶色の液体が流れだしてきた。
それをマジックバックから取り出したワインボトルサイズの陶器の瓶へと、こぼさないように流し込んでいくんだけど。
「「………………」」
背後から感じる甘味への期待が込もった無言のプレッシャーが凄い。
とりあえず気づかないふりをして陶器の瓶にハニーシロップを詰めていくと、三本目が一杯になったくらいで蜜の出が急に悪くなった。
ジュディアさん曰く「急に量が少なくなったらそこで蓄えられていたろ過された蜜が一旦尽きて、後は不純物の多い物しか出てこない」らしいので、ここで採取終了。
「二人とも、ここの木は終わったから次を探しに行こ……うわっ!?」
「どのくらい採れたんですか!?」
「甘味の量は、やる気の量」
声をかけて振り返った瞬間にはオレの目と鼻の先に二人の顔があって、近い近い近いっ! 男子高校生の心には刺激が強すぎるんだって!!
女子達の急接近に思わず声がうわずって、引き気味なまま代わりに指を三本立てて見せると『おおー』と二人から喜びの声が上がった。
なんだろう、オレの外見のせいなんだろうけど、二人とも距離感がめっさ近い時があるんだよな。
おかげで今のようにドキッとさせられる場面が少なくない。
そんなことを考えつつ頬がちょっと赤い自分を感じながら、道具をマジックバックの中に片付けてちょっと物欲しそうにハニーツリーを眺めてる二人を引っ張って、次を探しに行く。
それにしても……なんでこう、女の子の手って小さくてぷにすべなんだろうな……。
ちょっと邪な心を抱きながらシオンと繋いでいた手を横目で見ていたら、ばっちり目があってしまい。
「……(ニコリ)」
……うんわかった。その悪戯っぽい笑顔でオレの考えが筒抜けなのはわかったから、繋いだ手をにぎにぎしてくるのはやめようか。
初心なオレの心が恥ずか死ぬぅ……。
その後、甘い匂いと虫が群がっている木に限定して、シオンの嗅覚とオレの『探索』により三本のハニーツリーを見つけることが出来た。
採取の方もオレが『凍結球』で群がる虫を弱体化させつつ、シオンとミレニアが無双するという流れで滞りなく進んでいく。
ハニーシロップの方も無事に持ってきた瓶全部を満たすことができ、最後の木で二人とも少なくない量の味見が出来たせいか、ご満悦な顔である。
そして採取ついでに虫の羽やら甲殻やらも剥ぎ取りが出来たので、一日の成果としては十分だろうと日が落ちる前に開拓村へと戻ることにした。
※紫羽20枚(10万)、赤羽12枚(8万4千)、緑羽10枚(6万)、青甲殻10個(5万)、緑甲殻5個(3万5千)、ハニーシロップ10本(3万9千)
合計36万8千円
「すごいです! すごいです! お二人のおかげとはいえ、一日でこれだけの成果を出せるなんてなかなかないですよ!!」
色々と上手くいったことで、帰り道で話すミレニアが溢れんばかりの笑顔を向けてくる。
「いやいや、ミレニアも頑張ってくれたし。すごく助かったよ」
「えへへ」
むしろ二人のように肉体労働ではなく、魔法一発撃ってシロップを採取しているだけのオレの方が申し訳なく思うくらいなんだけど。
まあそこは適材適所ということにしておこう。
なんて思っていたらシオンがすすっとオレの傍に寄ってきて、
「どうしたのシオ、うふぁん……!」
なんでいきなり脇腹を人差し指でつっつくの!? そしてなんでちょっと卑猥っぽい妙な声出してんのオレ!?
「ミナト。私もがんばった」
「うん! そうだね! ひゃん! シオンも頑張ったよね! だから、ふぁっ! 脇腹をつつくのはやめ、ぁふん……!?」
褒めたからか、それともひとしきりつついて満足したのか、シオンはようやく満足げな顔をしたシオンが離れてくれた……。
ふぅ、なんか酷い目にあった。その後、オレ達は特に危険な魔物や動物に出会うことなく帰路に付くことが出来た。
道中「あたしもちょっとつついてみてもいいですか?」と、新しい玩具をみつけた子供のように目を輝かせるミレニアから自分の脇を守りながらも。
◇ ◇ ◇
開拓村へと戻ってきた頃には空が赤らみ始めていた。
ほんとはもう少し早く帰ることが出来たのだが、運のいい事に帰り道でオレの『索敵』にタスク・ボアーが引っかかり、肉食女子達の熱い要望により「一狩りしようぜ!」となり。
シオンによりさくっと倒され、ミレニアにより解体で内臓を取り出され、オレの魔法で冷やして『魔操糸』を使ってお持ち帰りと相成った。
「おお、立派なタスク・ボアーでねえか!」
「あらあら、すごいわねぇ」
「まま! お肉―! お肉―!」
開拓村をギルドへ向かって歩いていると、村の人から少なからずオレ達への称賛の声がかけられる。
なんだか面映ゆい気持ちになる中、ミレニアは慣れたように手を擦り愛想を振りまいていたけど。
ジュディアさんから後で聞いたことだけど、実は開拓村で安定したお肉の供給というのは難しいらしく、オレ達が転生初日で仕留めてきた大型のタスク・ボアーは村人にとって大変ありがたかったのだという。
ギルドから店舗等に卸された後、残った切れ端だったりするお肉が村人に渡るようだ。
それを考えたら自分の中で人の役に立ってるんだなぁと充足感が湧いて、ちょっとによによしてしまう。
「あ、私お肉どうするかジュディアさんに聞いてきますね!」
そう言い残してミレニアはパタパタとギルドへ向かって走り去っていった。
元気だなぁと後ろ姿を見送っていると、シオンがオレのすぐ側によってきてさりげなくその腕を絡めてくる。
急に感じる柔らかな二の腕と温かい体温に、思わず身体がビクリと緊張してしまう。
だって初心だから仕方ない……!
「喜んでもらえて、よかったね」
「う、うん、そうだね!」
さらに押し付けられたシオンのたゆんの感触に、オレの声も上ずっちゃうよ。
しかし異世界に来てからのシオンがやけにスキンシップに積極的なんだけど、こんな子だっただろうか。
「……ちなみにミナトも、喜んでる?」
「……なにを?」
「ナニを」
悪戯気な表情で微笑むシオンは確信犯だよね!?
……あーもー! ほんとにこんな子だったかなぁ!?
「……ご想像にお任せします」
「んふふ、そっか」
イエスと答えるのが恥ずかしいので誤魔化したんだけど、シオンには嬉しそうな顔をされますます腕とたゆんを寄せられてしまった。
「シオンさん、くっつきすぎでは……?」
「問題ない」
「……ですか」
なけなしの抵抗も無意味だった。
うん、諦めが肝心って言葉ってこういう時の為にあるんじゃないかな。
もうどうにでもなれと開き直り、このままオレはギルドへと向かうのだった。
尚、ジュディアさんからお肉をギルド裏へ持っていくようにと伝言をしにきたミレニアにこの姿を見られ、
「あ、なんか楽しそうなのであたしもやりたいです!」
「ひゃい!? なんでぇー!?」
と、なぜかシオンとは反対の腕に抱き着いてこられ、オレは妙な奇声を発してしまうのだった。
「やっぱり、ラッキースケベのスキルが……」
「…………ノーコメント」
最近ちょっと否定できなくなってきたこの頃である。
ブックマーク・いいね・感想などをお待ちしておりマックス。
あと文体をちょっと変えてみました。
はじめた食べた蜂の子は…………クリーミーな柔らかいグミって感じでした。ただ二度目はいいかなと思いましたまる。




