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王都にて その一 再会

(すごいな…俺が住んでいた街とは大違いだ)


横浜の高層ビルとは違い、煉瓦の建物は美しい色に塗り分けられていた。海外には行った事は無かったが、ヨーロッパはこんな感じなのかも知れない。


「早くしてよー」

「ああ…」


俺は涼子達に急かされて、石畳の上を歩き始めた。ここは自分がいた世界のヨーロッパじゃないし、ここに観光に来た訳でも無い。


「そう言えばジョージさんの用事って…」

「村の住人が増えた事の報告だよ」


ジョージさんに向けた質問に代わりに答えたのはリリィだった。村に関する報告をしっかりと行わないと行けないのは、俺達の世界と同じみたいだ。


「それよりも!私は汚れを何とかしたいの!」


仁子はオークの血で汚れた髪や服を何とかしたいみたいだった。まぁ臭いもかなりキツイし、その気持ちは嫌というほど分かる。


「そうですね…じゃあまず公衆浴場へ行きましょう」


公衆浴場か…ライロ村には全ての家に風呂が用意されていた。王都と言っても、全ての家に風呂がある訳では無いのかも知れない。


「ライロ村には全ての家に風呂があるみたいでしたけど、それって特別なんですか?」

「ああ、この王都レウニアスにだって一部の家にしか無い。工事とかは、結構大変だったんだ」


ライロ村の村長であるジョージさん…かなりの金持ちみたいだ。何をしていたのか聞きたかったが、それは後でも良いだろう。


レウニアスの公衆浴場はかなり大きな建物だった。いつくかの換気口がある煉瓦造りの建物で、外壁は白く塗られていた。


「一応言っとくがちゃんと男女に分かれている。安心しろ」

「はい、じゃあ入って来ますね」

「私も入ろっかな…」


仁子はさっさと女湯に向かって、涼子も入るかどうか迷った後、そちらへ向かった。俺はまだ風呂に入る気にはなれず、リリィ達も今は気分では無いみたいだ。


「俺も建物の中で休みたい…」

「そうですね…流石に疲れました」


俺達も公衆浴場の建物の中で、休憩する事にした。エントランスには、歌劇などの出し物の広告が多く貼られていた。


(異世界の文字のはずなのに…)


本来であればそれは、俺には理解できないはずの異国の文字だった。しかし、今の俺にはその文字は理解できる物になっていた。


「どの歌劇も、物騒な内容ですね」

「確かにそうかも知れませんが…」


どれもこれも国家間の戦争を題材としたもので、それを基にした英雄譚みたいだ。俺がいた世界では、ここまで戦争を元にしたものは多くなかった筈だ。


(まだ風呂に入ってそうだよな)


俺達は仁子達が風呂を出るのを気長に待つ事にした。村から持って来ていた葡萄の果汁…要するに葡萄ジュースはまだ冷えてて美味しかった。


その少し前、脱衣所らしき所で服を脱いでサンダルを履いた仁子だったが、想像以上の広さに驚いていた。水温ごとに分けられた二つの浴室はとても広く、当然ながら湯船も広かった。


(ここで体を流すのね…)


当然ながらシャワーなどは無かったが、体を洗う為の湯はあった。それを使って仁子は、身体ついていたオークの血などの汚れを洗い流した。


「早く入ったら〜」

「うん…」


4年間こちらにいた涼子は、すっかりこの国の文化に馴染んでいる様子だった。微温室の風呂に浸かる彼女は、心地良さそうにくつろいでいる。


「ちょっと熱い…」

「このくらいが良いんじゃん」


涼子にとってちょうど良い水温は、仁子にとっては熱すぎた。仁子は昔から熱い風呂が苦手で、昔からぬるい湯を好んでいた。


「それにしても大きいね…」

「…え?」


仁子は気にした事が無かったが、彼女の胸は同年代の女子と比べても大きめの部類だった。対して涼子の胸は普通のサイズよりも小さく、それを密かに気にしていた。


「私はそろそろ出るけど…」

「先に出てて…もうちょっと入ってる」


仁子にとっては浴場は暑く、十分すぎるほど体が温まっていた。涼子はまだ風呂に入っていたかったので、仁子が先に出て待ってる事になった。


「きゃっ」

「大丈夫?…のぼせてるの?」


倒れそうになった仁子を助けたのは、彼女より背が高い女性だった。彼女も仁子が倒れそうになった事に驚いていて、心配そうな目線を向けている。


「その、ありがとうございます…大丈夫ですから、心配しないで…」

「気をつけてね」


仁子はそのまま脱衣所に行き、念の為用意しておいた別の服に着替えた。オークの血や肉片で汚れた服を袋に入れて、レイジ達の所へと戻った。


その後も俺達は涼子を待ったが、中々出て来なかった。長風呂なのかも知れないが、それにしても長く感じた。


「流石に不安だな…」

「なぁ、見て来てくれないか」


ジョージさんも涼子がどうしているか、不安みたいだ。だが、流石に男が堂々と女性用浴室に入る訳にはいかない。


「見てくるね」

「おああぁー?!」


そう言ってリリィが女湯に向かおうとした矢先、涼子の悲鳴が聞こえて来た。俺はすぐに立ち上がって、女湯の脱衣所に突入した。


その少し前、涼子は十分に風呂で体を温めてから風呂を出た。脱衣所に戻った直後に、何者かに身体を抑えつけられた。


「ぐえっ?!」

「動かないで」


涼子の体を抑えつけているのは、既に服を着ている女性だった。先程、のぼせていた仁子を心配していた女性である。


「…ハーイ、コトちゃん。取り敢えず服を」

「ふざけないで」


コトちゃんと呼ばれた女性は、涼子を抑えつける力をさらに強くした。その結果、涼子の体の妙なところに力が掛かってしまう。


「おああぁー?!」

「涼子‼︎大丈夫か?!」


涼子の悲鳴を聞きつけたレイジ達が女湯の脱衣所に入って来た。彼らを咎める者はおらず、ある客は涼子と彼女を抑えつける女性を指さした。


「止める勇気が無くて…」

「任せて下さい!」


リリィはすぐに涼子の方へ向かい、俺もその後を追った。こんな場所で暗殺でも無く堂々と殺人をする事は無いだろうが、涼子に何かあっては俺も困る。


「その人を離して‼︎」

「っ…」


涼子を抑えつける女性は顔を上げてこちらを見た。彼女の顔は、俺にとって見覚えのあるものだった。


「…レイジじゃん」

「え…コトねーちゃん?」


白河琴音、その女性は俺にとって幼馴染と言える人だった。彼女は大学に進学して一人暮らしを始めて、それから疎遠になっていたが…


「誰か…服持って来てくれない?」


次回は最後に登場したキャラクターの紹介も兼ねた回になります。


用語集

王都レウニアス 

オリヴェル王国の王都。人口密集地であり異国情緒溢れる建物が並んでいる場所もあるが、裏通りには怪しい物が売られている店もある。


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